ルールを教えながら戦術を考えていく

 あれから日々宮さんにバックギャモンのルールを教える日々が続いた。

(日々宮さんだけに? ごめんなんでもない)

 僕のボードは大きいから持ってこずに他のクラスメイトのを借りながら一緒にって感じで。

 初期配置・ポイント駒を置く場所に二個以上固まっていたらそのポイントへの移動を妨害できる・ダイスがゾロ目だといつもより倍の四回動かせる・でも出た目は絶対に動かせない場合以外は必ず動かさないといけない・ゴールや進行の方向・ヒット相手の駒を弾くされたチェッカーの復帰方法・三角形の色違いは互い違いなので出た目の偶数か奇数かで移動距離がすぐわかる・ベアリングオフ駒をゴールさせるのやり方などなど……庄妙さんとの戦いはシングルマッチ1ポイントマッチなのでダブリングキューブ倍数表示サイコロは使わないから、それは存在だけ教えておいた。庄妙さんだったらダブリングキューブの駆け引きも上手そうだけど……。

 日々宮さんにルールを教えながらも庄妙さんが戦う姿も観戦。観戦しながらも日々宮さんにあそこはああだからこうなんだよと解説を挟んだ。

 日々宮さんは一度覚えるとなったらなかなかの集中力で、ルールはめきめき覚えていった。

 そして試合前日の水曜日になると、僕のアドバイスがなくても一人でゲーム開始から終了までできるようになっていた。

 まだ動かし方を覚えたばかりだからか得意技みたいなのはないけど、もしかしたらそれがかえって庄妙さんをやっつける可能性を…………い、いやぁ厳しいと思うけど、でもそれもまったくないとは言い切れないのがバックギャモンのおもしろいところかな。

 日々宮さんにバックギャモンのルールを教える傍ら、僕は庄妙さんが戦っているのを眺めながら戦術を考えてみた。

 速攻戦術はボロが出たところをたたかれて無理。プライミングゲーム壁で封じながら進攻は陣形を整える前にたたかれたりすきが出たところをうまいこと飛び越えられて無理。結構善戦したように思われる津山くんのクローズアウト作戦も、完全に整う前に逆に行動を抑えられて気づけば負けていた。

 一体どんな戦術を取れば庄妙さんに勝てるんだろう……。たくさんの挑戦者の戦術を見てきた分庄妙さんの戦い方もそれだけの数を見てきたけど、こだわった得意技みたいなのがなくて、相手の陣形の弱点を突くような戦術を取っていた感じかなぁ。ダイスの目も堅実にいろんな目が出ても対応できるように陣を敷いていっているように見えるから、本当にすきがない。

 ……実は。あれだけ僕は庄妙さんに勝ち目がないと言っていたのに、いざ戦うことが決まったら、ここまで庄妙さんをやっつけたい気持ちになっているのは……これはただのうわさとかにすぎないんだけど……もし庄妙さんに勝てたら、なにか言うことを聞いてもらえるっていう話をちら~っと聞いたんだ。

 別にそんなのどこにも書かれてないし、庄妙さん本人から聞いたわけでもないし、話してるのはお調子者系のキャラとかだからあんまり信憑性しんぴょうせいはないけど……でもそれでも、もし、僕が勝ったことでなにか特典をもらえるとしたら……なんとかして庄妙さんともっとお近づきになりたい。

 特典のことはともかくとしても。もし僕が負けたら他の挑戦者たちと同じ負け組だけど、もし、もし、もぉーーーし勝つことができたら……庄妙さんは少しは僕のことを覚えてくれると、思うし……た、たぶん。

 それに僕だって中学二年の男子だ。バトルは勝ちたいに決まってる。

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