短編33話 数あるVS激強おとなしギャモラー
帝王Tsuyamasama
短編33話 数あるVS激強おとなしギャモラー
二年三組の教室内で多数の学生たちが見守る輪の中心にいた女の子、
「だーーー!! 負けたぁーーー!!」
今日もこの教室に敗北者の叫びがこだました!
「強すぎじゃね?」「圧勝だったな」「
今日の挑戦者は
先制攻撃を仕掛けて相手が陣形を立て直す前に一気に勝利へ突き進むような戦い方が好み。
たしかにはまれば相手になにもさせずに勝つことができるけど、うまく移動をせき止められて効率的に陣形を整えられちゃったらもうなすすべがない状態だった。
「明日は
今日も二年三組は、ボードゲームであるバックギャモンで盛り上がっていた!
ブームの火付け役となったのは
バックギャモンボードって聞くと板状のって感じのを想像するけど、折り畳んだ状態はカバンかなにかに見える。取っ手あるし。駒やサイコロなど遊ぶ一式のもここに収まるんだ。サイコロを振るときに使うダイスカップがあるのもバックギャモンがかっこいいところ。
そもそもバックギャモンっていう名前すら聞いたことがないという同級生ばかりだったけど、実際やってみるとおもしろいっていうことでクラスの垣根を越えて学年巻き込んでのブームが始まった。
おじいちゃんが持っていたボードを持ってきただとか、携帯用の小型ボードを買ってもらったとか、紙と鉛筆で手作りしよーぜーとか様々な形でボード持ちが増えていった。少数ながらもともとルール知っていました派もいた。
実は僕、
おじいちゃんがバックギャモンを好きで、小さいときから正月やお盆に会うと僕は必ず対戦していた。
小学校へ入学するときには木製のギャモンボードをもらって、今でも友達と対戦するときはそれを使う。少し大きいから学校には持ってこないけど。
お父さんやお姉ちゃんもバックギャモンができて、おじいちゃん同様何度も対戦してきた。
でもバックギャモンってテレビでは放送されないしマンガやアニメや映画でも見たことないから、親戚の間でしかできない遊びだと思ってた。
ところが好人くんが広めると、意外とルールを知っている同級生がいるということがわかったし、知らなかったけどやってみようってなった同級生も結構いた。
(……庄妙さんがあんなに強いなんて……)
ブームがやってくるまではただのおとなしい女の子という感じだったのに、ちょっと対戦をしたらめちゃくちゃ強いっていうことで、男女関係なく勝負を挑むようになっていった。
おまけにいざ戦ってみたら負け知らずの庄妙さんで、いつしか対戦が予約制になり、明日は
給食の時間と掃除の時間の間にある休み時間……この教室は戦場と化す。
そう。外側は白に小さなレインボーの横線が入ってて、内側は青色の生地に白とピンクの三角形が並び、左のボード中央にはなにかの日付・右のボードの中央には庄妙さんの名前が、それぞれ黄色い英語の筆記体で書かれた、このかっこいいバックギャモンボードを中心にしてっ。
「実琴三は勝負しないの?」
「勝負する前に予約が埋まってるみたいだし……それにあんなに強いんじゃ勝ち目ないよ」
今日の勝負が終わって学生が散り散りになろうとしている中、声をかけてきたのは
僕は女子とあんまり遊ぶことがなかったけど、それでも小学生のときから遊んでる仲の女子。ショートカットで元気な感じかな。
「ずいぶん弱気ねぇ。他の子と戦ってるときの勝率はそんなに悪くないんでしょ?」
「庄妙さんは別次元だよ……」
まるで計算され尽くしたかのような陣形の整え方。まるで出る目を予測しているかのようなダイスの引き。まるで相手の戦術を見透かしているかのような試合展開……。見ているだけでわかる。僕の平凡な戦い方ではまるでかなわない。
田真野くんはがっくり肩を落としながら自分の分の駒を片付けてみんなによしよしされていた。僕が戦ってもああなるんだろうな。
「ねぇ字梨ー」
日々宮さんが庄妙さんに声をかけた!
庄妙さんがバックギャモンボードを閉じながら日々宮さんの方に向いた。
「実琴三と対戦してみたいと思わない?」
「うぇ~っ?!」
僕は驚いて日々宮さんの方を向いた。観戦者は散り散りになっていて、田真野くんも他の男子によしよしされつつ戦場から離れていた。
(というかそんなことより!)
庄妙さんが僕を見ている!
(そんな真正面から見られるなんて!)
庄妙さんは……めちゃくちゃかわいい。
肩を越すさらさらの長い髪。優しい目。顔も整ってて姿勢もぴしっとしてる。
一年生のときに庄妙さんのことを知ったから、僕とは別の小学校からこの中学校に入ってきたのかもしれない。この地域にはいくつか小学校があるから。
遠目から見て一目ぼれっていうか……見かけるたびにいいなあって思っていたら、二年生になって同じクラスになれてうれしかったというかなんというかっ。
でも庄妙さんはすごくおとなしくて、全然声を出してくれない。表情は豊かなのでコミュニケーションは取れてるみたいだけど。
だから声を聞いたのも二年生が初めてだった。授業で当てられたときに答えたから。
それはもうすごくかわいい声だった。ちょっと高めでおとなしく澄んだ声。その声に教室中が注目したうちの一人に僕も入っている。
結局庄妙さんのことを遠くから眺めてばかりなのは変わらないままだったけど……そう、そこでこのバックギャモンのブームがやってきた。僕と庄妙さんの数少ない共通点だ。
できればこのブームがあるうちに庄妙さんと仲良くなりたい……って思ってるけど、庄妙さんは毎日他の人と対戦してるわけで……。
そんな庄妙さんは、机の左横にあるフックに掛かっているバインダーを見せてきた。黒色のボールペン付き。それはバックギャモンの対戦を予約するための表で、すでに今週の分どころか来週の水曜日まで埋まってる。庄妙さんの表情からして、予約する? って聞いてきているんだと思うけど、
「ぼ、僕は弱すぎて相手にならないからやめておくよ。みんながあの手この手で庄妙さんを倒そうと頑張っているのを見るのも楽しいし」
庄妙さんはそうなんだ~っていう感じの普通な表情でバインダーを両手でしっかり持って眺めている。
「いくじなしねー。対戦してみなきゃわかんないでしょー?」
「さ、さすがに見ただけでわかるよ。しかも一回や二回じゃなく何回も見てるし」
そう。このブームに乗じて僕は観戦を……というか、しょ、正直、いろいろな仕草の庄妙さんを眺めるのが楽しみでっ。表情はやや笑顔(楽しんでるのかな?)のままほとんど変わらない。
「日々宮さんが対戦してみたら? いかに強いかわかると思うよ」
「あたしルールよくわかんないし」
「そ、そっか。ってじゃあなんでよく観に来てるのさ」
「みんなで盛り上がってるだけで楽しいじゃん!」
まぁこんなに学年でなにかがブームになってること自体がすごいと思うし。
「んーでもあれかっ。せっかく流行ってるし、字梨とゲームできるっていうのも楽しそうだし、この機会に覚えちゃおっかなー?」
「本当に? すごいなぁ、こんなにバックギャモンに興味がある人がいるなんて、まだ信じられないよ」
「大げさ大げさっ」
あれ、庄妙さんももしかしてちょっとうれしそう?
「よし、あたしも覚えよっと! 字梨、戦ってくれるよね?」
ここで庄妙さんがすかさず日々宮さんを見ながらボードを両手でぽんぽんした!
(かわいいっ)
「字梨と戦うんだから、ルールは実琴三に教えてもらうよっ」
「ぼ、僕ぅ!?」
庄妙さんもこっち見てきたっ。
「あんたルール知ってるんでしょ?」
「そ、そうだけど、どうせなら強い庄妙さんに教えてもらった方が」
「それだとせっかくの対戦の意味がないじゃないっ。一度字梨と思いっきり戦ってみたかったんだ!」
日々宮さんはぐーを作って気合を入れている。
「よーし! あたし来週の木曜日に予約するー。字梨、いい?」
庄妙さんはうなずいて、ペンとバインダーを日々宮さんの方へ向けた。日々宮さんがすぐさま自分の名前を書き始めた。その様子を庄妙さんは見届けていたけど、ゆっくり僕の方に顔を向けてきた。
「え、な、なに?」
やっぱりかわいいなぁ。ずっと見てられる。いやどきどきしすぎてずっとは無理かも。
「はい! これでよろしく!」
日々宮さんがバインダーを庄妙さんの方に向け直すと、庄妙さんはうなずいた。でもそのバインダーの向きは再び庄妙さんの手によってゆっくりゆっくりゆーっくりこっちに……僕の方に向けられて?
「あらあらー? 字梨からかかってこいって言ってんじゃん!」
「えええーっ!?」
庄妙さんちょっと笑ってるし! 笑った庄妙さんかわいすぎだし!
「女の子からのお誘いを断る気ー?」
「お、お誘いって、でも勝ち目ないし……」
「勝ち目なんてあたしの方がもっとないじゃん! でも字梨は戦ってくれるんだから、勝ち目とか関係なく実琴三と戦いたいってことなんじゃないの? ね、字梨っ」
庄妙さんはバインダーを二回優しくぺんぺんした。
「でも字梨から誘うなんて珍しいね。もしかしてー……」
……謎の溜めっ。
「実琴三の実力を認めてるとか!?」
「庄妙さんの前でバックギャモンしたことないと思うよ……」
「まぁなんでもいっか! ほらほら実琴三どうすんの? 字梨からの直接のお誘いも断るっていうのかなー?」
なんか変な目で日々宮さんがこっち見てる。
(んーくぅー……みんなが見てる前で負けてる姿がさらされるのははずかしいかなぁ……でも庄妙さんからのお誘いっていうのは、確かに珍しい……というか初めてのことだとは思うし……)
あれ、迷っていたらバインダーの向きが庄妙さんの方に戻された。けどそのまま庄妙さんはボールペンを手に取って……?
僕と日々宮さんは庄妙さんの行動を眺めていた。おろ、来週金曜日の欄に名前が? 書かれて?
「ちょおぉーーーい!!」
勝手に僕の名前書かれてるしー! 庄妙さんボールペンぐーで握りながら笑ってるしーーー!!
「はい実琴三けってーい!」
「僕書いたわけじゃないのにー!」
でも庄妙さんが書いてくれた僕の名前は、とてもかわいらしくて、そして僕はどこかうれしかった。
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