第五章
第46話 窓際クランと紅の貴公子
レイラが火の魔法を使えるようになってから数日。
ミミのパーティにサポートに入ってもらったこともあり、順調に探索は進んでいた。
数日で四階層に進出し、今はユーリの位階が5に上がるのを待っているような状態だ。
四階層の大型個体であるジャイアントビッククラブはレイラが魔力を使い果たすような大魔法を使わなくても倒せるようになった。『紅の獅子』は今いきおいに乗っているといっていい状況だ。
だが、今日はダンジョンアタックは休みとした。好事魔多しという言葉もあるしな。
よく考えると、けがの治療や武器の整備などで、ほかのパーティは結構休みを取っている。うちのパーティーは戦法が安定志向のため、けがをすることもなければ武器が壊れることもない。結果、一か月以上毎日ダンジョンに潜っていることになる。このままではまずいと思ったユーリが休日を提案したのだ。
こちらには曜日という概念がないため、七日に一日を休みと設定して、その日はダンジョンに潜らない。当然、朝の鍛錬などは続けるが。
どうやらフィーとレイラは休みを取ることを考えていたが、勢いがあるうちにダンジョンに潜っておきたいという常識と、ボッチで休みはやることがないユーリのために休みの提案をしなかったらしい。
本当にいい仲間である。ユーリは心の汗をかいた。決して泣いてはいない!
レイラはミミたちと買い物に行った。フィーも王都内にいる知人に会いに行ったらしい。
そして、ユーリはというと。
「へー。以来ってこんな感じなのか」
探索者ギルドに一人できていた。
休みの日に一人で職場に来るとか、まさにボッチ極まれりだ。
まあ、本人としてはそんな自覚はない。というのも、ユーリにとってサンティア王国はファンタジーにあふれているのだ。
この冒険者ギルドもファンタジーの塊だ。ユーリとしてはよく今まで我慢したとほめてほしいくらいだ。
実は探索者ギルドには、依頼掲示板、パーティ募集の掲示板など、実は色々なサービスがある。
依頼掲示板には冒険者のように外に出て働く仕事もあれば、町の城壁修理のような仕事はもちろん、探索者としてダンジョン内でこなす仕事もたくさんある。
正直、お金には困っていないので除いてはいなかったが、依頼元が他のクランであったり貴族であったりする。こういうのを通して他のクランとつながりを持つこともできるようだ。
ユーリは休みを利用して一人でそれを見にきていた。いつも通っているのだから、ついでにみればいいじゃないかと思うかもしれない。しかし、普段は見れないのだ。普段見れない理由は。
「おい、レッドチキンがるぞ」
酒に酔った探索者がユーリを指さしてそういった。
ユーリは眉をしかめることもせず、依頼掲示板のの内容を確認していく。そう、依頼掲示板は酒場エリアの中にあるのだ。冒険者ギルドが酒場と依頼掲示板が同じ位置にあり、それをまねしているらしいが、ユーリにとっては迷惑この上ない。
ユーリは今日も大盾を持ってきていたので、それが目立ったのだろう。日本のように治安がいいわけではないため、武器や防具を持たずに探査者ギルドに来るなんて論外だが、こういうセリフを聞くと、武器を持ってきたのは失敗だったかもと思う。
ユーリの反応を気に留めることもなく酔った探索者たちは面白おかしく話を続ける。
「ついにパーティメンバーに見捨てられたのか?」
「知らねー。気になるならお前声かけてみろよ」
酔った探索者たちは酒を片手に話を続けている。
「いやだよ。パーティに入れて下さ〜いとか言って泣き疲れたら厄介だろ?」
「違いねぇ」
「「「「がっはっは」」」」
こういう話をユーリは陰口を気にしないが、レイラとフィーは結構気にする。特にフィーはかなり気にする。
そして、言ったやつに喧嘩を売っていく。
「まぁ、俺は自分のことがどう言われても気にしないんだけどね」
そう呟きながらユーリは悪口を言っている探索者を一瞥した後、掲示板に視線を戻して、内容の確認に戻った。そういうユーリもフィーとレイラの悪口を言われればケンカを売りに行ってしまうかもしれないので、人のことは言えないのだが。
知らぬは本人ばかりなり。
「へー。ミニシーワームの肉って結構な値段がつくんだな」
目についたのはミニシーワームの肉の買取依頼だった。掲示板の目立つ位置にいくつも貼ってあった。
いろいろな屋台やレストランで買い取っているらしい。ミミに手伝ってもらって持って帰ってくることはあるが、それ以上に魔石での収入が多いので気にしていなかった。
新人戦が終われば本格的にミニシーワームの肉の収集方法を考える必要があるかもしれない。
いや、そのころにはもうミニシーワームが出ない階層に行ってしまっているか。
「ねぇ。君」
ユーリがメモにミニシーワームの肉の採集方法を書きなぐっていると、ユーリの後ろから誰かの声が聞こえた。ほかの探索者とは違い悪意は感じない。
そうはいっても、話しかけられる理由が思い浮かばないユーリにとっては不審な声だ。
「ねぇ。そこの赤い大盾の君」
「?俺ですか?」
一度は無視したが、あきらめる様子はない。かたくなに無視する必要も感じなかったので、二度目の問いかけで返事をして振り返った。大盾という個人を特定する情報を付け足されてしまったのもある。それまでは人違いで済ませられるかもしれないが、探索者ギルドで、もしかしたら王都内で赤い大盾を持っているようなのは俺だけだ。
振り返ったユーリはぽかんとした顔をしてしまった。
とぼけてとかそういった理由ではない。予想外の人物が立っていたためだ。
そこには探索者ギルドには似つかわしくない赤い髪の貴公子が立っていた。
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