第45話 閑話 ミミと一緒にダンジョン

 その日、ユーリたちはミミと一緒にダンジョンに来ていた。


 階層間の転移などが五人一組なので大体のパーティは五人パーティを組む。六人目は位階が上がらないという情報もあり、六人以上のパーティを組むことはほぼない。

 ユーリたちは三人パーティなので、空いている枠に入ってもらうこともでき、ちょうどいいと思って誘ったのだ。


 メンバーが多いともしもの時に頼れるし、荷物も多く持てる。その結果、いつもは捨てて帰るミニシーワームの肉を持って帰ることができるようになった。

 ミニシーワームの肉を打った値段の半分はミミの取り分ということにした。ミミにとってもいつもは空き時間にやっている先輩探索者の手伝いに比べれば、倍以上の収入になる上、位階も上がる。いいことづくしだ。


 ユーリたちは安全マージンを十分取っているので、危険になることはほぼない。

 今も、危なげなくミニシーワームを倒し、モンスターハウスを一つ空にした。


 ミミは魔石とミニシーワームの過食部位摘出を手伝うために戦闘を終えたユーリたちに近づいていった。

 そして、自分が預かっている魔石の袋の中に入っている魔石の量を見てながら呟いた。


「ユーリたち、すごいわね」


 ミミのつぶやきを聞いてユーリは顔を上げた。


「何がだ?」


 本当にわかっていない様子のユーリを見て、ミミは呆れたように肩をすくめた。


「今までで私たちが1日で手に入れる魔石の3倍はあるわ」


 ユーリは倒したミニシーワームから魔石を取り出していた。

 そして、その魔石をミミの持っている袋に無造作にいれた。

 魔石は重さで買取価格が決まるので、そんなぞんざいに魔石を扱うものはいない。削れてしまって買取額が下がるのが嫌だからだ。

 ミミはその様子を見て、ため息を吐いた。


「やっぱりすごいわ」

「そうなのか?」


 ユーリは最後のミニシーワームから魔石を取り出し終わって立ち上がった。

 ミミはミニシーワームの過食部位を取り出しながらユーリを見上げた。


「そうよ。あんな戦い方するのはあなたたちだけよ」

「じゃあ、みんなどうやって戦ってるんだよ」


 ミミは手を止めてユーリの問いに答えた。


「どうやってって、みんなでモンスターを探して、見つけたモンスターをみんなで倒すのよ」

「みんなでって、怪我とかしないのか?」


 ユーリは驚いた顔をした。

 自分たちがそんなことをすれば間違いなくフィーやレイラが怪我をする。

 回復手段がポーション類しか持ち運べない自分たちでは、怪我すれば即撤退だ。


「するわよ。怪我をしたら我慢して戦うか、撤退するかどっちかね」

「うへー。非効率的」


 やられる前にやる。それがメジャーな戦い方らしい。

 それならば攻撃力の高い探索者ばかりが重宝されるのは納得できる。

 せっかく五人もパーティメンバーがいるのにやってることがソロと一緒なのだから。


 本気で驚いた様子のユーリを見て、ミミはあきれた様子だった。


「ユーリたちはすごいけど、私たちには真似できないのよね」

「どうしてだ?」


 ミミの発言にユーリは首を傾げた。

 ミミは訝しげな目を向けた。


「どうしてって、あなたみたいな防御力が高いメンバーがうちにはいないもの。魔法使いに弓使い、剣士に軽戦士の私だからね。知ってる中のもいい人はいないわね」

「じゃあ、ミミがやればいいんじゃないか?」


 当然のようにいったユーリにミミは一瞬キョトンとした顔をしたあと、ブンブンと手を振った。


「え?いやいや、無理無理!私は防御力は低いわよ」

「別にうける必要はない。避ければいい」

「避ける?」


 ユーリはミミの手の中の魔石袋から魔石を一つ取り出し、地面に絵を書き出した。

 ミミは止めようとしたが間に合わなかった。

 本当に非常識だ。


「俺のやってるポジションで一番重要なのは攻撃を受けることじゃなくて、敵の注意を引くつけることだ」


 ユーリは棒人間とミミズを書いた。


「ユーリは絵が下手だね」

「ほっとけ」


 ユーリは絵に矢印を書き足しながら続きを言った。


「話は戻すけど、敵の注意を引きつけてさえいれば、攻撃を受ける必要はない」

「じゃあ、どうしてあなたは受けてるの?」


 ユーリは手に持った魔石でビシッとミミの方を指した。


「いい質問だな。攻撃を受けた方が敵の注意を集中させやすい。攻撃中だと周りからの横槍って気になりにくいだろ?何度も避けられると注意が他所に向いちゃったりするからな」


 ミミは地面に書かれた絵を見ながら納得したように数回頷いた。

 頷くのに合わせてうさ耳がゆさゆさと揺れた。


「じゃあ、受ける方がいいんじゃない」

「ミミは軽戦士だから、どんどん相手に攻撃して注意を引けばいい」


 ミミは真剣な表情で地面に描いた絵を見ている。

 ユーリはその気持ち良さそうなうさ耳に向かってゆっくりと手を伸ばした。


「なるほど」


 ミミがバッと顔を上げてユーリの方を見た。

 ユーリはバッと伸ばした手を体の後ろに隠した。そして、誤魔化すように続けた。


「さ、最悪、剣士がフォローに入れるし、確かミミは光属性の召喚獣で、回復ができたよな?」

「そうよ」


 ミミは光属性の真っ白なウサギを召喚獣としている。

 ユーリも一度触らせてもらったが、もふもふで大人しくて最高だった。


「だから、自分の傷を回復しながら戦えばいい。攻撃は武器だけでも十分できるんだし」


 基本的に他者を回復するより自分を回復する方が簡単で魔力の消費も少ない。

 ユーリの作戦は合理的だった。


 ユーリは立ち上がってパンパンと衣服についた土を払った。


「何ならこれからやってみるか?」

「へ?いいの?」

「まあ、乗りかかった船だしな」


 ユーリはそう言ってレイラとフィーの方に向かっていった。


 ***


 そのあと、ミミをタンク役として何度か戦闘を行った。

 危ない場面はいくつかあったが、ユーリがフォローに入るだけでなんとかなる程度の危なさだった。

 ミミのパーティメンバーの剣士でも十分代役は務まるだろう。


 数回の戦闘を終えて休憩のため座り込んでいるミミにレイラが話しかけた。


「・・・ミミ、お疲れ様」

「怖かったー。でも、こんなに稼げたのは久しぶりだわ」


 ミミの手の中には魔石の袋があった。

 ミミが参戦してから四等分して、四分の一がミミの取り分ということになったが、すでにパーティでの1日の稼ぎを超えていた。


「ユーリくん。いい人だね」

「・・・うん」


 ミミのためにやってくれているので、最初ミミは分配を拒否しようとしたが、ユーリが先頭を後ろで見ているだけの自分の方が受け取れないという話になり、結局四等分で落ち着いた。


「あーあ。レイラとの中を取り持ってもらったお礼にと思って手伝いを買って出たのに、借りが増えちゃったわ」


 ミミは仰向けに寝転がり、レイラはその隣に腰を下ろした。


「・・・ユーリは貸だとは思ってない」

「そうかもしれないけど」


 ミミは頬を膨らませた。

 レイラがその頬をつっつくとピューっと空気が抜けていった。


 ミミは上体を起こして真剣な顔をした。


「いつか返さないとな。まだお礼も言ってないし」


 ミミの真剣な眼差しの先にはユーリがいた。

 レイラもミミの視線を追ってユーリを見た。


「・・・ユーリはお礼を言われても困ると思う」

「そうね。今は忙しそうだし」


 ユーリたちは新人戦に向けて日々切磋琢磨している。

 その様子は側から見ているミミにも伝わってた。


「でもいつか伝えるつもりよ」

「・・・むー」


 ユーリに熱い視線を向けるミミを見て、レイラは難しそうな顔をした。

 ミミは不思議そうにレイラの方を見た。


「どうしたの?レイラ?」

「・・・ライバルがまた増えた」


 ミミは一瞬、キョトンとした顔をしたあと、可笑しそうにお腹を抱えて笑った。


「ははは。違うわよ。レイラのこと応援するわ!」

「・・・ほんと?」


 可愛く小首を傾げるレイラに、ミミは優しく微笑んだ。


「ほんとほんと」

「・・・ならいい」


 レイラはそう言ってユーリの方へとかけて行った。


 一の月のレイラはもっと張り詰めた表情をしていた。

 友人の変化をミミは嬉しく思った。


「おーい。今日はこの辺で上がりにしないかー?」

「そうね。そうするわ」


 ミミは駆け足でユーリたちの方へと向かった。

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