第47話 窓際クランと紅の貴公子2

 ユーリが振り返るとそこには真っ赤な髪の貴公子が立っていた。

 いや、髪は短く、中性的な顔立ちをしているが、服は女性ものだ。

 その胸部装甲はうちのじゃじゃ馬姫とは比べ物にならない・・・。


「あぁ。君だ。よかったら僕たちとダンジョンに潜らないかい?」

「え?」


 ユーリがいらないことを考えていると、予想外に、ユーリはその貴公子にダンジョンに誘われた。

 そのセリフを彼女がいうと、傍にいた女の子が人を殺せそうな顔でユーリをにらんだ。コワイ。


「アルティナ様!そんな奴を連れていくんですか?」

「こんな奴必要ないですよ!」


 どうやらユーリを誘ったのはアルティナ様?の独断だったようで、周りの女の子たちは反対している。

 まぁ、女の子ばかりのパーティに男性のユーリを入れるのを否定する気持ちはよくわかる。


 アルティナ様?は女の子たちの方を振り向いた。

 その仕草はとても芝居がかっていたが、嫌味な様子はなく、美人って得だなーとどうでもいいことをユーリは考えていた。


「まぁまぁ。困っているときはお互い様だよ」


 そう言ってアルティナ様?はユーリの方を振り向いた。

 そして、柔らかく笑った。ユーリは彼女に背景に満面の花が咲き誇るのを幻視した。


「君、えーっと名前は?」

「あ、『紅の獅子』のユーリです」


 ユーリは軽く会釈しながらそう言った。


「はは。君も僕も新人だろ?敬語を使い必要はないさ」

「あ、そうなのか?」


 ユーリは顔を上げた。

 いきなりタメ口になってアルティナ様?はにこやかに笑ったが、周りはそうではなかった。


「あなた!アルティナ様に馴れ馴れしい!」

「まあまあ。僕が許したんだから。それと、もしかしてユーリ君は僕のこと知らないのかい?」


 アルティナ様?が取り巻きたちを収めながらそう聞いてきたので、ユーリはバツが悪そうに頭をかいた。


「あ、すまない。一ヶ月くらい前に『紅の獅子』に入って、それから忙しかったんで、まだあまり調べられていないんだ」


 実際、ユーリにとってここ数ヶ月は激動だった。

 周りのことより自分たちのこと優先でやっているのは事実だ。

 恐縮するユーリにアルティナ様?は優しく笑いかけた。


「いいよいいよ。僕はアルティナ。『金色の麒麟』のアルティナだ」

「『金色の麒麟』の」


『金色の麒麟』。そのクランの名前はユーリでも聞いたことがあった。

『金色の麒麟』は押しも押されぬトップクランだ。

 そこに所属している新人ということはそれは有名人だろう。


「それで、その有名人が一体どうして俺なんかをダンジョンに?」

「一人でダンジョンに潜れずに困っているようだったからね」


 アルティナは邪気のない微笑みをユーリに向けた。

 ユーリは特に困っていなかったが、周りからは困っているように見えたのだろう。


「ダンジョンに潜れなくて困っているなら、一緒にどうかなと思ってね。いつも荷物持ちをしてくれている子が今日はこれてなくてね。今日だけになってしまうけど、どうかな?」


 アルティナは優しく右手を差し出した。

 ユーリはやっと状況が飲み込めたのか苦笑いをした。


「あー。勘違いさせてしまって申し訳ないんだが、別にパーティを解散したわけじゃないんだ」

「あれ?そうなのかい?」


 アルティナは本当に驚いたような顔をしていた。

 その様子を見て、ユーリはこいつは本当にいいやつなんだなと確信した。


「あぁ。今日は探索が休みでな。情報収集のためにギルドに来ただけなんだ」

「そうだったのかい」


 アルティナはバツの悪そうな、困ったような顔をした。


「君たちのギルドは色々と大変そうなのに、なんというか、余裕だね」


 窓際クラン。それが彼らの現状だ。その話と彼の今の様子は一致しなかった。

 彼女の認識では、もっと必死になって、なりふり構わず頑張っているものだと思っていたのだ。

 それが、休みを取って、その上鬼気迫った様子も感じられない。


「あぁ。心配してくれてありがとう。今度の新人戦で新人王を取れればなんとかなるかなと思って・・・」


 ユーリがそういうと、アルティナの取り巻き三人が笑い出した。

 ユーリもアルティナもその様子をギョッとした顔でみた。

 取り巻き三人はその様子に気づかずにユーリをバカにす良な言葉をかけた。


「無知っておかしいですね」

「そうですね。アルティナ様に勝てるわけないのに」

「そうですわね」


 ユーリはやっと合点がった。

 どうやら、このアルティナが新人の中で圧倒的に強く、新人王を取るためには超えなければいけない壁のようだ。

 アルティナは頬をかきながら三人をたしなめた。


「みんな。そんな風にいうものじゃないよ。ユーリ君、悪かったね。彼女たちも悪い子たちじゃないんだけど、ちょっと僕のことを過剰に信じているようでね」


 アルティナがユーリの方を向き直ると、ユーリは何かを考えるように顎に手を当てていた。

 気分を害した様子のないユーリを見てアルティナはホッと胸をなでおろした。


「いや、いいよ。それより、アルティナ。一つお願いがあるんだが」


 ユーリは顔を上げると、アルティナを見つめながらそう言った。

 アルティナは芝居が勝った仕草で首をかしげると、柔らかく微笑んだ。


「ん?なんだい?」

「俺を荷物持ちとしてダンジョンに連れて行ってくれないか?」


 ユーリのセリフにアルティナは目を大きく開けて驚いた。

 そんな仕草でさえ、絵になるのだから本当に美人はずるい。

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