第41話 窓際クランのレイラの仲間

 レイラは中庭で鍛錬をしていた。

 ダンジョンでの失敗から数日が経ていた。


「・・・また、うまくいかなかった」


 あれからレイラは時間が許す限り火の魔法の練習をしていた。

 しかし、何度やろうとしても、傷ついた仲間の様子が目に浮かび、魔法を発動することができない。


「・・・なんとかして使える様にならないと」


 そして、また魔法の準備を始める。

 自分の魔力が火の属性を帯び、いいえぬ高揚感を覚える。

 このまま思いのまま力を使えば気持ちいだろう。

 すべてをもやしつくせば。


「・・・ごめんなさい」


 まぶたの裏に浮かんだ傷ついた仲間に何度も謝る。

 ここ数日はそんなことをずっと繰り返していた。


 今日は杖を落とし、膝を抱えて座り込んだレイラに人影が近づいた。

 その人影は杖を拾い、ゆっくりとレイラに近づいた。


「杖、落としたよ」


 レイラはガバッと顔を上げた。

 聞こえるはずのない声が聞こえたからだ。


 三ヶ月前は何度も聞いた声。

 励ましあって、笑いあった。


 可愛い兎人族特有の白い耳がチャームポイントで、家族に嫌われていた赤い瞳を見て、お揃いだねって笑ってくれた。


 そんなかつての仲間が困った顔をしてレイラの前に立っていた。


「・・・!ミミ!」


 立ち上がったレイラは、何度も瞬きをした。

 でも、何度瞬きをしても目の前の耳は消えなかった。

 自分が彼女を傷つけたその日から一度もあっていない。

 もう、会うことはないと思っていた。


「・・・本当に、ミミなの?」

「レイラ。久しぶりだね」


 二人は少しの間見つめあった。

 そして、レイラはもうしわけなさそうに顔をさげた。


「・・・ミミ、ごめ・・・」

「ごめんなさい」

「・・・え?」


 レイラが顔を上げると、そこには深々と頭を下げる耳の姿があった。

 わけもわからず、レイラがオロオロしていると、ミミはそのままの姿勢で言葉を続けた。


「レイラ。本当にごめん。私達、レイラが怒ってると思ってたの」

「・・・え?」


 レイラは一瞬何を言われたかわからなかった。

 ミミに謝られるようなことはなにもない。むしろ、謝らないといけないのは自分の方だ。


「役立たずで、足手まといで、しまいには怪我をしてリタイアする。そんなパーティメンバーいらないもの」

「・・・な。ちが・・・」


 レイラがミミの言葉を否定しようとする。

 しかし、うまく言葉にできず、レイラはぎゅっと両手を握って俯いた。


「・・・でも、私はみんなを傷つけて」

「レイラがああしないと、みんな死んでたんだよ?」


 小さく震えるレイラに、ミミは一歩近づいた。


「・・・み、みんな全身にやけどを負って」

「痛かったけど、レイラがいなかったら痛いとしらす思えなかったの」


 レイラは涙をいっぱいに抱えた目で行きのかかりそうな距離まで来たミミを見上げた。


「・・・ゆるして、くれるの?」


 ミミはぎゅっと強くレイラを抱きしめた。


「さっきも言ったじゃん。許してもらうのは私の方だよ」


 レイラは声をあげて泣いた。

 耳も釣られるように涙を流した。


 その後しばらく二人は抱き合っていた。


 ***


 中庭の様子をフィーとユーリで伺っていた。

 今は声をかけないほうがいいと判断して、二人はそっと扉を閉めた。


「大丈夫そうだな」

「そうね」


 ミミを呼んだのはこの二人だった。

 正確にいうと、呼んだわけではない。


 二人は様子を見て大丈夫そうだったらレイラにあってもらうつもりだった。

 数日、彼女たちのクランに所属する探索者やクランマスターなんかに話を聞いた。

 それで、どうやら、ミミたちは恨んでいないどころか、レイラに謝りたいと思っているということがわかった。


 そこで、クランマスター立ち会いのもと、話をしようとゆうことになって、レイラの話をミミたちに話した途端、彼女は一目散に駆け出した。

 兎人族だけあって、誰一人追いつくことができなかった。


「最初にあんたにこのことを聞いた時は頭を疑ったけどね。よくミミがレイラを攻めていないってわかったわね」

「まあな。こういうのは傷つけた方が気にしているほど傷つけられた方は気にしていないもんだ」


 レイラの様子を見て事故後、話し合ったりしていないのはほぼ間違い無いと思った。

 この世界には魔法がある。治癒魔法で傷がさっぱり消えるのに、それを引きずることはあまりない。

 それが自分を守るためだったらなおのことだ。


「まあ、気にしてないって軽く伝えてくれたらいいかなーって思ってたんだけどな」


 ミミは本当にレイラのことを気にかけていたようで、今、中庭では誰も寄せ付けないような百合空間が展開されている。

 ちょっと仲が良すぎではないだろうか?


「どうしたのよ、苦い顔して」

「いや、あんなにいい雰囲気だったら、ミミたちのパーティに行っちゃうかもなと思って」


 フィーはばっとユーリの方を見た。

 目は見開かれており、驚きの度合いがよくわかる。


「ちょ!大問題じゃない!!」


 ユーリの方を掴み、揺すりながらそういうフィーにユーリは諦めたように息を吐きながら言った。


「でもそれがレイラのためになるなら、背中を押さないと」

「はぁ〜。そうね」


 二人はテンション低くその場を離れた。


 ***


 一時間ほどして、レイラとミミはロビーに出てきた。

 二人ともスッキリしたような顔をしていた。


「・・・じゃあまたね」

「うん。また」


 ミミを見送るレイラを見て、フィーはホッと胸をなでおろした。

 さっきまでその辺をいったりきてりしていたので、レイラが残ってくれるとわかって安心したんだろう。

 ユーリも内心ホッとしていた。


「・・・ユーリ、フィー。ありがとう。ミミと仲直りできた」

「そっか。よかったな」

「別に気にしなくていいわよ!」


 柔らかい笑顔をするレイラにそっぽを向きながら真っ赤ん顔をするフィー、そして、いたずらっぽく笑うユーリ。いつもに日常がそこにはあった。


「それよりよかったのか?」

「・・・?」


 ユーリがそう切り出すと、レイラはわけがわからないという顔をした。


「誘われたんだろ?ミミにパーティを組まないかって」

「ちょっ!ユーリ!」


 ユーリの発言にフィーはテーブルに手をついて立ち上がった。


「・・・どうして知ってるの?」

「たぶんそうだろうなってだけだ。俺なら誘うし」

「・・・そう」


 興味なさそうにレイラはそういうと、ユーリとフィーの間の席にフィーは座った。

 いつも三人で作戦会議をするときのポジションだ。


「で?どうして受けなかったんだ?」

「・・・別に、特別な理由はない私の家はこのクランで、私の仲間はあなたたち二人」

「そっか」

「!!レイラ!」


 フィーはレイラに抱きついた。

 レイラはフィーを抱きとめ、その背中をポンポンと数度叩いた。


「とりあえず、今日は探索を休むか?」

「・・・大丈夫。今日こそやっつける」

「まあ、無理するなよ」


 ユーリは少し考えた後、立ち上がってダンジョンの準備を始めた。

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