第40話 窓際クランのレイラの火魔法

 次の日、ユーリたち三人はダンジョンに来ていた。

 もう慣れたもので、いつものように動き、フィーはモンスターを釣りに行っている。


「引っ張ってきたわよ!」

「あいよー」


 ここまでは昨日と一緒だが、ここからは少し違う。

 今日の作戦はこうだ。

 まずはユーリがフィーの引っ張ってきたモンスターを引きつける。

 その後、二匹のミニシーワームを通して、前の方をフィーが遠い方をレイラが火の魔法を使って仕留める。


「準備できたわー」

「・・・大丈夫」

「じゃあ、2匹行くぞー」


 ユーリは三びきのシーワームに突っ込み、2匹のミニシーワームを通した。


「やぁ」


 直後、フィーの声が聞こえた。

 一匹はフィーが素早く仕留めたようだ。

 しかし、そのあと予定外なことが起きた。


「きゃあ!」


 フィーの悲鳴が聞こえた。

 ユーリが振り返ると、フィーがシーワームに体当たりを食らっていた。


「フィー!!」


 ユーリは急いでフィーのいる場所まで下がり、フィーを守る様に盾を構えた。


「フィー。大丈夫か?」

「うん。なんとか」


 フィーはところどころ傷ついていたが無事な様だった。


「よかった。レイラは?」


 ユーリがレイラの方を見た。

 レイラは真っ青な顔でガタガタ震えていた。


「レイラ?」

「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」


 尋常じゃないその様子にフィーとユーリは言葉を失った。


「レイラ、あなた・・・」


 レイラは動けない。

 フィーも軽傷とはいえ、万全な状態のシーワームを何体も一人で倒すのは厳しいだろう。

 ユーリは渾身の力でシーワームを押し返した。


「撤退しよう!走れるか?レイラは俺が運ぶ!」


 ユーリの決断は早かった。

 フィーも素早く立ち上がって撤退の準備をした。


「大丈夫よ!ユーリの武器は預かるわ」

「ありがとう!」


 ユーリは武器をフィーに渡し、レイラを抱え上げた。


「じゃあ行こう!」


 ユーリたちは一目散に駆け出した。


 ***


 ダンジョンを出たあと、すぐにクランハウスに帰ってきた。

 クランハウスに着くと、レイラを医務室のベットに寝かせて、フィーに任せてユーリは部屋を出た。


 部屋の外でしばらく待っていると、フィーが医務室から出てきた。


「眠ったみたい」

「そうか」


 医務室の扉の外でフィーとユーリは話していた。

 ユーリは心配そうに医務室の扉を見ていた。

 フィーはそんなユーリを安心させるように言った。


「とりあえず、レオを置いてきたわ。ライフもいるみたいだし、多分大丈夫よ」

「そうか」


 少し安心したように廊下の壁にユーリはもたれかかった。

 フィーもユーリの隣に立って同じように壁にもたれかかった。


「レイラがあそこまでだとは思ってなかったわ」

「何があったか知ってるのか?」


 フィーがポツリと言った言葉にユーリはフィーの方を向きながら質問した。


「まぁ。同じクランのクランメンバーだしね。あなたも知っていたのね」

「書庫に三ヶ月前の新聞が置いてあったんだ」


 新聞にはある事件について書いてあった。

 それは春先に起きた炎魔法の暴走事故だった。


 レイラは不得意属性である氷の魔法を使いこなしていた。

 実家との折り合いが悪く、当時からこのクランに暮らしていた彼女はサポートとして別クランの新人と一緒に潜っていた。

 そこで、レイラは魔法を暴発させた。

 レイラの火の魔法は敵だけではなく、味方も焼いたのだ。

 パーティのレイラ以外の四人は全身にやけどを負い、全治一ヶ月だったらしい。


「もう三ヶ月も前のことだから、大丈夫だと思ったんだけど」

「無理だろ。自分のせいで自分の大切なものが傷ついたんだ。数ヶ月じゃ折り合いをつけられないさ」


 フィーは深く息を吐きながら言った。


「火の魔法を諦めて、氷の魔法でこれからもやってもらうしかないわね。それでも十分助かるんだし」

「それもそうなんだけどなー」


 ユーリはぼーっと天井を見つめた。

 目を閉じれば、真っ青なレイラの顔が鮮明に思い出せる。

 手にはまだ彼女の震えが残っているような感覚がある。


「あんな姿みちゃうと、何かできないか考えちゃうだろ?」


 さっきのレイラは本当に辛そうだった。

 友人として、仲間として、出来ることならあんな思いをする原因を取り除いてやりたい。


「気持ちはわかるわ」


 フィーもあんな風になったレイラを初めてみた。

 いつも冷静な分その衝撃は大きかった。


 ユーリは何か思いついたような顔をしたあと、勢いよく壁から背をはがした。


「まぁ、今はそっとしておくか」

「そう言って、どうせ何かやるつもりなんでしょ?」

「え!?」


 図星を指されてユーリは驚いていた。

 ユーリが振り向くと、フィーはそんなユーリにジト目を向けていた。


「もう、結構一緒にいるんだから、あんたか何を考えているかくらいはわかるわよ」

「ははは」


 ユーリは苦笑いをした。

 フィーはユーリの正面に立って、ユーリの顔を見つめた。


「何するつもりか言いなさいよ。私の方がこの街に長くいるんだから、力になるわよ」

「止めないのか?」


 ユーリはてっきり余計なことはするなと止められると思っていた。

 しかし、フィーは有利を止める様子はなかった。

 むしろ協力するとまで言ってくれている。


「悪いようにはしないだろうってくらいには信用してるわ」


 フィーはそっぽを向きながらそう言った。

 その耳はほんのり赤くなっていた。


「じゃあ、早速お願いがあるんだけど・・・」


 ユーリの言ったことにフィーはこのあとかなり驚いた。

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