第37話 窓際クランの書庫

 帰ってから三人は作戦会議をしていた。


「鍛錬も必要だけど、もっと情報が欲しいよな」

「情報って?」

「ほら、ダンジョン内の地図とか、どこにどのモンスターが出るとか」


 ユーリは必要そうな情報を上げていった。


「・・・地図だったら、地下に書庫にあったかも」

「書庫なんてあるのか?」


 ユーリは衝撃を受けた。

 そういう資料はないものだと思ってたからだ。


「あるわよ。持ち出し禁止なんだけどね」


 そう言ってフィーはレイラの方を見た。

 レイラがよく読んでいる本も実はクランの蔵書だった。

 レイラは何食わぬ顔で続けた。


「・・・クランメンバーなら入れるはずだから、ユーリも大丈夫のはず」

「そうね。とりあえず案内するわ」


 フィーはユーリを連れて書庫へと向かった。


 ***


 ユーリはフィーに案内されてクランハウスの地下にある書庫に来ていた。


「すげー数の本だな」

「伊達に歴史のあるクランじゃないからね」


 いくつもの本棚には革張りのしっかりした装丁の本だけではなく、紙束の様なものもあり、奥の方には巻物もある様だった。

 埃と古書独特の香りと軋む床が歴史を感じさせるいい書庫であった。

 本棚から溢れた本は床から山住みにされていたが、どこか整頓された雰囲気があった。


 近くにある机に触れてみたが、埃もあまり積もっていない。


「なんか、綺麗だな」

「レイラがよく使ってるからね」

「あぁ」


 フィーに言われて思い出したが、レイラはよく本を読んでいた。

 さっきも言っていたが、ここから本を持っていっているようだ。


「レイラは綺麗好きだから、書庫から本を持って行くついでにかたずけとか掃除をしてるみたい」

「レイラは綺麗好きというより、家庭的だよな」


 クランメンバーの食事は彼女一人で作っている。

 今思い出してみると、食堂などが綺麗だったのも彼女が掃除していたのではないかと思えた。

 今度から掃除を手伝おうとかユーリは考えていた。そのため、フィーが不機嫌になっていることに気付かなかった。

 そして、追い討ちとなる一言を言ってしまった。


「じゃあ、レイラに案内してもらった方がよかったかな?」

「!な!!私だって書庫の内容くらい覚えてるわよ!!1階層から5階層のモンスターについてよね?こっちよ」

「お、おう」


 フィーはずんずんと書庫の奥に向かって進んでいった。

 ユーリはなぜいきなりフィーが怒りだしたのかわからなかったが、彼女の後についていった。


「モンスターについての、図解と、出現位置についてが・・・んー」


 フィーは背伸びをして、大判の本を取ろうとしていたが、小柄な彼女では少し手が届いていなかった。

 ユーリはフィーの後ろから手を伸ばしてフィーが取ろうとしていた本をとった。


「これか?」

「そう。それ・・・!!」


 フィーが振り向くとすぐそばにユーリの顔があった。

 驚いたフィーは真っ赤な顔をして飛び退いた。

 びたんと音を立ててユーリから少し離れた本棚に張り付きた。


「ななな!あああんた!!」


 フィーは動転していた。

 ユーリはなぜフィーがテンパっているのかわからなかったが

 このまま見つめあってるのはまずいと思った。

 そして、何気なき視線をあげると、フィーの後ろにあった本棚が揺れ、上に乗っていたものが落ちそうになっていた。


「フィー!!」

「え?」


 ユーリはフィーを守る様に覆いかぶさった。

 その直後、本棚からバサバサ物が落ちてくる音が聞こえた。

 バランスを崩したのか、本棚まで倒れてきた。


 バタバタとしばらくけたたましい音が聞こえた。

 しばらくして音が収まったので、ユーリは少し身じろぎして、自分の上にのっているものを落とした。


「いてて・・・」


 バサバサと音を立てていくつかのものがユーリの上に落ちてきた。

 かなり以来ものもあった上、結構な量が落ちてきた様だ。


「大丈夫?」

「あぁ。だい、じょうぶ」


 ユーリの目の前には不安そうなフィーの顔があった。

 どうやらフィーはユーリが心配で今の状況に気が回っていないらしい。


 長い睫毛に薄い唇。ツインテールにした赤い髪は幼さと快活さをかねそなえていて、控えめにいってもフィーは美少女だ。

 ユーリの様子がおかしかったので、フィーは少し首を傾げてユーリに聞いた。


「?どうかした」

「いや、可愛いなって・・・」

「はぁ!?」


 ユーリは思わず、思ったことをストレートにいってしまった。

 ユーリの発言に今度はフィーが真っ赤になった。

 ユーリはまずいと思ったが、既に後の祭りだ。


「ななな」

「あ、いや、違・・・うわけではないけど。可愛いのは事実だけど・・・」


 フィーにユーリが覆いかぶさった体制のまま二人は完全にテンパっていた。

 そこにガチャリと扉が開く音が聞こえた。


「・・・大きい音が聞こえたけど、どうかした?」

「「あ」」


 レイラがさっきの音を聞いて駆けつけてくれたらしい。


 倒れるフィー。覆いかぶさるユーリ。扉から入ってきたレイラ。

 数秒固まった後、ギイっと音を立てながら扉を閉めながらレイラは言った。


「・・・お邪魔しました。ごゆっくり」

「「誤解だ!!」」


 フィーとユーリは必死に弁明したが信じてもらうまでかなりの時間がかかった。

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