第36話 窓際クランの決意

 ユーリたちは受付嬢のローに今日獲得した魔石の換金をお願いしていた。

 せっかく知り合ったのだからということで、いつもローのいる受付に並ぶようにしている。

 いつのまにかフィーとレイラもローと仲良くなっていた。

 ユーリとしては、眼福であるし文句はなかった。


「すごいですよ。三人とも。新人にしてはかなり多い方ですよ。数だけならトップかもしれません」


 ユーリたちの提出した魔石の数を数えて、ローは驚きの声をあげた。


「そうなんですか?」

「はい。まるでモンスターハウスに行ったみたいです。まさか入ってませんよね?」


 ユーリたちはギクリとした。

 ローはその様子を見て、咎めるように三人を見た。

 レイラが代表するように視線を逸らしながら言った。


「・・・そんな危険な真似はしない」

「本当にやめてくださいね?危険なので」


 ローは追求をやめた。

 基本的に探索者は自己責任だ。

 危険な真似をするものも少なくない。

 それでも、若い子が命を落とすようなことはして欲しくなかった。

 ユーリは雰囲気を変えるように言った。


「次の新人戦でお披露目しますよ。同じ方法で狩るつもりなんで」

「え!?いいんですか?競合が出てくるとやりにくいんじゃ・・・」

「別に、いつまでも隠し続けられるものでもないですし、なりふり構ってられないですから」


 普通、新人戦のような大衆の前では実力を隠す。

 いざという時、隠し球があるのとないのとでは全然違うからだ。

 フィーとレイラは少し抵抗していたが、最終的には折れてくれた。

 とりあえず、新人賞を目指す事が肝要だと思ったのだろう。


「あ、競合対策というわけではないんですが、一つギルド側にお願いしたいことがあるんですが・・・」

「?何でしょう?」


 ユーリは声をひそめるように言うと、ローはユーリに耳を近づけた。

 思わぬ接近にユーリはドキマギし、フィーにきつい肘鉄をいただいた。


 ローはその様子を微笑ましそうに見つめた。

 気を取り直したようにユーリはローの耳に口を近づけていった。


「この量稼げてしまうと、上層の探索者が浅層に出てきて、そこで荒稼ぎするかもしれません。ですので、位階が5以上したのそうでの狩りは迷惑行為としてもらえませんか?実際、迷惑になりますし」


 ユーリがそういうと、ローさんは監禁された魔石を見た後、深く頷いた。


「そうですね。これだけ稼げるようであれば、そういうことをする人も出てきそうですね。では、新人戦までにルールを決めておきます」

「よろしくお願いします」


 ユーリはローさんにお願いした後、その場を去った。


 ***


 フィーは上機嫌だった。

 今にもスキップしそうな彼女の後をユーリとレイラはついて行っていた。

 そのため、普段は大回りをして避ける酒場エリアに足を踏み入れてしまった。


「ねぇ、ユーリ。今日、私たちかなり頑張ったんじゃない!?魔石もかなり手に入ったし」

「・・・過去最高記録」

「そうだな。この戦法でいけば・・・」


 上機嫌でギルドの酒場エリアを通って外に出ようとしていた時、酒場エリアで飲んでいた探索者の声がユーリたちの耳に入った。


「おい、あいつあんなにでっかい大盾持ってるぜ!」

「相当チキンなんだな!」


 少し酔っているのか、五人組の探索者のうちの一人がユーリを指差しながらそう言った。

 他の探索者たちもユーリの方を見た。


「赤い大盾使い。さながら、レッドチキンってとこだな」

「ちげぇねぇ」


 大声で話し合う探索者たちは周りの目を気にせずそんな話をしていた。

 フィーがピクリと反応して、レイラも立ち止まって探索者たちの方を見た。


「おいおい。よく見ると、あいつら『紅の獅子』の爆炎のレイラとじゃじゃ馬のフィーじゃねぇか!」

「レッドチキンにはお似合いのパーティだな!?」


 ユーリへの悪口は周りの二人にも派生した。


「使えない魔法使いにへっぽこ大剣使いか。あれ?フィーのやつ、大剣もってねぇぞ」

「変えたんだろ?弱い奴は武器をコロコロ変えるからな」

「なるほど!」


 そこで、フィーが切れた。


「あんたたち、言わせておけば言いたい放題!!」

「まぁまぁ、フィー」


 しかし、それを予測していたユーリがすかさずフィーの腕を取って止めた。


「ちょ!離してよ!!」

「はいはい、後でね。レイラも行くよー」


 左腕でフィーの右腕をホールドして、右手でレイラの手を掴んで足早にギルドを出た。


 ***


 ギルドから少し離れて、フィーはユーリの手を振り払った。


「ちょっと、ユーリ!どうして止めたの!?」

「あそこで暴れるのはまずい」

「そうだけど、ユーリは悔しくな・・・!!!」


 フィーはユーリの顔を見て黙ってしまった。

 いつも比較的ニコニコしているユーリが明らかに怒りの表情を浮かべていた。

 指先が白くなるほどきつく握り締められた拳は震えており、噛み締められた口端からは血が滲んでいた。


「悔しくないかって?悔しいさ!!あのクソ野郎どもの顔面を何回もぶん殴って、ふざけたことを言う下を引っこ抜きたいさ!!!」


 ユーリは吐き出すようにそう言った。

 その声から、ユーリがどれだけ怒っているのか、そして何より、フィーとレイラをどれだけ大切に思っているかが伝わってきた。



「フィーがどんな思いで大剣を手放したのか!レイラが普段どれだけ頑張って魔法の練習をしているのか!!なんにも知らないくせに勝手なこと言いやがって!」

「ユーリ、あんた・・・」

「・・・ユーリ」


 フィーとレイラはそのきつく握られた拳を優しく包んだ。


「でも、それはできない。力が足りない。武器もあいつらの持っているものの方が上質だった。あそこでやりあっても勝ち目がなかった」


 ユーリはうつむきながらそう言った

 フィーは意を決したようにギュッとユーリの手を握った。


「ユーリ。見返してやりましょう!」


 レイラもユーリに手をギュッと握り、フィーに同意した。


「・・・新人戦で最高の成績を出す」


 ユーリは顔を上げて二人の顔を見た。


「フィー、レイラ」


 ユーリと目が合うと、フィーはやんちゃそうに笑い、レイラは綺麗な赤い瞳に強い意志を宿してユーリを見返した。


「やってやろう。誰も文句言えないくらいに!」


 三人は気持ちを新たにして帰路に着いた。

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