第35話 窓際クランの新装備

 その日。三人はダンジョンに来ていた。

 しかし、その様子は今までとは少し違った。


「あーもう。なんで私がこんな格好しなきゃいけないのよ!」

「あー。まぁ、なんだ。似合ってて可愛いぞ?」

「な!!」


 ユーリが褒めると、フィーは真っ赤な顔になった。

 フィーは今日から盗賊装備に変更した。

 具体的にいうと、ショートパンツに丈の短いティーシャツだ。


(引き締まった太ももとキュートなおへそがたいへんけしからん)


 ユーリが不純なことを考えているが、別にこんな格好をしているのは不純な理由ではない。

 戦闘のため、回避力、スピードが上がる装備で買えるものを、と思うとこういうことになったのだ。


 ダンジョンで見つかる装備には不思議なものが多い。

 フィーが身につけている装備もその一つだ。

 上からローブとか別の衣服を羽織ると効果がなくなるという特殊仕様付きだ。

『銀翼の梟』曰く、周囲の魔素を吸収して効果を発揮しているためらしい。

 ローブでも別に魔素は通るだろと思ったが、その辺は気にしてはダメなのだろう。眼福だし。


「もう。変態」

「な!」


 フィーがプイッとそっぽを向いた。

 ユーリはフィーの発言に衝撃を受けた。

 バレていないと思っていたのにどうしてバレたのか!?


「・・・ユーリが変態なのはいまに始まったことじゃない」

「えぇ!!」


 どうやらレイラにもバレていたらしい。

 がっくりと肩を落とすユーリを引き連れて三人はダンジョン内のある場所を目指していた。


 そこはダンジョン内のモンスターが発生する場所である。

 モンスターがひしめくように存在することから、モンスターハウスなどと呼ばれている。

 モンスターの発生については諸説あるが、最も有力な説は魔素が寄り集まってできる説である。

 魔素がたまりやすい場所があり、そこに魔素が集まり、固まってしまうことでモンスターになるという説だ。

 実際、モンスターはほとんど同じ場所で発生する。


 まあ、理由はともかく、モンスターが発生した場所にはモンスターがたくさんいる。

 その場所に居られる量を超えると、その場所を出てダンジョン内を徘徊しだす。モンスターがたくさんいるのは当然だ。


 しかし、モンスターが大量にいるからといって、そこに行く探索者はまず居ない。

 なぜなら、普通の探索者では討伐できない数のモンスターがいるからだ。

 突っ込んだら死亡間違いなしである。


 三人がなぜそんな場所に向かっているかというと、もちろん、モンスターを狩るためである。


「端っこの方の一匹に攻撃して逃げるんだぞ?」

「わかってるわよ」

「・・・大丈夫。シーワームなら十分逃げられる」


 そう、モンスターの大量にいるところからモンスターを釣ってきて、通路に誘い込み、そこで倒すつもりなのだ。

 釣り野伏せ、もしくは釣り戦法といわれる戦い方だ。

 モンスターは人間と違い、知能が低いので簡単に引っ掛ける事ができる。


 しばらく待つと、フィーは五匹ほどのシーワームを引き連れて帰ってきた。

 予定では2、3匹のシーワームを釣ってくるはずだったのに、倍近くいる。


「多くね?」

「・・・最初だから仕方ない」


 フィーはユーリたちに合流した。


「ごめん。投げた石は一個だったんだけど、それて二匹に当たっちゃった」

「・・・ダブルヒット」

「おぉ、おめでとう」


 レイラは拍手をしながらフィーを迎えた。

 ユーリは、今日買った大きな盾を構えた。

 真っ赤な大盾で、敵を引きつける効果があるらしい。

 これもダンジョンさんの装備だ。


「こっちこいやー」


 盾がユーリの魔力を吸って何かの波動を発した。

 すると、フィーを追いかけていたシーワームのうち、三匹のシーワームはユーリに標的を変えた。

 そして、三匹ほぼ同時にユーリに体当たりをかましたが、ユーリはビクともしなかった。


「おぉさすがダンジョン産。ビクともしねぇ。いや、亀吉のおかげか?」


 ユーリの中で、亀吉が誇らしげに笑った気がした。

 ユーリは防御力の高い土属性、その中でも防御力の高い亀の召喚獣と契約した。防御力は折り紙つきだ。

 ユーリが感動している横を二匹のシーワームが通り過ぎていこうとした。


「いかせるかよ!」


 そう言って、ユーリは同じく今日買った槍で二匹のシーワームに攻撃した。

 こちらはダンジョン産ではない。

 槍にしたのはリーチが長いからだ。

 盾を構えるとほぼ動けなくなる。その状況でもユーリのやるべきことはモンスターの気をひくことだ。

 そうなれば、攻撃の重さや切れ味より必要なのはリーチだった。

 攻撃の効果はあまり見られなかったが、二匹注意を引くことをできたらしい。


「こっちは大丈夫そうだ」


 そう二人に伝えて、五匹の攻撃を盾で受けながら、ユーリはフィーの合図を待った。


「こっちは準備できたわ」

「了解。まず、・・・一匹!」


 ユーリはタイミングを見て、一匹のシーワームの攻撃をかわし、後ろに蹴り飛ばした。

 シーワームは怒ったようにユーリの方をふり向こうとしたが、レイラの魔法が炸裂した。


『アイスフィールド』


 レイラの攻撃で、シーワームは一瞬か凍りついた。

 氷をはがすようにして動き出しはしたが、その動きは今まで以上に鈍重だ。

 そこにフィーが駆け寄った。


「はぁぁぁっ!」


 フィーが探検を振るった。

 充分にためと助走をつけたフィーの渾身の一撃だ。

 シーワームは真っ二つになって動かなくなった。


「よし!行けるわ!!」

「・・・次の準備も大丈夫」

「わかったわ。ユーリー。次いいわよ」

「オッケー」


 こうして、釣り戦法は見事にハマり、ユーリたちは4つのモンスターハウスを空にした。

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