第34話 窓際クランの緊急会議
クランハウスに着いてすぐ、ロビーの机にバンと両手をついて大声で言った。
「緊急作戦会議です!」
フィーとレイラはユーリに冷たい目を向けた後、二人で見つめ合い、なにかを通じあったのか、肩をすくめた。
この二人もユーリの扱いにだいぶ慣れてきたらしい。
二人はユーリがいるテーブルの椅子に座りながら言った。
「どうしたのよ、いきなり」
「・・・ユーリがいきなりなのは、いつものこと」
ユーリは二人の様子を気にせず、どかりと椅子に座った。
そして、某司令のように手を組み、真剣そうな表情で話し出した。
「今日ローさんに聞いたんだけど、六の月の終わりまで。後二ヶ月以内に何かしらの成果を出さないとクランに色々な制限がかかるらしいじゃないか」
「あぁ、そのこと?大丈夫よ。ダンジョンに潜ることに制限はつかないわ」
フィーはパタパタと手を振った。
実際、クランに制限がつこうと、探索者自身に制限はつかない。
クランとして成果を出すことに問題はないように思える。
しかし、ユーリはそう思っていなかった。
「たしかに、大抵のことに問題は出ない。でも一つ、魔石の採集数を上げるために致命的に問題になるのがある」
「・・・新たなクランメンバーの追加禁止?」
「そう。それ」
ユーリはレイラをビシッと指差してそう言った。
当然であるが、潰れるクランが人を増やすのはおかしい。
その上、過去に最後の半年になりふり構わず新人探索者を増やして、採掘量を増やそうとしたクランがあったらしい。
結局そのクランは潰れたらしいが、そのあとに質の悪い探索者の扱いにギルドが苦労したらしく、それ以来、最後の半年は移籍を含めてクランメンバーの追加が禁止になったらしい。
「俺たちの次に採掘量が少ない『銀翼の梟』は7パーティが活動してる。聞いたところによると、このクランは特殊で、ひとパーティーの活動が普通のパーティの半分ほどだが、半分だとしても3.5パーティだ」
『銀翼の梟』は特殊なクランで、『紅の獅子』が最下位になるまで長い間最下位だったクランだ。
探索より研究を主としたクランで、研究の方で毎年かなりの成果を出している。
そのため、魔石採掘量にはこだわっていない。
「じゃあ、私たちが4パーティ分頑張ればいいってことでしょ?」
フィーはない胸を張ってそう言い切った。
「・・・フィー。それは流石に無理。フィーもわかってるでしょ?」
「ぐ。わかってるわよ」
新人パーティは普通のパーティの10分の1くらいの採掘量しか稼げない。
新人パーティは浅層と呼ばれる1階層から10階層が主な探索階層となり、そこで取れる魔石は質があまりよくなく、魔石採掘量はどうしても少なくなる。
ちなみに、五人パーティーの一番位階が高いメンバーの位階と同じ深さの階層まで潜ることができる。
位階が三の者がいれば、3階層まで潜ることができ、位階が五の者がいれば、五階層まで潜ることができる。
仕組みはよくわかっていないが、階層間の転移の際に必要な魔力が階層と位階で比例しているのではないかと言われている。
なので、このパーティで潜ることができるのは一回層までだ。
「じゃあ、どうするのよ?」
「そこでこれだ」
ユーリは自信満々に机の上に一枚のチラシを出した。
そのチラシにはデカデカと新人戦と書かれていた。
***
新人戦。加入一年未満の探索者が対象で、探索可能階層は五階層まで。
ポイント制で勝敗が競われるサンティア王国の夏の風物詩だ。
王城の前の広場で探索情況は実況され、新人探索者のお披露目も兼ねている。
ちなみに、中継を行うのは引退した探索者や現役の探索者のうちで光系の魔法が使えるものだ。
彼らは『撮影機』という魔道具を持たせる。それで撮影したものを『投影機』というものに写して行われる。
これらの魔道具はダンジョン産で、『銀翼の梟』の研究対象の一つである。
「この新人戦で優勝すれば新人賞がもらえるらしい。こう言う、栄誉ある賞をクランメンバーが取ればクランの解体は免れるんだろ?」
「まぁ、そうだけど」
「・・・」
フィーとレイラの二人は納得はしていないようだったが、間違ってはいないので頷いた。
「ユーリ、優勝目指すにしても、どうするつもり?」
「作戦はあるけど、実行するためには、まず5階層まで行かないことには話にならないかな」
「・・・じゃあ、まずすることは位階を上げること?」
ダンジョンは1〜4階層はシーワームしかでない。
5階層でビッククラブやマッドフィッシュと言った別の魔物が出始める。
新人賞を狙おうとすれば、ポイントが多くもらえる5階層の魔物を狩りたい。
そうなると、位階を5まで上げる必要がある。
「とりあえずやることは魔物を狩りまくることだな」
「なんだ。やることは変わらないんじゃない」
フィーは少しホッとしたようにそう言った。
ユーリはいたずらっぽく笑って二人を見た。
「まぁ、大まかにいうとな」
「・・・細かい部分は違うの?」
「狩り方を変えようと思う。具体的にいうと・・・」
この後ユーリが行ったことに二人は驚愕した。
しかし、不可能ではないことだったので、二人は修正を加えながら作戦を詰めていった。
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