第33話 窓際クランの召喚獣2

 ユーリは召喚笛を吹いた。

 展開された召喚魔法陣の中心には一匹の亀がいた。

 亀と言いつつも、かなりデフォルメされていたが。


「おぉ、意外と可愛い」

「ちょっと待って!」


 ユーリは召喚された亀に近づいて触れようとした。

 そんなユーリをフィーは強い口調で静止した。

 びっくりして立ち止まったユーリはフィーの方を向いて質問した。


「ど、どうしたんだよ?」

「触ったら、契約が成立しちゃうわ。レイラ、この子の属性、わかる?」


 フィーがそう聞くと、レイラは真剣な瞳で召喚された亀を見つめながら言った。


「・・・多分、土属性」


 レイラの答えにフィーは残念そうに溜息を吐いた。


「そう。じゃあ、送還した方がいいわね」

「え!?」


 ユーリはフィーとレイラの方を振り向いた。

 フィーとレイラは優しくユーリを諭しように言った。


「属性は六つあって、色々できる光が最も良くて、ついでに攻撃力の高い火、応用力のある水と風、その次が土、最後が闇となっているわけ。土属性は防御力や自己回復力は上がるけど、人気は下から二番目なの」

「・・・一度目の召喚で土属性なら、よっぽどのことがない限り、送還する」


 フィーはユーリの方を向きながらユーリの瞳を覗き込みながら言った。


「私たちはすでにダンジョンに潜れていて、稼ぎもほどほどあるわ。残念だけど、今回は見送って、次回他の属性が来るのにかける方がいいわ」


 ユーリは二人の意見を聞いた後、自分の手を見た。

 そして、自分の身に宿った“力”のことを考えた。


「土属性か」


 ユーリは召喚された亀をじっと見つめた。

 意志の強そうな瞳でこちらをじっと見ている。

 ユーリはふっと笑みを見せ、二人に向き直った。


「俺はこいつにしようと思うよ」


 二人はユーリのそのセリフに驚きの声をあげた。


「な、ユーリ!?さっきの話聞いてた?」

「・・・私たちに気を使う必要はない」


 ユーリは二人の方を向いた。

 その顔にはいたずらっぽい笑みが浮かんでいた。


「防御力が上がるってことは、2人を守りやすくなるってことだろ?」

「な!そうかもしれないけど」


 フィーは真っ赤になった。

 レイラもまんざらでもない顔をしていた。


「それに攻撃は俺の代わりに2人がしてくれるだろ?(それに、土属性以外の召喚はできなそうだしな)」


 後半はユーリが小声で呟いたため、2人には聞こえなかった。

 ユーリは自分の力についてまだ二人に話すつもりはなかった。

 もし話して、巻き込むことになったら申し訳ない。


「そうだけど・・・」

「・・・フィー」


 フィーは赤い顔をして嬉しそうにしていたが、まだ悩んでいた。

 レイラはそんなフィーの方に手を置いて行った。


「・・・最後に決めるのはユーリ。ユーリがそれでいいならいいと思う」

「あーもう。好きにしなさいよ」


 プイッとそっぽを向いてしまったフィーを見て、ユーリは笑った。

 自分のためにここまで考えてくれる人がいることが嬉しかった。


「ははは。2人ともありがとう」


 そう言って、ユーリは召喚獣の亀に近づき、頭を撫でた。

 ユーリが召喚獣に触れた時、ユーリと召喚獣の間で何かがつながった感触があった。


「よろしくな。亀吉」


 ユーリが撫でると、亀吉はゆっくりと頷いた。


「ぶ。亀吉って」


 フィーはユーリのセリフに思わず吹き出した。

 レイラもつられるようにして笑った。


「・・・ユーリはネーミングセンスがない」

「え?いい名前じゃないか?亀吉」


 ユーリは絶句していた。

 会議室にはしばらくの間、楽しそうな笑い声が響いていた。


 ***


 ユーリたちは召喚から少しして、会議室を軽く片付けた。

 その後、部屋を退室し、鍵をローに返しにきていた。


「ローさん。会議室を貸していただき、ありがとうございました」

「こちらこそ、迷惑をかけてしまってごめんなさい。召喚は無事終わりましたか?」


 ローの質問にユーリは満面の笑みで答えた。


「はい」

「それは良かったです。それでは、この水晶に触れてください」


 鍵を受け取った後、ローは水晶を机の上に置いた。

 占いにでも使えそうな水晶だが、何か不思議な雰囲気があった。

 ユーリはその水晶を覗き込みながら言った。


「?これは?」

「これは位階を調べる水晶です。触れたものの魔力量と魔力の質を調べるものです」


 ローの説明に、ユーリはファンタジーを感じてテンションが上がった。


「へー便利なものがあるんですね」

「ダンジョン産のアイテムなので、詳しいことはわかってないんですけどね」


 ユーリが恐る恐る水晶に触れると、水晶の中に橙色の光が灯った。

 ローはそれを見て少し顔をしかめた後、台帳のようなものにメモをした。


「土属性の一位階ですね」

「はい」


 何かにメモをしながら、ローはユーリをじっと見た。

 そして、少しいうべきか悩んだ後、意を決したように言った。


「・・・部外者の私が言うのもなんですが。時間がないのはわかりますが、もう少し検討してから契約を行った方がよかったのではないですか?」


 ローはユーリが土属性の召喚獣と契約したことを危惧しているようだ。

 どうやら、土属性の地位はユーリが思っていた以上に低いらしい。


「2人にも止められましたが、防御力を増して、2人を守りたいですし、八ヶ月で成果を出して、窓際クランを脱出するためには、最善の選択だと思ってます」

「え?八ヶ月?」


 ロー産は驚いた顔をした。

 その様子をユーリは訝しげな顔で見た。


「?もし『紅の獅子』がなくなるとしたら来年の年明けですよね?」


 不思議そうな顔をするユーリにバツの悪そうな顔をしてローは答えた。


「えぇ、そうですけど、六の月が終わった時点で、成績を集計され、そこで取り潰し予定となった場合は、後の半年は色々な制限がかかるので、実質的には後二ヶ月ほどでなんとかしないといけないかと・・・」


 ユーリにとって、その情報は初耳であった。

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