第四章

第31話 窓際クランの尋問会

 翌朝。

 ユーリが織の中で小さくなって眠っていると、ガチャリという音とがした。

 檻の外、倉庫の入り口を見るとフィーがおりの鍵を開けていた。


 くいっと顎で織の外を刺した。

 ユーリはフィーを刺激しないように慎重に立ち上がると、フィーの後を付き従うようにして檻の外に出た。


 フィーはユーリをいつもの食堂に案内した。

 そこにはレイラも座っていた。

 レイラはいつものローブ姿に戻っていた。

 ここで尋問が行われるのだろう。

 ユーリはいつも座っている席に背筋を伸ばして座った。


 重たい沈黙を破ったのはフィーだった。


「レイラから話は聞いたわ」


 ユーリはこういう時反抗すると、いいことはないと思っていた。

 だから、フィーの言葉に一度頷いて「はい」とだけ答えた。


「まぁ、筋は通ってたわ。筋はね」


 冷たい視線がユーリを貫く。

 どうやら、疑いは晴れていないらしい。

 しかし、冷たい視線を向けられていないレイラは何事もなかったかのように立ち上がりながらった。


「・・・じゃあ、問題ない。わたしが浅はかだった。もうしない」

「そういうことを言ってるんじゃないの!」


 フィーが怒っている理由がわからないようで、レイラは一度首を傾げた。

 その後、何かに得心したように一度頷いた。


「・・・フィーの言いたいことはわかった」

「わかってくれたらいいのよ」

「・・・次、ユーリを誘惑するときはフィーもちゃんと誘う」

「な!」


 フィーは勢いよく立ち上がった。

 耳まで真っ赤で、ゆでだこのようになっていた。

 フィーのテンパり具合がかわいいなとユーリは思ったが、おとなしく椅子の上で背筋を伸ばしていた。


「そ、そういうことを言ってるんじゃないの!クランの風紀の話をしているの!!」

「・・・?風紀?」


 テンパっているフィーに、よくわかっていないレイラ。

 これは長くなるなとユーリは思ったが、一言も発さなかった。


「そう!男女関係のいざこざがあると、クランがまとまれないでしょ!?」

「・・・でも、フィナさんは、好きな男がいたなら襲っちゃってもいいって」


 レイラは首をかしげながらそう言った。

 それを聞いて、フィーは空気が抜けたように机に崩れ落ちた。


「お母さん・・・」


 フィーはそう言っている母親の姿が容易に想像できた。

 フィーの母親は色々な意味で豪快な人だった。


 フィーはガタっと音を立てて立ち上がると、ユーリに向かってビシッと指さして言った。


「もう。今回はいいわ!ユーリも。次からは気をつけてよ!」

「はい」


 ユーリが返事をすると、フィーは部屋から出て行った。

 おそらく、朝の鍛錬に行ったんだろう。


「・・・じゃあ、お腹すいたから朝ごはんにする」


 そう言って、レイラは朝食の準備を始めた。


「はぁ。とりあえず走ってくるか」


 ユーリはランニングを始めた。

 いろいろなことがあったが、ユーリたちの日常はこうして続いていた。


 ***


 レイラの作るおいしい朝食を食べた後、三人は今後の予定について話し合っていた。


「とりあえず、ユーリの召喚笛を買うのが先決ね」

「・・・それが一番最初」


 レイラとフィーの意見は一致しているようだった。

 ユーリも特に反対する理由はないので、うなずいた。


「じゃあ、これから買いに行きましょう!」


 そう言ってフィーは立ち上がった。

 ユーリとレイラも立ち上がり、クランハウスを出発した。


 レイラたちについていきながら、ユーリは気になったことを聞いた。


「ところで、召喚笛ってどこで売ってるんだ?」

「召喚笛は基本的にギルドに行かないと手に入らないわ」

「へー」

「・・・ダンジョン産のアイテムは基本、ギルドに置いてある」


 ダンジョンではアイテムもです。

 有用なものから何の役に立つのかわからないものまで。

 音が鳴るとゆらゆら揺れる植物とか一体何んに使うのか?


「あれ?じゃあ、そのままダンジョンに潜れるように準備していったほうがいいか?」


 ユーリは武器を置いてきていた。

 ダンジョンに行くならそのまま今日の探索をしてしまうほうがいいかもしれない。


 レイラとフィーはあきれたようにユーリを見た。


「何言ってるのよ。召喚を行うために、一度クランに戻ってくるに決まってるじゃない!」

「・・・召喚獣は他人にばれないようにする」


 決まっているらしい。

 たしかに、手の内は知られないほうがいいというのはたしかだ。


「それに、当分はその子と一緒に冒険することになるんだから最初の召喚は重要なのよ?」

「当分はって、召喚獣って、取り替えたりできるのか?」

「・・・位階が10上がるごとに1体増やすことができると言われている」

「自分の召喚獣を他人に譲ることもできるわ。位階は下がるらしいけど」

「へー」


 なんかゲームみたいだなとユーリは思った。


「位階が10に届くとなんか変わるのか?」

「別に、何も変わらないわよ?位階が9でも2体の召喚獣を持っている人はいるらしいし。ただ、召喚獣からの強化に肉体が耐えられなと弾け飛ぶらしいわ」

「え?」


 いきなり出てきた衝撃の事実にユーリは思わず立ち止まってしまった。

 ユーリの様子を見て、レイラは詳細な様子を教えてくれた。


「・・・肌がぶくぶくと沸騰したみたいになって、最後には風船みたいに膨らんで内側から弾け飛ぶ」

「なにそれ。グロ」


 全然ゲームみたいじゃなかった。

 ただ死ぬだけじゃなくて、そんなにグロい死に方をするなんて遠慮したい。


「毎年、数人はやらかすらしいわ」

「・・・一時的に強くなれる」

「うへー」


 あまりにもグロいその事実に、ユーリのテンションはダダ下がりだ。

 ちょっとだけ探索者やるのが怖くなってきていた。

 そんな話をしているうちに探索者ギルドについた。

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