第25話 窓際クランの厄介払い

 荒らされたクランハウスにロビーでラルフさんとユーリが話していた。

 ラルフさん以外にも、結構な数の衛兵さんがきてくれており、軽くかたずけをしながら被害の状況を確認していた。


「おそらく物取りだな。色々な場所が物色された形跡があった」


 ざっと被害状況の確認を終えたラルフさんがそう言った。

 彼は衛兵の中でも偉い方の人だったらしい。他の衛兵さんにテキパキと指示を出していた。


「物色した形跡はあるが、あまりが壊されていない。私怨ってわけでもないだろう」

「そうですか」


 物取り。ユーリは少し違和感があった。

 こんなボロいギルドから一体何をとって行くつもりだったのか?


「状況から見るに慣れたやつの仕事だろう。心当たりはあるか?」

「はは」


 ユーリは苦笑いしながらポケットの中にある召喚笛を思い出した。


「あるんだな」

「黙秘させてください」


 そう行ってユーリは口の前でばつ印を作った。


「はぁ。まぁ、何も取られてないようだし、よかったじゃないか」

「そうですね。前のことがあったので、ギルドの倉庫に荷物を移動していたことが不幸中の幸いでした」


 前回、金庫ごと全てを奪われたので、ギルドの金庫に盗む価値があるものは全て移動していた。

 フィーはギルドの金庫を利用するのはクランに力がないことを主張するようなものだからと抵抗していたが、実際にその力がないので仕方ないと納得してもらった。


「誰もいない状況はできれば作らないほうがいいな」

「誰かを雇うにしても、時期が・・・。来年も雇えるかわかりませんから」

「あー。そうか。このクランは…」


 ラルフさんはバツが悪そうに頭をかいた。

 窓際クラン。それがこのクランの実情だ。

 そんな悲壮感を全く感じないので忘れていた。


「あー。とりあえず、捜査はするが、結果はあまり期待するなよ?」

「・・・分かってます」


 衛兵は市民を助けるのが仕事だ。

 クラン間の抗争につながるような情報は基本的に伏せられる。

 まぁ、小競り合いが結局抗争にはなるなら仕方ないのだが、衛兵が原因だとなると色々大変らしい。

 どこの世界も公務員は大変である。


「あっちも終わったようだし、俺たちは帰るぞ」

「あ、色々ありがとうございました」


 フィーたちが女性の衛兵と一緒に出てくるところだった。

 フィーとレイラの様子を見るに、あちらは大丈夫だったようだ。


 そのあと、他の衛兵さんたちと一緒にラルフさんは撤収して行った。

 ユーリはラルフさんを見送った。


 ***


 ユーリたちは少し片付いたロビーのテーブルに集まっていた。


「さて。このあとどうするかな」


 ユーリがそう切り出すと、フィーは机を叩きながら立ち上がった。


「断固とした対応をとるべきよ!!!」

「いいだろ?取られたものはなかったんだし」


 ユーリはフィーをなだめるように言った。


「乙女には大切なものがたくさんあるの!部屋にいろいろなものが置いてあるんだから!!」

「俺だって皮鎧を置いてあるぞ。あれ高かったんだから」

「あんなゴミ誰も触らないわよ!」


 フィーがそう切り捨てると、衝撃を受けたようにユーリは固まった。


「流石にゴミはひどくないか!?」

「・・・ユーリも結局一度も装備してない」


 レイラもユーリに冷たい目を向けていた。

 味方がいないことを悟ったユーリはバツの悪そうな顔をして話題を逸らした。


「だ、断固対応するって言っても、どうするんだよ?」

「・・・手の打ちようがない」


 レイラはユーリにジト目を向けながらも話題の変更に乗った。

 その顔には「あのゴミをまだ持ってたんだ」と描いてあった。


「そもそも、フィーはどこのギルドが犯人か分かってんのか?」

「それは・・・」


 フィーは一気に勢いを落として、ストンと席に座った。


「・・・悔しいのは私も一緒」

「あー。もう!分かったわよ」


 フィーはそう言って立ち上がった。


「どこ行くんだ?」

「中庭!ちょっと素振りしてくる」


 そう言ってバタンと音を立てて扉を閉めてフィーは出て行った。

 足音が遠ざかって行ったかとを確認したあと、ユーリはレイラと二人になったので、口を開いた。


「レイラはどこの仕業だと思う?」

「・・・十中八九、『ハイエナ』がやったと思う」

「だよなー」


 フィーの手前、犯人はわからないと言ったが、二人は犯人に目星がついていた。

 むしろ、最近関わりがあったクランはそこだけだ。

 そして、フィーには聞かせられないとも思っていた。

 彼女は瞬間湯沸かし器のようにすぐ沸騰して怒り出す。

 前回無策に突っ込んで速攻で捕まったことを二人は忘れていない。


「目的はなんだと思う?」

「・・・前回の報復か。もしくは・・・」

「俺が持ってきた召喚笛。だよなー」

「・・・(コクリ)」


 二人はとても真剣な顔をしていた。

 そして、二人は後者が原因であるとほぼ確信していた。

 前者だったらもっとクランハウスが荒らされているはずだ。


「向こうは結構な規模のクラン。一方こっちは窓際クラン。勝ち目はないし、どうしたもんかな?」

「・・・できるだけ、一人にならないようにする」


 レイラはひとまず、一人にならないという提案をしてきた。

 有効な手ではあると思うが、それだけでなんとかなるかは微妙なところだ。


「そうだな。こんなのことなら、あの笛はクランハウスにおいて探索に行けばよかったな」

「・・・?どうして?」


 ユーリは机の上に召喚笛を置いて、そう言った。

 あたかも取られた方がいいとでもいうそのセリフにレイラは驚いた。

 ユーリはなんでもないように答えた。


「そうすれば、楽に笛を送り返せたじゃないか。不確定要素は少ない方がいいと思わないか?」

「・・・確かに」


 レイラも机の上の笛を見た。

 これが手元になければ、次の襲撃はない。

 捨てるにしても、どう捨てるかが問題になる上、周りに迷惑をかけかねない。

 まず、向こうが信じてくれるかがわからない。


「・・・売っちゃえ、ば?」

「俺たちが売った先が同じ目にあうかと思うと、ちょっとなー」

「・・・確かに、少し問題かも・・・」


 売るのも問題だ。

 次は売った先が襲撃を受けることになる。

 迷惑をかけるわけにはいかない。

 二人は頭をひねった。


「あ」

「・・・どうしたの?」


 ユーリは何かに気がついたように大きな声を上げた。

 レイラはその様子を訝しげに見た。


「売っちゃおうか?」

「・・・さっきダメって言ってた。迷惑がかかるからって」


 さっき却下した意見を再び出してきたユーリに訝しげな目を向けた。

 ユーリは悪巧みでもするようにニヤッと笑った。


「だからさ。迷惑をかけても大丈夫なところに売るんだよ」

「・・・迷惑をかけても大丈夫な所って」

「『ハイエナ』だよ」


 予想外の相手に、レイラは驚いて目を見張った。

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