第24話 窓際クランのダンジョン探索2

 それから数回ミニシーワーム狩った。

 狩るためにうろうろした結果、入口の近くまで帰ってきていた。


「今日はこの辺であがっとくか?」

「まだ行けるわ!!」

「・・・まだ大丈夫」


 ユーリが狩りの終了を提案した。

 しかし、フィーもレイラもまだまだ狩りを続けたい様子だった。

 ユーリは立ち止まって二人のほうを振り向いた。


「はー。俺の昔いたところでは『まだ行ける・まだ大丈夫は・もう危険』っていう言葉があるんだ。今日はこの辺にして帰ろうか」


 ユーリは二人の様子をよく見た。

 レイラは目の焦点が合っていない。

 魔力がもう少なくなってきているんだろう。

 フィーは平気そうに見えるが、口数は朝より減ったように思う。

 おそらく、慣れない武器での戦いは精神的に疲れているのだろう。

 ユーリは二人に近づいた。


「帰りに何かに襲われるかもしれないんだから、半分くらい体力が残っているときに帰らないと。ここは安全な訓練階層じゃないんだから」

「わかったわよ」

「・・・今日は帰る」


 ユーリは十分に安全マージンを取って行動したいと思っていた。

『紅の獅子』には先輩がいない。

 語り継がれる知識的なものが全くと言っていいほど存在しないのだ。

 こう言うところを気をつけたほうがいいとか、こうなったらこうする方がいいとか言う探索におけるHow-toがない。

 ゲーム的に言うと攻略サイトが見れない状態かつ一度死ねばゲームオーバーの状態だ。

 安全すぎると言うことはないと思っていた。


 ユーリはクランの先輩がいれば教えてもらえると思っていたが、実際は探索者は個人主義でパーティー外に情報を出すことはほとんどない。たとえ同じクランの後輩であっても。

 その上、ユーリたちがとっているフォーメーションもこの世界では画期的なものだった。

 一定の型を持っている上級探索者パーティーは存在するが、型を作ってそれに合わせるように動くというのは軍隊でもまだ行われていなかった。

 型通りの動きをするのも方ができるほど潜り慣れている上級探索者だけだ。


 上級探索者と同じやり方をしていれば、儲けも新人としてはあり得ない額になっている。

 普通の新人は1日に四、五体のシーワームをかれればいい方なのだ。

 なぜなら、まず2体以上いるシーワームからは逃げるのが鉄則だ。

 見つけたら集まって倒れれるまで殴るなんてやり方で二匹のミニシーワームを相手して、うっかりフィーのような軽装の戦士に攻撃が集中すれば、大事故につながる。


 ユーリたちがそのことを知るのはだいぶ先のことになる。


 ***


 帰り道、ユーリたち三人は大通りを通ってクランハウスへと向かっていた。


「結構稼げたわね!」

「・・・明日には、目標金額に届きそう」

「いやー。買い取り価格が上がってるとはラッキーだったな」


 ユーリたちは上機嫌だった。

 帰り道でもミニシーワームにを狩っていった結果、目標額の3分の2以上を1日で稼いでしまった。


 流石に利益がひとつの新人パーティとしてはありえないくらい上がっているのは気づいていた。

 三人は魔石の買取価格が一次的にあがっているのだと勘違いしていた。

 外国からの大量発注があったり、他国との戦争の機運が高まると、最大で魔石の買い取り価格が十倍以上に上がることがある。

 情報に聡いクランはこの時期に活動を活発にするところもあるらしい。

 実際はそんなことはないが、ありえないことではない分、気づくことはできなかった。

 おめでたい奴らである。


「いつまで買取が上がってるかしら」

「・・・わからない。けど、一ヶ月以上続くこともあるらしい」

「じゃあ、このうちに一気に稼いじゃいましょうよ!」


 フィーは上機嫌でそう行った。

 ユーリは深く息を吐いた。


「安全第一だからなー」

「えー」

「えー。じゃありません。そんな可愛い顔してもダメです」

「な、かかか。可愛いって!」


 フィーは耳まで真っ赤にした。


「・・・フィー。真っ赤」

「ま、真っ赤じゃないし!ほら!ついたわよ!」


 そうこうしているうちにクランハウスまで帰ってきた。

 ユーリとレイラに先行するようにフィーが建物の中に入って行った。

 ユーリとレイラは苦笑いをしながらその後に続いた。


「ただいまー・・・って何よこれ!?」


 フィーはクランハウスに入ると大きな声を上げた。

 フィーのただならぬ様子に、ユーリとレイラは急いでクランハウスに入った。


「うわー」

「・・・これは、ひどい」


 ロビーの椅子や机は倒され、花瓶は地面に落ちて割れている。棚も強引に引き倒したようになっており、中に入れていた木製の食器も割れてこそいないが、そこら中に散らかっている。


 三人が見たのは何者かによって荒らされたクランハウスだった。

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