第22話 窓際クランの新たな決意

 三人で一通り笑いあった後、ユーリはフィーに開放してもらった。

 そうなると、問題になるのが、笛の使い道である。


「持ってきちまったもんは仕方ない。返しに行くわけにもいかないし、この笛は俺が使おう。フィーが買ってきた笛は・・・」

「わたしが使うわ」


 フィーはそう言った。

 驚きの顔をするレイラとユーリを尻目に、フィーは召喚笛を両手で弄んでいた。


「・・・いいの?いつもの鍛冶屋さんで大剣を売ったなら、事情を話せば売った値段で返してもらえるかも・・・」

「いいの。昔、お母さんが使ってた剣ってだけで、特に形見ってわけでもなかったし」


 フィーは軽い感じでそう答えたが、ユーリよレイラはまだ不安が抜けきれていない様子だった。


「それでも、お母さんとの思い出が詰まってるんだろ」

「あー。もー、うるさいな。今使っちゃうわね」


 フィーはそう行って立ち上がると、ロビーの隅の少し開けた場所に移動して、召喚笛を吹いた。

 レイラとユーリはその様子を驚いた様子で見守った。


 召喚獣の召喚。それは幻想的な光景だった。

 笛を吹くと、どこからともなく魔法陣が現れ、魔法陣から熱風のようなものが吹き荒れた。

 それがおさまったかと思うと、魔法陣の中心に真っ赤な毛並みの猫が一匹いた。

 あれだけの風が吹いていたのに、料理や机などあたりのものが影響を受けた様子はなかった。


「ほんとファンタジー」

「・・・ふぁんたじー?」


 ユーリがそんなことを言った。

 特に深い意味はなかったので、さらっと流した。


「あー、嫌なんでもない。フィー。これで召喚は成功なのか?・・・フィー?」

「・・・?フィー?どうかしたの?」


 フィーは召喚陣の中心に座る召喚獣に向かってよろよろと歩きよっていった。

 召喚獣はそんなフィーの様子をじっと見上げていた。


「・・・レオ?」

「ニャー」


 フィーは恐る恐るといった感じに召喚された猫を撫でながら呼びかけた。

 召喚獣は答えるように一鳴きし、フィーの足に甘えるように体を擦り付けた。


「レオ!お帰り、レオ!!」


 感極まった様にフィーはその召喚獣を抱きしめて、何度もお帰りと言いながらその名前を呼んだ。

 ユーリはそんなフィーの様子に、わけがわからず、隣にいるレイラに理由を聞いた。


「レオって?」

「・・・レオは『紅の獅子』に代々伝わってきた召喚獣の名前」


 予想外の展開に、ユーリは驚きの顔をした。


「レオって。死んだんじゃ?」

「・・・召喚獣が力つきる前に召喚者が力尽きれば、召喚獣は元いた場所に戻って、再び誰かに召喚されるのを待つらしい」


 ユーリはレオと呼ばれた召喚獣のを凝視した。


「じゃあ、あの召喚獣は」

「・・・多分、レオで間違い無いんだと思う」


 あっけにとられながらレオを見つけたユーリは色々と疑問はあった。

 しかし、フィーの本当に嬉しそうな顔を見てどうでもよくなった。


「まあ、何はともかく、よかったな」

「・・・」


 ユーリとレイラも、一緒にレオの帰還を喜んだ。

 そして、パンっと一つ手を打った。


「よし!めでたいことも増えたし、パーティーを再開しよう」

「・・・少し冷めちゃったかもしれない」


 ユーリとレイラはそう言ってパーティの準備をしたテーブルへと戻った。

 フィーは慈しむ様にレオを抱き上げて二人の後を追った。


「レイラの料理は冷めても美味しいから大丈夫よ」

「ニャー」


 三人は席につき、パーティーを再開した。

 そのあと食べた食事は、少し冷めていたけど、とても暖かかった。


 ***


 翌朝、中庭にフィーの姿があった。

 シュ、シュっと風を切る音とともに短剣が振るわれる。


 しばらく素振りをした後、短剣を振り切ってフィーは素振りを終えた。


「ふー」

「ニャ」

「あ、レオ。ありがとう」


 フィーが一息つくと、レオがタオルを持ってきた。

 フィーはそれを受け取り、地面に腰を下ろした。

 レオは腰を下ろしたフィーの膝の上に乗ってきた。


 腰を下ろしたところから、一本の丸太が見えた。

 その丸太は、大剣の練習に際に的として使っていたもので、すでに多くの傷つけられていた。


「・・・」

「ニャー?」

「なんでもないわ。ちょっと、やってみようかと思っただけ」


 フィーはレオを地面に下ろすと、立ち上がり、パンパンと軽く服の埃を落とした。

 衣装を軽く整え、一度向き合うよう丸太の前に立った。


「スーーーーー」


 息を大きくすい。

 構えをとった。


 そして、


「斬」


 一刀のもとに丸太を真っ二つにした。


「あー。私、本当に何してたんだろ」


 真っ二つになった丸太を前にフィーはそう呟いた。


 武器も違う。構えも違う。

 さっき放った一撃はフィーが目指してきた、理想としてきた、何度やっても似せることすらできなかった、お母さんの見せてくれた一撃だった。


 手の中には昨日よりずっと軽い短剣。

 瞳に映るのは住み慣れたクランハウス。

 朝食の支度をしているため、炊事の煙が上がっている。


「お母さん。わたし、お母さんみたいな探索者になるね」


 フィーがそう呟いた瞬間。クランハウスの扉が開き、中から少年が出てきた。


「フィー。朝ごはんできたぞー」

「いまいくー」


 フィーは自分の居るべき場所に向かって駆け出した。

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