第16話 窓際クランの「そうだダンジョンへ行こう」その2
王都はぐるりと街壁に囲われている。
均一な直方体の石を積み上げた街壁は重厚感を通り越して芸術性すら感じられる。
きっと日本にあれば観光名所になったであろうその場所は、この世界では住民の命を守る実用品である。
使用されていれば当然磨り減ることもある。
魔物が攻撃を仕掛けて削れたり、風雨によってヒビが入ることもある。
そう言った場合、真っ先に修理される。
そして、突発的な作業がある分、日雇いの仕事も増える。
ユーリはそう言った仕事を探して参加していた。
ユーリはその日、街壁修理のバイトをこなした。
「お疲れさん。これ今日の日当だ!!ユーリは頑張ってくれたから、ちょっと色をつけてあるぜ」
「親方!ありがとうございます!!」
工事の親方はユーリに今日の日当を渡した。
ユーリは受け取ったお金を握りしめた。
初めて自分で稼いだお金、感動もひとしおだった。
真面目に働き、給料を貰って喜ぶ。そんなユーリに好感を持った親方はユーリに言った。
「いやー。お前は真面目に働いてくれるから、こっちも助かってるぜ。なんならうちで働くか?」
「いえ、探索者のクランでお世話になっているので・・・」
「なんだ!?そうなのか!じゃあ、どうしてここで仕事を?あ、もしかして、彼女にプレゼントとかか?」
親方はユーリの脇を肘で突きながらそんなことを言ってきた。
下世話な話が好きなのはどこへ行っても同じらしい。
彼女のいないユーリは苦笑いするしかなかった。
「そうだったら良かったんですけどね。あいにく彼女は募集中なんです」
「なんだ。俺が紹介してやろうか?二丁目のバーで・・・」
「彼氏はいりません!!」
「はは。冗談だよ」
ユーリは秒で反応した。
どうしてみんなユーリをそっちの道に連れて行こうとするのか。
顔か?顔が男らしくないのか??
いや、そっち系の人はむしろ男らしい顔の方が好みだと聞く。
ユーリが真剣に悩んでいると、親方は続けて聞いてきた。
「しかし、それならなんだ?」
「召喚笛を買うためにお金を貯めないといけなくて」
「?それならダンジョンで稼げばいいだろ。街壁工事よりはずっと稼げるぞ?」
「あーでも、召喚獣がいないと入れないらしくて」
「あれ?おかしいな?確か・・・」
ユーリは親方の話を聞いた後、親方にお礼を言ってクランハウスに向かって全力疾走し出した。
***
バン!と音を立てて扉が開き、ユーリがクランハウスに入ってきた。
クランハウスでは昼食の準備をしている二人がいた。
昼食は今までバラバラに食べていた。
みんな忙しいので手軽に済ませることが多かったからだ。
しかし、昨日ユーリが美味しそうに食事をとり、それを製作者のレイラが嬉しそうに見ていた。
それにフィーが嫉妬して、クランマスター権限を乱用して食事はみんなで食べることとなったのだ。
「あ、おかえりなさい。昼ごはんできてるわよー」
「・・・作ったのは私」
「わ、わかってるわよ」
「・・・フィーはもっと料理を練習するべき」
フィーとレイラがやいのやいのと準備をしているところにユーリはつかつかと近づいて行った。
二人が訝しげな顔をしてユーリを見ていると、二人のすぐそばまで来たユーリは二人の手を取ると、力強く言った。
「ダンジョンへ行こう」
「「はい?」」
「よし行こう」
ユーリは二人の言葉を了承の意と取ったらしい。
ユーリは二人の手を引いて駆け出した。
昼食をほっぽり出したままクランハウスから飛び出した。
「ちょっ。ちょっとまってよ。手!説明。説明してよ。レイラも何か言って」
「・・・私はもう諦めた。ユーリはフィーと同じくらいせっかち。付いて行って、落ち着いてから聞いたほうがいい」
「もー」
ユーリは希望に満ちた顔をして二人の手を引き、
レイラは悟った様な顔でユーリについて行き、フィーは真っ赤な顔をしてユーリについて行った。
***
ユーリが止まったのは探索者ギルドについた後だった。
探索者ギルドの受付は混んでいた。
低階層を探索するパーティーには昼前に一度生産を終わらせて、昼食を外で取るところが多いからだ。
ユーリたちは受付の最後尾に並んだ。
やっと落ち着けたので、列に並んでる間にフィーはユーリに質問した。
「それで、どうやってダンジョンに行くの?まだ召喚笛は手に入っていないわよね」
「今日、街壁修理のバイトに行った時、親方から聞いたんだ。半分が召喚獣を持ってればダンジョンに入る許可が出るって!つまり、三人のうち俺だけ召喚獣を持っていなくてもダンジョンに入れるってことじゃん」
「そうだけど・・・」
「次の方」
話していると、ユーリたちの番が回ってきたらしい。
ユーリは、意気揚々と受付場の前に立った。
「ダンジョンに潜りたいので、許可をください」
「パーティはユーリさん、レイラさん、あと、えーっとフィーさんの三人ですか?」
「はい」
ユーリが元気よく答えると受付嬢さんはバツの悪そうに目を泳がせた。
その後、ユーリに向かって質問をした。
「えーっと、ユーリさんは召喚獣を召喚されましたか?」
「いえ」
「じゃあ・・・」
受付嬢はフィーの方を見た。
その視線にはユーリに対する質問と同じ意味が込められていた。
フィーは無言で首を横に振った。
「お三人のダンジョン探索許可を出すことはできません」
「どうしてですか!?昨日、預託金は払いましたよね!?」
「召喚獣の保持数が規定に達していません」
「え?」
わけもわからずユーリがフィーの方を向くと、フィーは少し俯いて告げた。
その顔には色々な感情が見え隠れていた。
「悪かったわね。私も持ってないのよ、召喚獣」
ユーリは速やかに無言でジャンピング土下座を決めた。
それはそれは綺麗な土下座で周りの人が三歩ほど引いていた。
第三者のレイラは本当にびっくりすると、人は物理的に引くんだなぁなどとどうでもいいことを考えていた。
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