第17話 窓際クランの初ダンジョン

 ギルドハウスの受付前。

 昼食後のピークを過ぎ、空き始めているギルドで数少ない周りの人にドン引きされながらユーリは土下座した。

 そうしろと言われた訳では無いが、そうしなければいけない気がした。

 ユーリが珍しく空気を読んだ。


「別にいいわよ。気にして無いわ」


 あきらかに落ち込んだ様子で、フィーは答えた。

 周りが引いていて、おかしな空気になっていることさえ気づかないくらいに気にしている様だ。

 なんだかんだでユーリに甘いフィーが顔を作りきれていないことを見るだけでどれだけの地雷だったかがわかる。


 二人はおかしな硬直状態に入ってしまい、周りはいきなり始まったプチ修羅場にどうしていいかわからなくなっていた。

 その様子に見かねたのか、受付嬢さんが声をかけてくれた。


「あのー。召喚獣が規定に満たなくても、訓練階層なら案内できますが、どうしますか?」

「「「訓練階層?」」」


 受付嬢さんの言葉に、三人は首を傾げた。

 周りにいた他のクランの探索者も半分以上首を傾げていた。

 得心がいったという顔をしている人はいない。

 どうやら訓練階層の情報は探索者にほとんど知られていないらしい。

 その様子に、受付嬢さんは苦笑いをして、話を続けた。


「あー、フィーさんやレイラさんも知らなかったんですね。ダンジョンの1階層の手前にあるんです。ダンジョンから漏れ出てくる魔物を狩る場所なんですけど、本来はギルド員が狩っているのをお手伝いするような形になります」

「そんなの知らないわ。どうして有名じゃ無いの?」


 そのセリフはそこにいる探索者全員のセリフの代弁だった。

 そんな場所聞いたこともない。

 その問いに対して受付嬢さんはあっさりと答えた。


「あまり利用者がいないからです。取れる魔石は半分ギルドに収めてもらうことになってます。ダンジョンに潜るのと同じ条件があるので、訓練階層に入れるような人は普通に1階層に入れますしね」

「それもそうね」


 たしかに、利用しそうなのが探索者で召喚獣をまだ持っていないパーティだ。

 そうなると、モンスターを倒しても強くなれるわけではない。

 普通のクランなら先輩探索者についてもグッタリの方が実入りはいい。


「じゃあ、どうしてそんなものがあるの?」

「昔の名残ですね。昔は全員が召喚獣を連れていないとダンジョンに入れませんでしたから。その頃は結構利用者がいたそうですよ?」

「・・・そうだったんだ」

「魔物駆逐担当のギルド員も見回ってますし、基本的に助けてもらえますから安全性はダンジョンより高いですよ」


 受付嬢から軽く説明を受けて、その場は解散となった。

 周りにいた探索者は訓練階層に対する興味をなくしたようだが、ユーリたちは興味津々だ。

 ユーリたちは一度ギルドの端で作戦会議を始めた。


「どうする?俺は入ってみたいんだけど」

「・・・私はどっちでもいいけど、フィーは嫌だと思う」

「そんなことないわよ!」

「・・・でも、前に私とはダンジョンに潜りたくないと言ってた」

「!あ、あれは・・・。あの時はごめんなさい。今はそんなこと思ってないわ」

「よし!じゃあ決まりだな!早速受付に行こう」

「そうね!」


 ユーリが立ち上がって受付に向かおうとした。

 フィーもそれに追随して立ち上がった。

 そんなユーリとフィーの服を掴んでレイラが止めた。


「・・・待って」

「?どうした」

「・・・二人とも、武器と防具は」

「「あ」」


 冷静になった二人は恥ずかしそうにクランハウスへ戻っていった。


 残されていた昼食のサンドイッチは三人で美味しくいただきました。


 ***


 装備を整えて三人は訓練階層に来ていた。

 訓練階層は洞窟のようなところだった。壁が光ったりしているわけではなく、定期的に光る石のようなものが設置されていた。

 ユーリはボロい剣と盾を持っており、レイラは魔術師らしい長い杖、フィーは身の丈ほどの大剣を担いでいた。


「本当に盾として使うのね。その鍋蓋」

「・・・ないよりはマシ。たぶん」

「防具はないから、せめて盾くらいはもっときたくてな」


 ユーリは盾をコンコンと数度叩いた。

 強度は十分ありそうだった。

 しかし、ユーリは謎皮の防具は着ていなかった。


「あの防具は着なかったのね。来てきたら1メートル以上離れて歩いてたわ」

「・・・同意」

「二人ともひどいな」


 三人でそんな話をしていると、目の前に大型犬サイズのミミズが出てきた。


「うわ!キモ!なにあれ」

「あれはミニシーワームね。小さめの個体だけど」

「うそ。あれで小さいの?」


 大型犬サイズのミミズを見てユーリは軽く腰が引けていたのに、女性二人は平気な様子だった。

 その上、この先にもっとでかいのが出てくるらしい。

 若干帰りたくなっていた。


「・・・本来はあの倍くらいある」

「・・・冗談だろ?それでミニとか普通のシーワームはどんだけでかいんだよ」

「シーワームは三メートル以上の個体のことらしいわ」

「まじかよ」


 ユーリは軽く絶望していた。

 軽自動車サイズのミミズである。考えるだけで嫌になる。

 お家帰りたい。


「まず、目の前の敵をかたずけましょ」

「はあ。そうだな。とりあえず俺が一当てして惹きつけるよ」

「・・・了解」


 ユーリは剣を構えてふたりのまえにでた。

 流石に女の子に先鋒を任せるわけにはいかない。


「よろしく」

「よし。うりゃー」


 ユーリがボロい剣で切りつける。しかし、歯も通らず、効いている様子はなかった。

 しかし、注意は引けたようで、ミニシーワームはユーリに向かって体当たりをした。


「うわ、思ったより重い」


 ユーリはそれを鍋の蓋で受け止めた。

 鍋の蓋はギシギシと嫌な音を立てたが、壊れる様子はなかった。


「アイスアロー」


 ユーリとシーワームの距離が離れた隙にレイラの魔法が飛んで行った。

 ユーリを飛び越えてやまなりに飛んで行った魔法はシーワームの当たった。


「よし」


 氷の矢を受けたミニシーワームは何事もなかったかのように進んでくる。

 当たりはしたがユーリの剣同様あまり効いている様子はなかった。


「な、どうして」

「シーワームは水属性だから氷系の攻撃は効きにくいのよ」

「そうなのか!?うわっ!」


 みにシーワームは再び体当たり攻撃をしてきた。

 ユーリは再び鍋の蓋でそれを受けた。

 鍋の蓋は無事だ。どうやら、盾として十分役立つらしい。


「今度は私が!」

「頼む」

「うりゃー」


 フィーは大剣を振り上げ、ヨタヨタと走った。

 そして掛け声とともに脳天めがけて剣を振り下ろした。

 そう、ユーリの脳天めがけて。


「うわ」


 ユーリは間一髪フィーの大剣をかわした。


「危ないな!敵はこっちじゃなくてあっちだ」

「手が滑ったのよ」

「えー」


 ユーリはフィーにジト目を向けた。

 そして、ミニシーワームから目を話してしまった


「・・・!ユーリ!後ろ!」

「へ?」


 意識の外にあったミニシーワームはユーリに向かって体当たりを仕掛けてきた。

 ユーリはフィーの大剣を避けるために体勢を崩していた。

 ユーリは体勢を立て直す間も無くミニシーワームの体当たりをもろにくらい吹っ飛んだ。


 その後、三人は駆逐担当のギルド員さんに助けてもらった。

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