第15話 窓際クランの探索準備

 朝の騒動はあったが、フィーとユーリは一緒に食卓に座っていた。

 ユーリはビクビクしており、フィーの顔は真っ赤だったが、朝食中に何かを起こすことはなかった。


 食事の邪魔をするとレイラが怒るのだ。

 フィーにとって、レイラの機嫌を損ねるのは、食事ができないことに繋がる。

 以前、レイラと喧嘩した時、自分で作ろうとして、謎物質を生み出してしまったうえ、キッチンを魔窟に変えてしまった。(キッチンの片ずけでレイラとは仲直りした)


 そして、食事を終わらせた後、ギスギスした空気を振り切る様にユーリは開口一番言った。


「よし…じゃあ、今度こそダンジョンに行こう!」

「はぁ。まあ良いけど」

「・・・準備、できてるの?」

「勿論!!」


 ユーリは机にドンと荷物を置いた。


「まずは剣」

「ボロい剣ね」

「・・・今にも折れそう」


 最初にユーリの取り出した剣は古い剣だった。

 そして、女子たちの意見は辛辣だった。

 その件はいまにも折れそうなほどボロボロだった。

 その辺の駆け出し冒険者でももっといいものを使っていそうだ。

 ユーリはめげずに次のアイテムを取り出した。


「これが盾だ」

「なにこの盾?木製じゃない!」

「・・・これは盾じゃなくて、鍋の蓋」


 次にユーリが取り出したのは丸い木製の盾だった。

 木だけでできているそれはぱっと見鍋の蓋に見える。もしかしたら鍋の蓋に取っ手をつけたものかもしれない。

 盾にも辛辣な意見がついた。

 やめてあげて。ユーリのライフはもうゼロよ。


「くっ。次が革鎧」

「うわ何よそれ!クッサ!!」

「・・・それは流石に捨てた方がいい」

「ちょっとそれきたら近寄らないでよね」

「ごめん。俺もこれは着たくなかった」


 次にユーリが取り出したのは年代物の革鎧だった。

 手入れが良くなかったのか、異臭を放っていた。

 ユーリも反論できなかった。

 そして、ユーリはがっくりと机に突っ伏した。

 ユーリは目の前が真っ暗になった。


「ちょっと。まともに使えそうなものがないじゃない!」

「・・・これじゃ持ってるだけで使えない。武器は装備しないと意味がない」

「!!まさかこんなところでその名台詞が聞けるとは!!」

「・・・?」


 レイラのセリフでユーリはガバッと起き上がった。

 二人には訳がわからなかったが、何かが琴線に触れたらしい。

 まぁ、ユーリの訳の分からない台詞はいいとして、装備は全部使えないことがわかった。


「ユーリの装備を揃えるところからか。ところでユーリ、アンタ笛は?」

「笛?なんだそれ?フルートなら少し吹けるぞ?」

「ふるーと?まぁ何それ?そうじゃなくて召喚笛よ。無かったら始まらないでしょ?」

「・・・位階も上がらない」

「いかい?」

「え、何アンタ。まさか、知らないの?」


 知らない情報が出てきて目を白黒しているユーリに対して、立ち上がりフィーは自信満々に説明の体制に入った。

 フィーは「しょうがないわねー」と言いながらメガネをかけた。

 なんでメガネ?

 そして、レイラがどこからか黒板の様なものを持ってきた。

 そんなものどこから出てきた?


「ダンジョンに潜れば強くなるって言われてるのは知ってる?」

「探索者が強くなっていくのはテンプレだよな」

「テンプレ?何を言ってるかは分からないけどそれは正しくないわ」

「え。魔物を倒せべレベルアップしていくんじゃないの?」


 ユーリは戦闘によって経験値が得られて、強くなっていくものだと思っていた。

 ロールプレイングゲームや最近の小説の定番だ。


「・・・魔物を倒して強くなるのは魔物だけ人間や動物は強くならない」

「うそ。でもこの前、三馬鹿がダンジョンに潜ってるから強いって」

「そう。ダンジョンに潜ってる人は強いわ。でもそれは探索者自身が強いんじゃなくて、探索者と契約している召喚獣が強いのよ」

「召喚獣?」


 初めて聞く単語が出てきた。

 ユーリは召喚獣なんていうファンタジー要素聞いたことがあれば忘れないはずなんだが。


「そう。探索者と契約した召喚獣は間接的に魔物を倒すことで、強くなり。契約を通して召喚獣の力を受け取ることで探索者も強くなる。そういう風にして探索者は強くなってるのよ」


 さっきレイラが出してきた黒板に可愛らしい獣っぽいのが虫っぽいのを倒して何かを吸収している図が描かれていた。

 レイラが書いたのだろうか。ちょっと絵が上手い。


「なるほど。ダンジョンアタックものじゃなくて、育成シミュレーションだったんだな。じゃあ、なんで召喚獣に戦わせないんだ?」

「いくせい?何を言ってるかわからないけど、召喚獣は戦えるほど強くないわよ?」

「・・・召喚獣が単独で戦えてら、人間と契約する意味がない」

「なるほど」


 一種の共生関係ということか。

 人間は召喚獣を育て、召喚獣は人間を助ける。

 召喚獣は人間から糧を得るという恩恵を受け、人間は召喚獣から強くなるという恩恵を得る。


「そして、その召喚獣を呼び出すのが召喚笛。原理はよくわからないけど、笛を吹けば何かしらの召喚獣が出てくるらしいわ」

「・・・ちなみに私の召喚獣がこの子」


 レイラが右手を前に出すと、その手にどこからともなく出てきた一羽の鳥が泊まった。

 レイラと同じ、真っ赤な瞳をした子犬サイズの白い鳥だ。

 そんなのがいれば気付かないはずないから、きっと召喚したのだろう。


「・・・名前はライフ」

「可愛いな。よろしくな。ライフ」


 ユーリはレイラにとまったライフに挨拶をした。

 ライフはユーリを一瞥した後、ツンとそっぽを向いてしまった。

 嫌われてしまった様だ。

 ユーリはがっくりと肩を落とした。


「まぁ、とりあえず、召喚笛が必要ね」

「それって高いものなのか?」

「まぁ、安いものでも金貨10枚はするわね」

「高っ!」

「・・・当たり前。ダンジョンの中の宝箱から出てくるもだから」


 ダンジョンには宝箱がある。どういう原理でなぜあるのかはわからないが、だいたい一つのパーティーが1ヶ月で1つ見つけられるくらいの割合で出てくるらしい。

 本当にファンタジーだなとユーリは思っていた。

 そして、そんなダンジョン産のアイテムは総じて高い。

 基本的に探索にしか使えないものらしいが、美術品の様に貴族が買い求めるらしい。


「まぁ、仕方ないな。普通はどうやって手に入れるんだ?そんなもの」

「・・・親の召喚獣を引き継ぐこともある。そうじゃなくても、普通は探索者になったお祝いとして一つもらう」

「大きなクランでは手に入れた笛を取っておいて、新人にあげたりするらしいわ」

「はぁ。結局職探しをしないといけないのか」


 ユーリはままならない現状にため息を吐いた。

 そして、外から時刻を告げる鐘の音が聞こえてきた。

 どうやら、仕事が始まる時間らしい。日雇いの仕事はこの時間に探し始めないといけない。


「まぁ、頑張って」

「いってきまーす」

「「いってらっしゃい」」


 クランハウスから出て行くユーリをフィーとレイラは笑顔で手を振って見送った。

 クランハウスには暖かな空気が満ちていた。

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