第13話 窓際クランの後日談

 その日、クランハウスのロビーには衛兵のラルフさんがきていた。


「これは『紅の獅子』の金庫で間違いないか?」

「はい!間違いありません!!」


 フィーは衛兵のラルフさんから満面の笑みで金庫を受け取った。


 あのあと、ユーリが見つけたかくし通路から脱出し、クランハウスに戻ってきていた。

 ユーリ自身もいろいろやらかしていたため、衛兵に名乗り出たりはできず、金庫は諦めていた。

 だが、火事の件もありことは大きくなり、あの小屋は王国に調査された。

 そして、地下室が見つかり、そこに多くの盗品があった。


 普通、こういうものはなかなか帰ってこなかったり、帰ってきたとしても一部だったりするのだが、今回は持ち主のわかるものはすぐに返すということになったらしい。

 盗品の中に貴族の持ち物もあったようなので、それが原因かもしれない。


 帰ってきた金庫に頬ずりをし、キスまでし出したフィーに少し引き気味のラルフさんがユーリに話しかけてきた


「まぁ、なんだ。ラッキーだったな。金庫が帰ってきて」

「ほんと。“何もしてない”のに、ほんとラッキーでした」


 ラルフはユーリに訝しげな目で見ていた。

 ユーリは釘をさすつもりも込めて、何もしていないと言って見た。


「そういえば、あの地下室から出てきた三人組がいて、それが君たちに似ていたという話があるんだが」


 フィーはビク!となって止まった。

 レイラも本から顔を上げてユーリとラルフを見ていた。

 ユーリは動揺を押し殺して言った。


「へ、へーそうなんですか」

「・・・まぁ、肥料屋への補填は地下室にあった金貨でされたし、結局あの建物は持ち主不明だから、これ以上捜査をすることはできないからいいが。盗品の返品も終わったしな」

「(ほっ)」


 ラルフさんはそれ以上追求するつもりはないようだった。

 ユーリはホッと胸をなでおろした。


「これでクランとしてダンジョンにいけるじゃないか」

「いろいろ大変でしたけど、やっと最初の一歩ですよ。今までダンジョンに潜ることすらできなかったですからね」


 ユーリの発言にラルフは驚いた様な顔を向けた。


「なんだ。他のクランに支援とかしてなかったのか?」

「?なんですか?それ?」


 ユーリは本当にわからなそうな顔をした。

 ラルフはレイラとフィーの方を見た。

 フィーは不安そうにユーリのほうを見て、レイラもさっきから本が全然進んでいない。

 ラルフは少し考えた後、意を決した様に告げた。


「クランに所属することで、ダンジョン探索の権利が得られる。だから、溢れたメンバーとか、クランの折り合いが悪い場合は他のクランに混ぜてもらってダンジョンへ行くんだよ。功績がメンバーを入れてくれたクランの方に入るからあまりやられないけどな」

「へー。そうなんだ」


 フィーとレイラは不安そうな表情でユーリを見ていた。

 もしかしたら、ユーリは別のクランに行ってしまうかもしれない。

 ユーリにとってはその方がいいかもしれないと思ってしまったのだ。

 そんな風に顔に書いてあった。


「まぁ、俺はこのメンバーで潜りたいから、別にいいかな」


 フィーは満面の笑みを浮かべた後、赤い顔をしてそっぽを向いた。

 レイラもほっとしたように浅く息を吐いた。


「フン。しょうがないから一緒に潜ってあげるわ!」

「・・・フィーは素直じゃない」

「うるさいわよ」


 フィーとレイラが取っ組み合いのけんかを始めてしまった。


「はっはっは。仲が良くて良いじゃないか」

「そうですね。自慢の仲間です」


 ユーリとラルフがほほえまし気に二人を見ていると、二人の取っ組み合いはどんどんヒートアップしていって、キャットファイトとでもいう雰囲気になってきた。


「そろそろ止めたほうがいいのではないか?」

「そ、そうですね」


 ユーリは二人の間に入り、けんかの仲裁を始めた。

 当然のように二人の攻撃の矛先はユーリへ向かった。


「もしかしたら、彼らならこのクランを再び王国のトップクランにしてくれるかもしれないな」


 ラルフはじゃれあう三人を見ながらそんなことを考えていた。


 ***


 とある国の王城、謁見の間。

 国王に向かって男性が報告を行なっていた。


「見つかったか?」

「申し訳ありません。しかし、有力な手がかりが手に入りました」

「ほう?」


 つまらなそうに報告を聞いていた国王が、報告をしていた男に顔を向けた。


「西の方から力を使った形跡を観測しました。時間も短く、力も弱かったため、場所の特定には当たりませんでしたが、ほぼ間違い無いかと」

「西、か。そちらを重点的に探せ」

「御意」


 男は国王に深々と頭を下げて、了承の意を示した。


「もう、大聖霊の不在による影響は出始めている。早急に見つけて連れてこい」

「承知しました。抵抗した場合はいかがいたしますか?」


 男の問いに国王はつまらなさそうに鼻で笑い告げた。


「殺せ」


 その言葉にはなんの感情もこもっていなかった。まるでそれが当たり前であるかのように。


 この王国の西にはサンティア王国が存在していた。

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