第12話 窓際クランの救出劇 3
ユーリとレイラは拘束を解くのに苦戦していた。
適当に結んだのか、結び目はぐちゃぐちゃだ。
切ろうにも持っている刃物は剣だけ。これではフィーを傷つけてしまうかもしれない。
ユーリとレイラがフィーの拘束を解いていると、ふとフィーはおもいだしたようにいった。
「そうだ!金庫があったの!持って帰りましょう!」
「だめだ。そんな重いもの持って帰る余裕はない」
ユーリはフィーの提案をバッサリ却下した。
できるだけすみやかに撤退するために、荷物は少ない方がいい。
「な、なら中身だけでも」
「中身も重いだろうが」
「じゃあ・・・」
フィーはどうしても金庫を諦めたくないようだ。
フィーを説得するより、簡単に持って帰る方法を考えた方がいいかもしれない。
ユーリが何か持って帰る方法はないかと考え始めた時、レイラがフィーの頭をガシッと掴んで、その瞳を覗き込みながら話し始めた。
「・・・フィー。お金なんかより、フィーが大切」
「レイラ」
フィーはレイラの真剣な瞳に少したじろいだ。
彼女にこんな風に見られたのは初めてだった。
「・・・お金はまた稼げばいい。方法はいくつかある」
「でも・・・」
レイラも頑固だが、フィーもなかなかの頑固ものだ。
ユーリはあの真剣な瞳で見られると折れてしまいがちなのに、フィーはなかなか折れない。
レイラはらちがあかないと攻め手を変えることにしたようだ。
「・・・ユーリ、このまま運ぼう。足の方もって」
「え?」
レイラのぶっ飛んだ発言にユーリは一瞬固まった。
レイラはうるさいフィーを縛られたまま運ぼうと考えたのだ。
合理的といえば合理的かもしれない。
これには流石にフィーも折れた様だ。
「もー、わかったわよ。諦めます」
「・・・わかればいい」
やっとフィーが折れたようなので、レイラは拘束を解く作業に戻った。
ユーリはホッとしていた。
縛られた少女を運ぶとか、どう見ても事案である。
それからそれほど時間がかからず、フィーの拘束は解くことができた。
「よし、じゃぁ帰るか」
「そうね」
「・・・帰ったら晩御飯にする」
その時、ドアがバタンと音を立てて開いた。
「テメェら、やっぱりいやがったか!」
「な!?お前らどこから入ったんだ!?」
ドアから三馬鹿のうちの二人が入ってきた。
「時間切れか」
ユーリはレイラとフィーを後ろに隠しながら剣を構えた。
そして、チンピラ二人に向かって言った。
「クソまみれだな。クソ野郎。お似合いだぞ」
「やっぱり表のはお前の仕業か!!ぶっ殺してやる!」
「三対二なら俺たちに勝てると思ったら大間違いっすよ」
三馬鹿は自信満々だった。
その様子を見て、ユーリは後ろにいる二人に声を抑えながら聞いた。
「あいつらってそんなに強いのか?」
「くやしいけど、あれでも3年はダンジョンに潜っているからね。まだ潜っていない私たちと比べれば強いわね。まぁ、真面目にはやってなかったみたいだけど」
「・・・三対一だとなんとかなるかもしれない。三対二だと不意打ちでもしない限り多分勝てない」
それを聞いて、安心したように笑った。
理由はよくわからなかったが、ユーリの笑顔を見てフィーとレイラは安心感を抱いた。
「は、じゃぁ、問題なく勝てそうだな」
「は、強がりも大概にしろ!テメェごとき・・・」
激昂するチンピラのセリフを遮る様にユーリはゆっくりと言いながら近くにあったテーブルに近づいた。
「なぁ、地竜って知ってるか?」
「はぁ?何言ってんだ」
いきなり語り出したユーリにチンピラは訝しげな表情を向けた。
フィーとレイラも何が起きるのか不安そうな顔になったが、ユーリは気にせずに続けた。
「地竜はすごいぜ?足は早いし、力持ち。重い荷物も軽々運ぶ」
「だからどうしたってんだよ」
「草食でその辺の雑草やサボテンみたいな植物でも食べれて、フンは肥料の材料として重宝される」
そこまで聞いて、チンピラは自分が地竜の糞にまみれていることに気がついた。
後ろのチビなチンピラはピンときていないようだったが。
だが、ユーリの本当の意図には気づいていないようだ。
「そんなだから砂漠では重宝されるらしい。フンと砂に混ぜて薪の代わりにもできるらしいからな。よく燃えるらしいぜ?地竜のフンは。こんな風に、な!」
「!!!」
「うわ」
ユーリはテーブルの上にあった燭台をチンピラ達に投げつけた。
ひょろ長のチンピラはユーリの意図に気づき、直前でひっしでよけたが、小柄なチンピラは両手で防いでしまった。
腕に付着した地竜のフンに引火して、小柄なチンピラの手が燃え上がった。
「わー!手!!火!!熱い!!!熱いー!!!アニキー!!助けて!!!!」
「わーこっちくんな!!クソ!!覚えてろ!!!!」
チビのチンピラは助けを求めてひょろ長のチンピラによっていき、ひょろ長のチンピラは引火させたれたらたまったものではないと思い、逃げて行った。
***
走り去っていくチンピラを見送りその背中が見えなくなった。
そこでやっとユーリは剣を下ろし、大きく息を吐いた
(一か八かだったけど、思ったより地竜のフンが燃えてくれて助かった)
ユーリがはちょっと火がつくかな?むしろ、燭台の油に燃え移って勘違いしてくれたらラッキー!
くらいの考えだったが地竜のフンはよく燃えた。あたかも油やアルコールの様だった。
きっとファンタジー的な何かだったんだろう。
「よし、俺たちも後を出よう。こんなところにいても・・・」
ユーリがフィーとレイラに脱出しようと言おうとした時、小屋の外から大きな声が聞こえてきた。
「お前ら仕事を投げ出して何してやがった!って!火だるまじゃねぇか!」
「あ、アニキー。たすけてー」
「うわくるんじゃねぇ!」
「うわー!商品に燃え移った!!」
どうやら、外は大変なことになっているらしい。
声から想像するに、小屋の前にあったフンにチビのチンピラの火が燃え移ったのだろう。
「!まずい!早く出よう!」
「・・・急がないとまずい」
このボロ小屋ならすぐに燃え移る。
燃えてしまえば崩れるのはすぐだろう。
あのフンの燃え方からいうと、一気に爆発するかもしれない。
何にしても早く逃げるに越したことはない。
「そうね。・・・あれ?」
フィーは何度も立ち上がろうとしたが、うまく立ち上がれないようだった。
その様子を逃げるために剣などのいらないものを捨てていたユーリが気づき、声をかけた。
「どうした?」
「ごめん。立てない。かも」
さらわれ、強姦されそうになり、さっきは殺されそうになったのだ。
短い間に色々あり、腰が抜けしまったのだろう。無理もない。
ユーリはそんなフィーの前にしゃがみ、背中を向けた。
「仕方ない、おぶされ」
「で、っでも・・・。うわ、レイラ!何するの」
渋るフィーをレイラは肩を掴んで運び、ユーリの背中に押し付けた。
「・・・時間がない。はやくする」
「わかったわよ」
そこまでされれば流石に諦めたのか、フィーはおとなしくおぶさった。
ユーリは背中の柔らか・・・いか微妙な感触にドキドキしながら立ち上がった。
そして、恥ずかしいのを隠す様に大声で言った。
「よし。急ごう」
「・・・ん」
三人は出口に急いだ。
そして、もうすぐ出口、そう言えるところまできた。
「よし!もうすぐ出口だ」
「・・・!ユーリ!止まって!」
「?どうかしたか?」
レイラは何かを感じたらしく、ユーリたちに止まる様に指示をした。
ユーリはレイラの普通ではない様子に、立ち止まった。
立ち止まってすぐになぜレイラが止まれと言ったのかわかった。
ーーーガラガラーーー
外の小屋が崩れてきた。
そして、出口が開いていたのか、流れ込んできた燃える瓦礫で出口が埋まってしまった。
「くそ、出口が」
「・・・ぼろ小屋だったから、仕方ない」
「ゴホゴホ。ちょっと、これからどうするのよ!?」
ユーリは少し考えた。
密閉されていれば立てこもっても良かったかもしれない。
しかし、入り口がこんな状況なら、ほぼ間違いなく地下室の中も熱くなるだろう。
つまり、何とかして脱出する必要があるということだ。
ユーリは決意を決めてゆっくりとフィーをその場におろした。
「別の出口を手分けして探そう!」
「・・・ん。フィーはここで待ってて。足手まといだから」
「ちょっ。そんな言い方なくない?事実だけど」
ユーリとレイラはフィーを置いてその場を離れ、手分けして出口を探し出した。
ユーリはすぐ近くの部屋に入り、レイラとフィーの視線が途切れたこと確認した。
そして、頑丈そうな地下室の壁に手をついた。
「まぁ、金庫に隠し通路なんて普通ないよな」
ユーリはこの地下室に出口はないだろうと思っていた。
周りを見れば金銀財宝の山。
ここはどうやら宝物庫や金庫のように大切なものの保管に使われているようだ。
そんなところにいくつも出入り口をつけたりしない。
あったとしても簡単には見つけられない様なものだろう。
偉い人は言いました。ないなら作るしかない。
「使いたくなかったんだが。母上との約束を破ることになるし」
ユーリは母親の顔を思い出して少しだけ力を使うことを躊躇した。
そのあと、レイラとフィーの顔を思い出し、決意を固めた。
「ここは地下だし、少しだけなら特定されることもないか。ないと信じよう」
ユーリは最小限の力で彼の秘密の力を使った。
『我は乞い願う・・・』
ユーリの力によって、壁は形を変えて、外へとつながる大きな階段へと姿を変えた。
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