第7話 窓際クランの盗まれた預託金

 クランハウスに帰ってきたユーリたちは食堂にもどってきていた。

 ユーリがサンドイッチを頬張りながら言った。


「預託金が白金貨500枚って高すぎないか?」

「・・・そうでもない」

「高くは無いわね」


 クランハウスに帰ってきて、ユーリは切り出したが、賛同は得られなかった。

 まぁ、常識の足りて無いユーリが高く感じるのはわかる。

 フィーはその原因を説明した。


「預託金は基本的に年末に帰ってくるから、それをそのまま次の年に渡せばいいのよ」

「・・・クランの乱立防止のためにも、かなり高いの金額になってる」

「じゃあ、去年返してもらった分がこのクランにもあるってことだな」


 ユーリが目を輝かせながら身を乗り出して興奮気味に言った。

 フィーはその視線から逃れるように視線を逸らした。

 そして悔しそうな顔をしていった。


「ないわ。あったらとっくに払ってるわよ」

「なんでだよ!?・・・ひっ!ごめんなさい」


 フィーはユーリを睨みつけた。

 それによってユーリは速攻で謝った。

 レイラはそれをみて、話が進まないと感じ、説明を引き継いだ。


「・・・誰かにとられた。金庫ごと」

「誰かって何よ。ハイエナの連中に決まってるじゃない」


 フィーはいらだたしげに席に座りなおした。

 レイラはフィーの方に向かっていった。


「・・・でも、証拠がない」

「え?どういうこと」


 理解できていないユーリに二人は説明をした。


 フィーとレイラがいうには、事件が起きたのは去年の暮れらしい。

 いつも通り預託金を返してもらい、例年通り地下室の金庫にしまっておいた。

 年明け、預託金を持って行こうと金庫のところに向かうと壁に大穴が開いており金庫が丸ごと盗まれていた。


「金庫は暗証番号が必要でそれは私とオーナーしか知らないから大丈夫だと思ってたけど、まさか金庫ごと持っていかれるなんて・・・」

「・・・当時いたメンバーと一緒に探したけど見つけられなかった。『灰色の狼』はクランハウスやメンバーの家なんかも捜査されたけど、金庫は見つからなかった」

「何かカラクリがあるに決まってるわ」


 フィーは肩を怒らせながら告げた。


「・・・私もそう思う。でも、それがわからないからどうしようもない」

「っっ!!何なのよアンタ!!いつも飄々として、悔しくないの!!」


 フィーはいらだたしげに机を叩いて立ち上がった。

 レイラはフィーと目を合わさずに告げた。


「・・・私も悔しい。でも、どうしよ・・・」

「じゃあ、何か手を打ったらどうなのよ」

「・・・それは、クランマスター代理の仕事」


 レイラがそう言うと、フィーは、レイラの隣に歩いて行き、掴みかかりながらいった。


「はー!?あんたねぇ!」

「まぁまぁ、ここで二人でいがみ合っても何も進展しないから。建設的な話し合いを・・・ひっ!」


 止めに入ったユーリはフィーのひと睨みで黙らされてしまった。

 本当におっかない。

 フィーはレイラを話して、ユーリに向かっていった。


「ユーリ!仮に預託金が見つかったとしても、こいつとはパーティー組まないから!!」

「へ!?なんで??」

「嫌いなのよ。こいつみたいに才能があるのに全力で探索者をやらないやつ」


 レイラを憎々しげに観ると、レイラは少しいらだたしげにフィーを見返した。


「・・・それは、あなたも一緒」

「な・・・!!」


 喧嘩が再開しそうになった時、ロビーの方から扉を開く音が聞こえてきた。


 ***


 三人がロビーに着くと、三人の探索者が入り口から入ってきていた。


「邪魔するぜー」


 入ってきたのは、昨日、ユーリがクランハウスにいたいデブ、チビ、ヒョロの三人組だった。


 三人が入ってきた瞬間、二人が殺気立ち出した。


「アンタたち。わたしは二度とくるなって言ったわよね!裏切り者!!」


 入ってきた三人をフィーは憎々しげに睨みつけた。


「まぁまぁ、フィーちゃん。先のないクランから移動するのは当然のことだろう?それに、俺たちの話は君にとっても悪い話じゃないはずだぜ?」

「そんな風に呼ぶことをあなたたちに許したつもりはないわ!何度きても答えは一緒よ。私はアンタたちの仕事を手伝うつもりもないし『ハイエナ 』には入らない」


 まさに一触即発といった様子だ。

 そこにひょろ長のチンピラはさらに爆弾を投下した。


「レイラちゃんも一緒でいいからさ〜」

「・・・私も、このクランを捨てるつもりはない」


 まさに一触即発の雰囲気の中、ユーリは後ろでその様子を観察していた。

 そして、何かに気づいた様にハッとした顔をして、もみ手をするようにユーリが三人組に近づいた。


「あのー」

「あん?なんだお前」


 いきなり近づいてきた三人に訝しげな顔を向けた。

 ユーリはネチャっとした笑みを浮かべながらリーダーと思しきひょろ長のチンピラにすり寄った。


「あ、僕、このクランに新しく入ったものなんですけど」

「はっ!こんな終わってるクランに入る奴が居るとはな」

「何ですって!!」

「まぁまぁ」


 ユーリはフィーをなだめながらさらにチンピラにすり寄った。


「それでなんですが、二人の説得に成功したら、僕も入れてもらえるのかなーって」

「はぁ!!アンタなにいって・・・」

「フィーはすこしだまってて!」


 フィーに睨まれたユーリはフィーを睨み返していた。

 今までにない反応に、フィーは思わず黙ってしまった。

 何より、いつもは優しそうなユーリの瞳に真剣な光が宿っており、息を飲んだ。


「男はお呼びじゃないんだよ!ねぇ、兄貴!あいてっ!」

「そーだそーだ!あいてっ!」


 二人のチンピラはユーリの意見を否定しようとした。

 しかし、ヒョロは二人を殴って黙らせると、ユーリの方に向き直り胡散臭い笑顔を浮かべた。


「お前らは黙ってろ!もちろんだとも元とはいえ、クランメンバーが困っていたら助けるのは当たり前だろ?」


 ひょろ長のチンピラは大袈裟に手を広げながらそういった。


「ほんとうですか!?いやー、かなり困ってたんですよー。探索者の活動ができなくて。頼りになる先輩がいて良かったなー。二人は明日までに説得しておくんで、明日またきてください!」

「本当かい?イヤー、優秀な後輩を持って僕は嬉しいよ!じゃあ、あとはよろしく頼むよ?」

「はい!先輩方」


 ずっと困っていた内容に方がつきそうだからか、三人組は、上機嫌で帰っていった。

 その顔には下品な笑みが浮かんでいた。

 そのため、扉が閉まる瞬間、作り笑顔が剥がれて怒りの形相をしていたユーリに気づくことはなかった。

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