第6話 窓際クランの呪いの置物再び

 ユーリはクランのロビーで頭を抱えていた。


「どうすればいいんだ」


 ユーリはこの日二度目の難題に直面していた。

 さっきとは少し違う難題だが。


「人がいない」


 クランメンバーがほとんどやめてしまった今のギルドで、パーティーが組めない。

 かといって、その辺に歩いている人にパーティーに入ってもらうわけにはいかない。

 クランに入るか入らないかはクランマスターが決定する。

 このクランでは、フィーがクランマスター代理をしているらしいが、いれられるのはある程度の信頼が置ける人だけだ。

 俺の場合は、叔父にあたる人が紹介状を書いてくれたから入ることができたが、普通の人は入れられない。

 入れられるような信用のある人はこんな窓際クランじゃなくて、もっとまともなクランに入っていく。

 新人を入れるにしても、普通は3年間の準クランメンバー期間を経て、正式にクランメンバーになるという手順を踏むことになるらしい。


「八方塞がりだな・・・。別のクランから誰か借りられないか」


 ユーリはクランハウスの片隅でまたブツブツと喋る置物となった。

 今度は人様に迷惑を掛けていないから問題にはならない。


 ユーリが置物をやっているとクランハウスの扉が開き、青髪の少女が入ってきた。

 少女はユーリに一瞥を向けた後、扉を閉めてロビーの入ってきた。


「・・・ただいま」

「おかえりー。・・・あの時、愛たちはどうしてたっけ?・・そうか、友人に頼んだんだったな。この手は使えない・・・」

「・・・」


 青髪の少女は一度、ユーリに一度ジト目を向けた後、窓際のお気に入りの席に座り、本を読み始めた。

 それからしばらくの間、ユーリの独り言と少女のページをめくる音が続いた。


 ***


 静寂(?)は唐突に終わりを告げた。


「(ぐー)」


 ユーリの腹の虫が鳴いたのだ。

 少女は本を閉じて立ち上がり、奥へと歩き出した。


「・・・そろそろお昼だから、昼ごはん、作る」

「あ、俺も手伝うよ」


 青髪の少女に続いてユーリが立ち上がった。

 そして、少女の後を追って行った。


「今日の昼ごはんはなに?」

「・・・バイト先でパンを分けてもらえたから、・・・朝ごはんの残り物を使ったサンドイッチ」


 少女はカバンから食パンの様なパンを取り出し、朝食の残り物と思しきハムやサラダの横に並べた。

 ユーリは、少女の横に立った。


「まじか、朝ごはん美味しかったから楽しみだわ」

「・・・ありがとう」


 その後、ユーリがパンを切り、切ったパンに少女がおかずを挟んで行き、二人で三人分のサンドイッチを作った。

 そして、朝食でも使ったクランハウスの食堂へ移動し、食事を始めた。


「じゃあ、いっただっきまーす」

「・・・いただきます」

「んーうめー」

「・・・」


 サンドイッチは美味しかった。

 ハムの塩味とサラダのみずみずしさがいい感じに調和しており、いくらでも食べられそうだった。


 昼食をある程度食べ進めて、ユーリはふと気づいてしまった。


「?あれ?・・・君、誰?」


 さっきから話しているこの少女はいったい誰だろう?と・・・。

 気づくの遅すぎる。


「・・・私はレイラ」

「・・・え!?それだけ?」


 少女の自己紹介はとても簡潔だった。

 名前だけというのは自己紹介と言っていいか甚だ疑問ではあるだ。


 ユーリも流石に突っ込まずには居られなかった。


「それだけと言われても困る。今更何を話せばいい?」

「今更って・・・」


 レイラは食事を一度置いて、ユーリの方を向いた。


「昨日の夕飯も今朝の朝食も一緒に食べてた。あなたがずっとブツブツいっていて気づいていなかっただけ」

「え?うそ!?」

「ほんと。ちなみに料理を作っているのは私」


 ユーリが気づいていなかっただけでレイラはずっとクランハウスにいた。

 ついでに言うと、かなりお世話になっている。


「三人目いるじゃん!!」

「・・・三人目?なんのこと?」


 ユーリとレイラがそんな話をしていると、フィーがクランハウスにかえってきた。


「ただいまー」

「よし!フィー!ダンジョンに行こう!!」


 ユーリは帰ってきたフィーの手をがっしりと掴んだ。


「は?何いきなり??」

「レイラも!!」


 反対の手でレイラの手を掴み、ユーリは勢いよく駆け出した。


「・・・」

「ちょっとまってよ、ていうか手繋ぐな!・・・武器とか。あーもう!!」


 ユーリは二人の手を取ってダンジョンへと向かって走り出したのだった。


 ***


「『紅の獅子』の皆さんをダンジョンに入れることはできません」

「な、どうして!?」


 ダンジョンの入り口に立つ探索者ギルドの受付で受付の女性にユーリはそう言われて門前払いを食らっていた。


 ダンジョンの入り口には探索者ギルドがある。

 国の主要産業であるダンジョンである。管理はしっかりされている。

 その管理をするのがこの探索者ギルドだ。

 そういう役割から、お役所の様にきちりとしている。

 酒場も隣接して存在するが、そこで探索者たちは比較的おとなしめである。

 交番の前で騒ぐ奴がいないのと一緒だ。


 そんなきっちりとした探索者ギルドのきっちりとした受付嬢にきっぱりと言われた。

 ユーリはかなりビビりつつも食いついていた。


「探索者ギルドへの預託金を支払っていないからです」

「ヨタクキン?」

「預託金です。ご存知の通り、サンティアゴ王国ではダンジョン産業が重要な産業の一つとされています。ですので、各クランは何かあった際のために預託金を支払っていただいています」


 きっちりとした受付嬢は説明もきっちりしていた。

 わかりやすい説明のおかげでユーリは何をすればいいかやっと理解した。


「そ、そうなんですか。払います。いくらなんですか?」

「白金貨500枚です」

「ごひゃ」


 ユーリは衝撃のあまり固まってしまった。白金貨といえば、一枚で日本円にして100万円くらいの価値がある。つまり、5億円の預託金が必要だということだ。

 そんな額、どうやったって集められない。

 硬直しているユーリの代わりに、後ろからフィーが出てきて、会話を引き継いだ。


「すみません。こいつ、新人なので」

「いえ。これも業務の一つですから」


 受付の女性はにこりともせずそう言った。

 フィーはにこりと笑った後、ユーリの襟首をがっしりと掴んだ。


「また来ますね」

「またのご利用をお待ちしております」


 レイラとフィーは軽く受付嬢さんに頭を下げて、ユーリを引きずるながら探索者ギルドを後にした。

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