第5話 窓際クランの「そうだダンジョンに行こう」

 バンと音を立てて扉を開き、クランハウスにユーリが帰ってきた。

 クランハウスの入ってすぐには数十人が集まれるようなロビーがあり、テーブルと椅子がいくつかおいてあった。

 そこで、フィーは外で買ってきた食事を一人で食べていた。

 ファーを見つけたユーリはフィーのそばに歩いていき、フィーに向かってた。


「ダンジョンへ潜ろう」

「あんた、帰ってきて早々何言ってんの?」


 ユーリが唐突にそんなことを言い出したので、フィーは食べる手を止めてユーリに向き合った。

 おそらく外で何かを聞いてきたのだろうと言う予想はたったが。


「だって、ダンジョンに潜っていれば、お金も入るし、実力だって上がる。どこかの高名なクランからお声がかかるかもしれないじゃないか」

「何夢みてるのよ。声なんてかかるわけないじゃない」


 ダンジョンに潜っていれば、高名なクランに目をつけられることがある。

 そんなものは宝くじを買えば当たるかもしれないと言うのと大して変わらない。

 ユーリだって難しいことはわかっていた。


「それに、来年、このクランか潰れたって、最低でも同系統のクランに探索者として拾ってもらえるんだろ?」


 これがユーリがダンジョンに潜りたい最大の理由だ。

 ラルフから聞いたことである。

 クランが解体されたとしても、所属探索者は最低でも同盟クランなどの、なんらかのつながりがあるクランに拾われることになる。

 たとえ、それらのクランがなかったとしても、国主導でふりわけられるため、探索者をやめなければいけないということはないのである。

 つまり、探索者としての技術を磨いても無駄になることはない。

 いいことづくしである。


「まぁ、言ってることは間違ってないわね」

「そうだろ?だから、ダンジョンに行こう!」


 職なしという絶望的な今朝の状況を脱したユーリは希望に満ちた目でフィーにそう力説した。

 この時、ユーリは興奮していたため、フィーの微妙な雰囲気の変化に気づかなかった。

 フィーは、クランがなくなった後のことを語るユーリに苛立ちを感じていた。


 フィーはユーリを一瞬きっと睨んだ。

 ユーリはその視線には一瞬で姿勢をただした。


 しかし、ユーリに当たっても何の意味もないとフィーは思い直した。

 フィーはそんな苛立ちをため息と一緒に吐き捨てて、ユーリに至って冷静に告げた。


「でも、ダンジョンに潜るのは無理よ」

「どうして!?」


 興奮気味にユーリはフィーに詰め寄った。

 フィーはそんなことも知らないのかというあきれたような表情をユーリに向けて一言告げた。


「だって、私たちみたいな一定の水準以下の探索者は三人以上じゃないとダンジョンに入れてもらえないもの」

「じゃ、じゃあ、先輩に頼んで連れて行ってもらうとか」

「無理よ。その先輩たちは早々にこのクランを見限って出て行ったわ」


 先輩たちはとても薄情だった。

 このクランには未来がないと判断した者からクランを去って別のクランに移動して行っていた。

 同盟クランに移動することが決まっているのだから1年でも早く移動している方がその分待遇もいい。

 同盟クランにしても、早くから使える人員が増える方が色々とやりやすいのだ。

 たとえ荷物持ちしかできないとしてもいないよりはマシなのである。


 そういう理由もあり、現在、このクランに残っているまともな探索者はいない。

 中央の席で飲み比べをしていた彼らも、窓際の席で週末の買い物の予定を立てていた彼女らも。

 このクランを出て行ってしまったのだから。


「まぁ、そういうわけで、すぐにダンジョンに潜るのは無理よ。ほいほいクランメンバーを増やすこともできないしね」

「そんな・・・」


 フィーの気持ちを知らないユーリはフィーの隣の席に座り、ユーリは頭を抱えた。

 せっかく希望が見えたと思ったところで、また大きな壁にぶち当たったのだ。無理もない。

 フィーはそんなユーリの肩を数度叩いて、立ち上がった。


「まぁ、がんばんなさい。三人目のアテができたらついて行ってあげるから」


 そう言って食事の残りを口に放り込み、扉へ向かって歩き出した。

 ユーリは机から少しだけ顔を上げてフィーに尋ねた。


「あれ?フィーはこの後どっか行くの?」

「バイトよ。近くのカフェで働いてるの」


 ユーリはフィーに向かって手を振りながら行った。


「そうか。いってらっしゃい」

「・・・行ってきます」


 フィーはそう言い残すと、その綺麗な赤いツインテールをたなびかせながらクランハウスから出て行った。

 その足取りは少し弾んでいた。

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