第8話 窓際クランの追跡者
三人が帰った後、フィーとレイラはユーリに詰め寄った。
「ユーリ!アンタ何考えてんのよ!!」
「・・・見損なった」
ユーリは、そんな二人を無視するように、自分の荷物を漁っていた。
「私は絶対あいつらの手伝いなんてしないからね!」
「・・・ワタシも」
憤る二人だが、ユーリはそんなことを気にしている余裕はなかった。
すぐにでも準備を済ませないといけない。
「ちょっと、ユーリ!聞いてるの!?・・・さっきからアンタ何してんのよ」
「尾行の準備」
フィーの質問に簡潔に答え、荷物を閉じて立ち上がった。
「はぁ!?」
「あいつらの後をつける」
それだけ告げて、ユーリはクランハウスから出ていった。
フィーとレイラは一瞬顔を見合わせて、その後を追った。
***
尾行は難しくなかった。三人組が無警戒であり、まっすぐ目的地に向かったからだ。
三人組が入っていったのはスラム街の入り口に立つ今にも崩れそうな木造の建物だった。
「いかにもって感じのところだな」
ユーリは近くの店の看板に隠れながらそう独り言を言った。
その独り言にフィーとレイラは反応した。
「何が“いかにも“なのよ?」
「・・・(コクリコクリ)」
「それは、・・・ってうわ!!」
ユーリはびっくりして大きな声をあげてしまった。
慌てて小屋の方を見たが、幸い、気づかれてはいないようだ。
そして、二人の方に向かってヒソヒソと言った。
「ついてきたのか?」
「悪い?」
「えーっと。まぁ、ついてきちゃったもんは仕方ないか」
ユーリは少し考えた後、諦めた様な顔をした。
そして、ボロ小屋の観察に戻った。
「ねぇ、あそこって、あの三人組の家?えらくボロいわね」
「・・・もはや廃屋」
「ねぇ、あそこに何かあるの?ねぇってば!?」
ユーリはそのまま観察を続けようとしていた。
しかし、肩を揺するフィーに根負けして、ユーリは自分の予想を話し出した。
「これは予想だけど、『紅の獅子』の金庫があると思う」
「!!はぁもが」
「声が大きい!!声を抑えて。いい?」
ユーリは驚きのあまり大きな声を出しそうになったフィーの口を塞いだ。
フィーも自分が悪いと思い、ユーリの言葉にコクリとうなづいた。
「あの三人が金庫強奪の犯人だったってこと?」
「・・・でも、あの時はまだ彼らはうちのクランメンバーだった」
「そうよ。クランメンバーがクランの不利益になるようなことするわけないわ。ハイエナに拾ってもらったから良かったけど、下手したら職なしになっちゃうんだから」
「事前にギルドを移ることを打診してたんだろ、むしろ、金庫なんて大それたものを地下室なんていう奥まったところから盗もうと思ったら内通者が必要不可欠だ」
この事件は不自然だ。
地下室の奥まった場所にある頑丈な金庫なんて、普通盗まない。
たしかにかなりの金が入っていたが、それにしても労力と成果が釣り合わない。
しかし、内通者がいて、地下の金庫への案内をしたとすれば、あとは力技でなんとかなる。
部外者がやったと考えるよりずっと可能性が高い。
「じゃ、じゃあ、どうしてあの三人がやったって思う?の?」
「・・・やめていったクランメンバーは他にもいる」
ユーリは、小屋の観察を続けながら二人の疑問に答えていった。
「まず、最初におかしいと思ったのは連日のフィーの勧誘に来たことだ。普通に考えて、潰れそうなクランのメンバーの勧誘なんて片手間でもいい。探索者の仕事だってあるんだしな。じゃあ、なんで連日来ていたか。フィー自身に目的があるんじゃないか?そう思った」
「・・・なるほど」
そう、奴らは二日連続で来た。
そこまで価値がありそうに無いフィーの勧誘のために。
きっと裏があるはずとユーリは考えた。
「交渉の様子を見た感じ、フィー個人に用があるって感じじゃなかった。となると、フィーの持ってる何か、もしくは、フィーの持ってる知識が目的ってことになる。犯罪を犯してでも手に入れたいものって言えば・・・」
「私とオーナーだけが知ってる金庫の暗証番号」
フィーも同じ結論にたどり着いた。
そして、そのおぞましい内容に身震いをした。
「・・・でも、フィーならたとえ、ハイエナに移ったとしても、暗証番号は教えないと思う」
「当たり前よ!」
レイラの意見にフィーは賛同した。
大きな声だったため、ユーリは小屋を確認した。
特に変わった様子はない。
もしかしたら見た目より頑丈なのかもしれない。
または地下室か何かか?
「・・・フィー、声」
「ごめんなさい。でも、レイラの言うとおりよ。絶対教えないわ。むしろ、告発して、ハイエナを潰してやるわ」
「もともと、フィーとレイラをハイエナのメンバーにするつもりなんかなかったんだよ」
ユーリは自分の予想を言った。
「え?」
「どういうこと?」
「二人を隣国の奴隷商か何かに売り飛ばすつもりだったんだよ。そうじゃなきゃ、俺が一人追加になるのに、クランの上の人に確認を取らないわけがない」
二人はユーリの言葉を聞いて青ざめた。
フィーとレイラにはユーリの推理には筋が通っている気がした。
「もしかしたら、帰りにクランハウスに行って確認を取るのかと思ったけど、そんな様子もないし、間違いなく黒だろうな」
ユーリは怒りを抑える様に奥歯を噛み締めて言った。
大切な友達が傷つけられそうだったのだ。見た目ではわかりにくいが、ユーリもかなり怒っていた。
「そんな」
「・・・フィー。関係ないよ。私たちはどっちにしろハイエナに入るつもりはなかったんだし」
「そ、それもそうね」
フィーは少し震えていた。
もし何かが違ってあの話を受けていた場合の自分の未来を考えてしまったのかもしれない。
ユーリはそんな二人の様子を見ながら今後の動きを考えていた。
「問題はこの後どうするかだな」
「・・・それは確かに問題」
この後どうやって金庫を取り返すか。
おそらくありそうな場所がわかった今、次の問題はそれだった。
相手の戦力がわからない以上、問答無用で乗り込むのは難しそうだ。
「警察に調査依頼をするとかできないかな?」
「?・・・ケイサツ?」
ユーリは公共機関に協力を仰ごうとしたが、ここには警察はないから伝わらなかった。
「あー。衛兵さんとか治安を維持する人」
「・・・それは難しいと思う。あの人たちは犯罪者を取り締まったり、違反行為を注意するのが仕事」
「犯罪の調査や未然に防ぐためには動いてくれないってことか」
「・・・そう。全く動いてくれないわけではないけど、今回は無理」
「うーん」
この国は基本、自助努力である。
何か起こって、治安が乱れれば流石に動くが、可能性程度で国は動いてくれない。
ユーリとレイラが頭をひねって考えたが、いい案は浮かんでこなかった。
考え事をしていると、フィーがいなくなっていることに気がついた。
「うーん。ってあれ?フィーは」
「・・・さっきまでそこに!あそこ!!」
レイラの指差した先でユーリが目にしたのは、手を振り上げて今にもノックをしそうなフィーの姿だった。
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