番外編 ひどすぎる宣伝『援交少女、ホームレスを飼う』(後編)
侵入者、ファントムペインは転移者だ。
転移者とは異世界と呼ばれる現実とは異なる別世界に転移した者達のことを指すが、転移する理由は事情によって異なる。それこそ神や悪魔といった超常の存在の力を介することもあれば、ほんの小さな偶然で招き入れられることもある。
この世界に来たファントムペインも、その転移者である。経緯こそ偶然だが、
「ぁ…………」
事情を知る為に、国外れの木こり小屋にいた若夫婦を襲った。旦那を撃ち殺し、元居た場所では未だ年端もいかぬ妻を
元々、趣味で
つまり、他にも転移者がいるのだ。彼らが別世界の技術を持ち込んでさえいれば、今迄と差し支えない生活も送れる可能性がある。おまけに、ここには師匠である自らの父親も居ない。彼を縛る事情は、何もないのだ。
「ここなら好き放題できるし……さて、近くの国に行くかな」
けれども、冒険者としては長続きしなかった。
「銃弾も残り少ない……どうするかな?」
何故なら、彼は生粋の人殺しだからだ。
元々、彼の父親は殺しを生業にする男だった。幼少時よりその
この世界へ転移してくる前も、丁度殺しの真っ最中だった。
だから剣と魔法の世界に、銃を持ち込めたのは
この世界にも最近出てきたらしいが、出回っているのはこの大陸世界『アクシリンシ』の西側だ。東側で活動する彼には関係ない。なので、銃弾が尽きる前に資金を貯め、別の地域でほとぼりを冷ましながら一生を終える。それがファントムペインの最終目標となっていた。
「ねえ、あなたがファントムペイン?」
「ん?」
目の前の女が
「ちょっと仕事しない? 探し物を届けてくれれば、言い値で買ってあげるわよ」
「
「そう」
通りかかった冒険者一行を殺し、犯し、また殺して奪い終わった後だった。彼にとって、魔物や魔族を殺すよりも、人を殺す方が楽だからだ。
一連の所業を終え、残りの銃弾を数えている時に、声を掛けてきた女がいたのだ。しかし、彼は構わず、続きを
そして条件を確認し、残りの銃弾を拳銃に込めていく。
「分かった。見つけられたら、あんたに届けるよ」
彼にとって、転移する前から続く、当たり前の日常だったからだ。
だから彼、ファントムペインは撃った。
外した手甲剣を
「ひょいっ、と」
キィン!
「なっ!?」
そう、事前に把握してなければ、飛んでくる銃弾に
「ちっ! 西側の人間か!?」
そう、最初は銃のことを知る大陸の西側の人間だと考えた。だから銃のことを事前に知っていて、その知識を持って対抗手段を身に付けていると思ったのだ。
しかし、それこそがファントムペインの犯した過ちだった。
自動拳銃から数発、銃弾が放たれていく。さすがに連続して銃撃されれば対処できないだろうと判断しての選択だが、相手が悪かった。
「いやぁ……西にはまだ行ったことがないかな、っと!」
地面を叩くように蹴るや、リナは小太刀を抜き放った。
抜刀はリナに当たる銃弾のみを切り裂き、残りはそのまま後ろへと逃がしていく。
「てりゃっ!」
「がっ!?」
そしてリナは小太刀を投げ、ファントムペインの肩を射貫く。男の手からはすでに小型の自動拳銃が手放され、地面に投げ捨てられたままの手甲剣へと伸びていたからだ。
「あれま、弾切れか……後で欲しいんだけど予備ある?」
「なっ!?」
リナの発言通り、ファントムペインの銃はすでに弾切れだった。その証拠に拳銃の
しかし、それは自動拳銃を知るものにしか理解できない事柄だ。西側に出回っている銃も最新式は
「お
そんなファントムペインの言葉に、リナは空になった小太刀の
「知ってるも何も……
その言葉を聞き、ファントムペインは言葉を失った。
そう、転移者と同様に、転生者という存在がいる。彼らもまた、世界を超えてくる存在だが、異なる点がある。
文字通り、新たな命として生を受けながらも、前世で
つまり、経験則だけで言うならば、今ここに居る着流しの女、リナ・コモンズの方が圧倒的に上なのだ。
「どう、りで……
「だから年寄り扱いすんなっ!」
脳天に
「防弾チョッキまで着けてら。ふむ…………これだけか。まあ、ないよりましか。うん」
取り出した自動拳銃の弾倉を仕舞い、
「おっ、結構覚えているな~」
拾い上げた銃もスライドを戻してから、着流しの中にしまった。
「しっかし、久々に銃声聞いて耳
他にも敵がいるかもしれない。目の前の男は拘束するだけで放置。後で回収する算段をつけてから、引き抜いた小太刀を血降りして
「どっちかというとあの女よりもあっちに会いたい。父ちゃんは居たってのに……クローッ! この世界にいんなら出てこーい!」
一通り叫んでから、前世と同じ名を名乗る少女、リナはやけくそ気味に駆けだしていった。
しかし、彼女の目的は別にある。
今回の一件でもおそらく手を引いているであろうある女を探し出し、前世より(半ば強引に)続いてしまった因縁に決着をつける為に動いているのだ。だから同じく転生しているかも分からない
故に、彼らが死後の世界とも言えるこの大陸世界『アクシリンシ』で再会することはないだろう。
「クシュン……あれ、風邪かな?」
今は未だ。
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