番外編 ひどすぎる宣伝『援交少女、ホームレスを飼う』(前編)
「
そう
浮浪児が着るようなボロイワンピース一枚で、ベッドの上に寝かされていたらしい。近くに医療器具どころか拘束具の類もないが、
「今時『剣と魔法の世界』って、ありきたりすぎると思うけど……まあ
先程蹴飛ばした男の仲間だろう、何人もの男達が思い思いに武器を
「ふむ……」
広々とした空間だが空気の流れは悪く、照明も人工的なものしか見当たらない。おそらく地下だろう。使えそうな武器は地面に落ちている小さなナイフ。鋭さと刃の小ささから見て、用途は医療用のメスに近いのかもしれない。
(まあ、武器があるだけましか。さて……)
軽く足を持ち上げ、一気に叩きつける。それだけで、
「そんじゃ……久々に暴れてみますかぁ!」
そして少女は……ナイフ一本で地下組織を壊滅させた後、姿を消した。
そして月日は流れ……
「ちと古いが、要望通りの品だろう?」
「無銘か……」
街にある武器屋の一つ。その中でも特に小さくて古く、訳有りの品を
そして目的の品、古びた小太刀をはじめとした武器を、リナは検分し始めた。引き抜かれた小太刀は研ぎ澄まされすぎていて、波紋が歪んでいる。しかし切れ味は本物で、鋼鉄の鈍い輝きを返してきた。
「長持ちしなさそうだけど……まあ、いっか」
「それ以上の物が欲しけりゃ、それこそ『東』に行くしかねえな」
「どっちにしても行くつもりだけどね~」
小太刀を鞘に納め、太刀の代わりに
他の武器は手首に仕込める小刀や
リナは
「……毎度」
その後、リナは鞄と太刀を持って、店を後にした。
このままミーシャ達のいる高級宿に向かうのもいいが、まだ用事はある。
「とはいえ、残りの買い出しに行くには通り道なんだよね~」
一先ず、とリナは別の用事を片付けてから、一度様子を見に行こうと予定を立てる。丁度、行き先はこの近くだ。
「さてさて……」
入ったのは、小さな酒場だった。しかし外見はあまりにも荒れ果てており、他に客が来る様子はない。中にいたのは酒場の従業員と奥のテーブル席に一人。リナは迷わず、唯一いる客の向かいの席に着いた。
「……
「依頼されたどの要件も、めぼしい情報はないですね」
リナの向かいにいるのは男だった。
仕立てのいい黒の服を
「ただ、例の『薬品』に関してですが、この街でかつて起きた一件がまだ、片付いてないようです」
「どういうこと?」
リナが
「あなたが潜伏先にこの街を選んだ理由、地下組織の裏で手を引いていた首謀者が、また動き出しました。何人か裏の人間を雇った形跡があります」
「別口じゃないの?」
「それが……」
言い
「……どうもあの『薬品』が残っているかを、調べているらしくて」
「要するに
「はい。この街の先代勇者、ジョセフ・ロッカです」
それを聞き、リナはテーブルをドン、と叩いて立ち上がった。
娼館でできた娼婦の友人ことミーシャ・ロッカの素性は、彼女の意とは裏腹に元々知っていた。おまけに当代の勇者も一緒にいる。そして、先代勇者があの『薬品』を処分したとなれば……万が一残っていたとしたら、国を除けば、あの二人が所持している可能性を
リナはそう結論付けると、鞄だけ置いて席を蹴った。
「続きは後! 娼館に勇者君の仲間がいるから即通報しといて!」
「ちょっ、
ぽろっと出た言葉に対して、リナは振り向きざまに寸鉄を放って答えた。
「……潜伏先劇団に変えようかな。演技力ザルだし」
その男、リナの
「頼むから
裏口から外に出るや、慌てて娼館の方へと駆けだしていく。
「……
リナの予想通り、ミーシャ達は襲撃を受けていた。他にもいるかもしれないが、現状は宿から飛び出してきたディル・ステーシアと侵入者が刃を交えているだけだ。しかし、近くにミーシャの姿はない。
おそらくはまだ、宿の中だろう。
「はい失礼っ!」
「わっ!?」
「なろっ!?」
引き抜いた小太刀で相手の手甲剣を流してから、リナは改めてディルの様子を確認する。手に持っている武器は短剣のみ。寝間着のみ着用で防具の類は見られない。
「ミーシャは!?」
「まだ宿の中です!」
それだけ聞けば十分、とばかりにリナはディルの身体を押した。
「短剣一本で勝てる相手じゃないっての! ワタシが相手するからミーシャ任せたっ!」
「ありがとうございますっ!」
宿に駆け込むディルを背に、リナは小太刀を片手に、半身に構えた。この辺りでは見ないスーツ仕立ての侵入者は、右袖に仕込んでいた手甲剣を向けてくる。
「さっきの勇者よりかは、やばいか……?」
「少しは調子に乗ってもいいんじゃないかな~」
「……ふざけろ」
小太刀と手甲剣が交わり、
「やっぱり使い手じゃねえか!? てめえ
「このピチピチの美少女フェイスを見といて年寄り扱いすんなっ!」
「若いと思うなら
古びているとはいえ、買ったばかりの小太刀がボロボロになる前に片付けなければならない。
(太刀の方は
刃が持たないと思い、リナはもう片手で小太刀の
鉄
だが
「う~ん、ちょっとやばい?」
「その太刀は抜かねえのかよ?」
手甲剣で肩掛けにしている太刀を指されるも、リナは
「はっはっは……死に急ぎたけりゃ抜かせてみろ、ってね」
はったりをかましているだけでは勝てない。最悪の場合は太刀を抜かなければならないだろう。だが、それはあくまで最後の手段だ。
(やっぱり重いって……
心の中でボヤキを落としてから、リナは一度、小太刀を
「
「それしかないからね~」
着流しが
「ふぅ……」
そして、力を抜いた。
「そう言えば、刀使いとやり合うことになったら、聞いてみたいことがあったんだけどさ……」
「へぇ……何?」
すると、おもむろに手甲剣が外される。
リナが落ちてゆく相手の武器を目だけで追っている最中、
「こいつは打ち落とせるかっ!?」
侵入者は腰から
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます