008 伝声魔法による匿名会談室
はいリスナーの皆さんこんにちは。DJミィの伝声魔法相談室の時間ですよ~。
……はい、冗談です。そうでもしないとやってられないのよ、これが。
「姉ちゃん、俺といいことしようゼブラッ!?」
「あっちへ行きなさいこの不届き者めっ!」
さっきからナンパ野郎が
浮浪者から
「えっと、これを耳に当てればいいのよね?」
ジャンヌが浮浪者の腹に蹴りを入れているのを見ながら、私はカリスさんから受け取っていた細長い魔法導具(刻んだ『魔法』を安定して『導』く器『具』で『魔法導具』という、製造コストが高すぎてあまり普及していない便利
「……おおっ!」
すると耳の裏側を軸にして自動的に固定され、反対側の部分が私の口元まで伸びてきた。後は向こうから同じように伝声魔法が刻まれている『魔法導具』を介して、こちらに声が聞こえてくるから、それまで待っててくれと言われている。
(……え、ハンズフリー? イヤホンマイク? 何それおいしいの?)
「後は待つだけか……ジャンヌ、大丈夫?」
「いい、から……早くっ!」
おお、剣で火花を散らさせながら、
「……先に誰か呼んでくる?」
ダン!
返事の代わりに返ってきたのは、ジャンヌの剣だった。
危な……もう少しで死ぬところじゃん。旦那に会う心の準備もできてないってのに。
「だい、じょうぶで、す……もう片付きました」
荒々しく呼吸を繰り返しながら、振り下ろした
『もしもし、メリッサさん? 聞こえますか?』
「あ、はい聞こえます」
一応
『では代わりますね……すまない、そちらはメリッサ・ロッカで間違いないか?』
「はい、そうです」
ちなみにメリッサ・ロッカとは私のことだ。一応、娼婦用にと偽名を考えていたのだが、結局使わなかったので今回採用することにした。せっかく考えたのに
『早速ですまないが、『ジョセフ・ロッカ』は黒髪だと聞いているが、それは地毛か?』
え、髪色?
「え、ええ。私が知る限りそうですけれど……どうして髪の色を?」
『そうか……いや、すまない。なら同じ孤児院で、銀髪の男のことを知らないか?』
「それは、たしかに数人いたと思いますが……」
なんか話が読めないな。銀髪、って……どういうこと?
『単刀直入に言おう。我々が探しているのは『ロッカ』の孤児院に預けられた、銀髪の男だ。事情は話せんが、『ロッカ』の家名で銀髪の男はこの街に一人も残っていなくてな。少しでも手掛かりが欲しい。この際誰でもいいから、居場所に心当たりはないか?』
「銀髪、となると……」
たしかに銀髪の男は何人かいた。私の同期にも一人いる。
そいつはやたらと
「あの、もしかしてですけど……その男を預けた人って、大金持ちだったりします?」
『それだっ!』
うるさっ!
「それなら心当たりが一人いますけど……もうこの街にいませんよ?」
『ああ、いるなら我々がとっくに見つけている。それで、彼は今どこに?』
「それが……」
「……強盗やらかして逃げ出しました。全国指名手配中です、その男」
『どちくしょう!』
孤児院を閉鎖に追い込んだ男は、隣国の勇者をも絶望に追い込んでしまった。てか、
結局、金ぴか騎士ことアンジェとやらは一度、大陸中央都市へ行くことにしたらしい。ここから距離はあるけれど、警察機構の
私からその男の名前を聞いた後、伝声魔法越しの会話は終わり、私達は少し時間を空けてから店に戻ることにした。もしかしたら迎えが来るかもしれないけれど、どっちにしても今は待つしかない。
「終わりましたか?」
「なんとか。しかし、あの男か……」
懐かしい話だ。
生前の旦那と馬が合わないくせに、よく一緒にいた私に話しかけていたという、訳の分からん奴だった。孤児院を出た後はとんと話を聞かなかったから、そいつが全国指名手配された、って聞いた時は旦那共々驚いて思わず『うそぉ!?』って叫んだな……
「その男性ですけど、本当に
「そう、本名。それで周囲がからかい過ぎたものだから、ブチ切れた途端変な性格に振りきれちゃって」
「それは怒りますよ。同じ状況だったら多分私でも……」
多分私もだ。
「ところで、預けた人間が大金持ちというのは?」
「ん~私も人から聞いた話なんだけどね」
なんでも彼を連れてきた人間が、たしか母親を名乗っていたって聞いたと思うけど、赤ん坊と一緒に高価な貴金属を置いて行ったらしい。そして売っぱらった金品で院長が連日娼館通いをした後残りを博打でスった、って昔孤児院の
今どうしているんだろう? 結構面白かったのに。
「……いったいどんな孤児院で育ったんですか?」
「普通普通」
ちょっとペドフィリアな院長と、ヘビースモーカーで愚痴ばっかり言ってるおばちゃんと、後は元娼婦や元犯罪者が数名、うん普通だ。
孤児院の経営者がろくでなしなのは一般常識だし。
……というかまともな神経で勤まる仕事じゃないか。
「正直、歴代の勇者と同じ孤児院出身というわけですから、とんでもないスペックを隠している可能性もあるのでは……」
「ないない、周囲が異常なだけ」
一応魔法は使えるけど、ごくごく普通の一般女性です。
「それより問題なのは……」
どう話したものか、と考えていると丁度カリスさんが迎えに来るのが見えた。壁から抜いた剣を検分していたジャンヌも、
「それは後で、ゆっくり話しましょう」
「うん……」
私達はカリスさんと共に、先程までいたレストランに戻っていった。
そしてディル君とフィンさんに事情を説明、と行きたいが、『勇者様のコントロール』という大義名分がある以上、下手に話して暴走されても困る。
というわけで事前に打ち合わせした内容を説明。
「そうですか、娼婦だけで生きていくのは難しいから、他にも仕事を探そうと……」
「できれば内緒でお願いね。出版社でも知っている人は少ないし」
とりあえず兼業記者であることだけはばらした。
……というか、よく考えたらやること自体は一緒だし、ディル君が『他の女に手を出す』的なことにならない限りは問題ないか。
「……こういうこと?」
「そういうこと」
そして裏でこっそりカリスさんに事情を聞いているフィンさん。もしかしたら全部気づいているかもしれないけど、黙ってくれているならそれでよし。というかこれ以上、ディル君に余計なことを吹き込まないでお願いします。この
「じゃあ、もう遅いし……私は帰るね」
「あ、送っていきます」
まあ、なんだかんだで勇者様ご一行に送り届けられ、無事に帰宅したので今日のお話はこれでおしま~い。
「あれ、お疲れ?」
「色々あってね……」
そして護衛に就いていたリナの出迎えを受け、そのまま部屋に戻って寝ることに。
では次回。
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