声劇用シナリオ

@asunohi

[3人/現代/恋愛/15分]死にきれないほど悔しくて


[3人/現代/恋愛/15分]

   死にきれないほど悔しくて


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        前書き

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▼利用規約(2020/01/28-)

 文章の再配布:一切を禁止します。

 文章の印刷:私的利用であれば可。

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 よろしくお願いいたします。

 


▼導入

 高校を卒業してから何度目かの同窓会。

 そこで幹事をしていたスーツ男は、本来ならココに来るはずのない人を見つけてしまう。

「ありえない。委員長は、俺が殺したはずだ」



▼人物

 @ スーツ男(男/30):亡きクラス委員長から同窓会の幹事を任されていた男。普段は地元の商社で働いる。和食屋の常連。

 @ 和食屋(女/30):スーツ男の同級生。和食屋の若女将として同窓会の場所と料理を提供している。スーツ男の頼み事に弱い。小さい頃から実家の手伝いで割烹着姿が多い。

 @ 委員長(女/15?):高校三年間を二人と過ごし、クラス委員長だったと名乗る制服の少女。当時と全く変わらない姿をしている。






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         本編

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▼場面1「久しぶり」 


 (場所:和食屋の厨房)

 (スーツ男:空いたビール瓶を抱えて登場)

 (和食屋:汗をぬぐいながら焼き鳥を調理中)

 (同窓会:始まって盛り上がり始めた頃)


 スーツ男:やれやれ。ようやく乾杯連打から逃げ出せた。

  気安い同窓会つっても俺は幹事で酔えないのに、あいつら、俺にどんだけ飲ませる気なんだか。


 和食屋:なにさ、アタシが焼き鳥の面倒見て仕事してるのに、自分は幹事サボってスーツでナンパ?

  可愛いバイトちゃんはもう帰したわよ。


 スーツ男:濡れ衣だ!

  酔っぱらってセクハラとかするオッサンかよ。


 和食屋:自覚がないの?

  30歳にもなって独身でフラフラしてる「オッサン」なんか、火遊びしてるとか、そう見られて当然でしょ。


 スーツ男:いま時ならそんなないだろ、ほら。な。


 和食屋:親戚が集まる度に呪文のような言葉が聞こえてこないの?

  「嫁は? 孫は? いつまで待たせる気だ?」って。


 スーツ男:まじやめろ、酔っぱらいを煽るな。

  和食屋の仕事は焼き鳥を扇ぐことだろ。こっちを炎上させるなよ。

  俺も幹事の仕事で、お代わりの瓶を取りに来ただけ。

  お互いに「仕事が大好き」だろ?


 和食屋:はいはい、そりゃーアタシはそれでもいいけどさ。

 ねえ、あんた、もしかしなくてもまだあの子に、



 ーー声を遮るように店の入り口がガラリと開かれる。



 委員長:こんばんわ、お店の方はいらっしゃいますか?


 和食屋:おっと、お客さん?

  悪いけど、今夜は貸しきりでさ。

  それに高校の制服着てる若い娘さんが、まさか、いや、えっと、出歩く時間でもないし。


 委員長:クラスの同窓会ですよね。

  案内の手紙に「当日に顔を出すだけでも歓迎」と書かれていたけど、ダメかしら?


 スーツ男:たしかに、そりゃ、顔を出すだけでもとは。


 委員長:なら、上がらせてもらうわね。

  ふふ、二人はスーツと割烹着だからすぐ分かったわ。

  あとの皆のこと、ちゃんと分かるかしら。



 ーー委員長は喋りながらも宴会場へ向かう。



 和食屋:い、いまの、委員長?

  そんな、それに、なんで、あの頃のまま?


 スーツ男:ありえない、嘘だ、ありえない、嘘だ。


 和食屋:ちゃんとお葬式にも出たわよね。

  でも確かにあの顔も、声も、動作も。


 スーツ男:ありえない、絶対に、ありえない!!


 和食屋:っ、ねえ、ちょっとどうしたの?

  ありえない話だけど、そんなに取り乱して。


 スーツ男:ありえないんだよ!

  だって、委員長を殺したのは俺なんだから!!






▼場面2「悔しくて」 


 (場所:和食屋の厨房)

 (スーツ男:ビールの瓶を抱えて厨房の隅で項垂れて)

 (和食屋:同窓会の参加者に料理を自分で運ばせている)

 (同窓会:異様な盛り上がり)


 和食屋:悪いわねー。

  便利な下僕、じゃなかった、大事な幹事様が酔っ払ったから、あと何度か料理を取りに来てよ。

  うん、よろしく。


 スーツ男:(瓶を逆さにして中身を減らす)


 和食屋:おいこら!

  気持ちはわかるが酒に失礼な飲み方をするな!!


 スーツ男:う、ううっ。


 和食屋:ああもう、酒が苦手なのに変なことしようとするから。

  ほんと、ここでは戻さないでよ、ちゃんと厠に行ってよ!


 スーツ男:そこまでじゃ、ねえよう。


 和食屋:青い顔して何言ってんのさぁ。

  まとめて吐き出して、スッキリさせてきなよ。


 スーツ男:むりだ、できるわけがない。

  あんな子供に「お前はあの委員長か」なんて。

  いや、でも。


 和食屋:さっきから何をそんなに。

  委員長は病死だから、殺したとかあるはずないし。

  あの子は委員長の親戚とかで、卒業15周年って事でちょっと趣味の悪いビックリ演出にきただけ。

  そう言ってたでしょ。


 スーツ男:親戚とか、そう言うしかないだろ。

  あれから15年だ。皆にはそれを信じない理由はない。

  でも、あれは委員長だ。殺したはずの。なのに。


 和食屋:ああもう、もし本人だとして、何でわかるのさ?

  それに、なんで殺したなんて話になるの?

  だって、二人はアタシと出会う前から恋人同士で、ずっと一緒にいたくらいの仲だったでしょ。

  だから、あんたが未だに独りでいるくらい、



 ーー問い詰める女の声。怯える男の声。そこに割り込む少女の笑い声。



 委員長:ふふ、そっか、忘れないでいてくれたんだね。


 スーツ男:委員長、ああ、やっぱり、でも。


 和食屋:君は、委員長の親戚、なんでしょ?

  悪いけどこれは大人の話だから、宴会場へ戻っていて。


 委員長:うふふ、大丈夫ですよ。

  わたしもちゃんとオトナだから。

  子供じゃなくなりましたから。

  ねえ、スーツのシャツに、ちゃんとシミ、残りましたものね。


 スーツ男:あ、ああ、あああ、ああああ。違う、違う!


 和食屋:何、を、ねえ、まって、まさか?!


 委員長:私はちゃんと覚えてますよ。

  あの夜のこと。病院の中庭の池にも、魂の落ちそうな青い月にも、薄氷が張るほど冷えていたこと。

  この命のこと。どんな奇跡でさえ、あと半月も保てないと言われていたこと。

  そして、ずっと悩んでいたあなたが決心してくれた、永遠の誓いのこと。


 和食屋:まって、ねえ、お願いだから。


 委員長:なんでスーツを着てきたのって聞いたら「白い燕尾服が売ってなかったから」なんて。

  体にあってない、初めてのあなたのスーツ姿がとても可愛くてドキドキしたわ。


 和食屋:なんで、ねえ。


 委員長:あの時の私の体は、覚えてくれているかしら。

  痩せてしまって、骨が浮いて、まるで木乃伊のようになってしまっていたの。

  ごめんなさいって謝る私を、あなたは白いカーテンのドレスで包んでくれて。

  言葉として、綺麗だって誉めてくれたのも、大好きだって気持ちを伝えてくれたのも、あれが初めてで嬉しかった。

  私を、せめて数日でも欲しいって。ううん、数日だから、欲しいって。


 スーツ男:ほんとに、きみは。


 委員長:全てを捧げて、本当に本当に幸せだったの。

  ただ、どうしてもひとつだけ。


 和食屋:ねえ、やだ、やめて。

  お願い、この人は連れていかないで。


 委員長:ああ、そうね、そう願っても良かったかも。

  でも違うのよ。

  死にきれないほど悔しかったのは、そこじゃないの。


 スーツ男:ごめん、ああ、ほんとに、ごめん。


 委員長:お姫様と王子様は、結ばれたなら笑顔で終わるべきでしょう。なのにね。


 スーツ男:だって、そんな。


 委員長:あのね、お願い。

  私と同じ人が大好きなあなたにしか託せないこと。

  この人を、笑顔にしてあげて。

  ううん、心から笑顔でいつづけられるように、してあげてください。


 和食屋:っ。


 スーツ男:お、俺は、でも、委員長が、


 委員長:ふふん、離婚よ、離婚!

  結婚生活で一度も笑ってくれない旦那様なんて、辛気くさくて一緒に居られません!

  だから、ね。


 和食屋:でも、でも。そんな。


 委員長:ごめんなさいね、そろそろ次の予定があるの。

  だからお話はここまで。


 スーツ男:つぎ、の?


 委員長:ええ、次はあなたより、もーっといい男を見つけて捕まえてあげる。

  ちゃんとしたドレスと白い燕尾服で結婚できるような、ダサダサじゃないお相手よ!


 スーツ男:い、いや、ちょっと、その言い方は、


 和食屋:っ、あー、分かるわ、アタシだってそんなダサダサなのを式って言い張るような人じゃねー


 委員長:でしょー!

  ただ、イイ人を捕まえるのは早い者勝ちなの!

  だから私はお先に行くわ。

  皆がのんびりしてる間に出し抜いてあげる。


 和食屋:うん、確かに、早い者勝ち、だもんね。


 スーツ男:その、どうせなら、自慢しに来てくれよ。


 委員長:いいわね、この人と幸せになるって、言いに来てあげます。それじゃ、またね!


 和食屋:うん、うん、ちゃんと、するから!

  こいつ、笑顔にするから!! 見に来てよ!!


 スーツ男:ごめんな、そんで、ありがとう。またな。




 終

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