決着の末に

「暴れんじゃねぇ、じっとしてろ。大人しくしてりゃあ、それ以上は強く抱き着かれる事もねぇからよ。――ほれ、反省したならこの低級霊どもをなんとかしろ。俺だったらなでしこをほどく事ができるからさ」


「……無理だね。神力しんりきで抱きしめられてるからなのか、この状態だと妖術が使えないみたいだ。この子が自然に離してくれるまで、僕も君も捕まったままらしいよ」


「ま、マジかよ……? まぁいい、俺はこのままでも妖力がゆっくり回復するし、そしたら低級霊程度なら簡単に駆除できるからな。それまでは身動き取れないが、このままのんびりさせてもらうさ」


 手足を掴まれて猫的には少々不快だが、動けない以外は実質的な被害は無い。その為俺は、このまま目を閉じてよるに興じる事にした。


「そうだね、不本意だけどゆっくりすると良いよ。ところでその低級霊の中に、生前獣看護師だった子がいるんだ。とても仕事熱心な子でね、特に体温を測るのが得意なんだ。そろそろ出てくるかな? ふふふ……」


「へ……おい待て……それってまさか……」


 ――タァイオン……ハガリィマショウネェ……―― 


 俺の背後から、使い古された水銀体温計を持った手がゆっくりと近づいてくる。その手は体温計の先端を俺の尻尾の付け根辺りに向け、一点の迷いも無く水銀を俺の身体の中に収めようとし――


「ば、ばか! 止めろ! 俺は別にどこも悪く……あーーーーーーーーーーーーーー!」


「ちょっとアルトー、うるさいわよー? 新しいお友達が出来て嬉しいのは分かるけど、夜は静かにしなさーい」


 ドアの向こうでなでしこの母親の声が聞こえた様な気がしたが、その時の俺の耳には誰の言葉も入って来なかった――


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