桔梗神社の巫女娘
「あるとー、うごいちゃだめだよー、もうちょっとだよー」
こんな時だってのに、俺の脳裏に幼少時のなでしことの思い出がよぎった。そう言えばあいつ、ペンタブで絵描き始めた今でも、何故か俺だけは今でも紙に描くんだよな。
……なんて、走馬灯かよ。何諦めて思い出に浸ってやがる俺? 絵なんかより、今はこいつを……絵…………そうか――――
ごうっ!
一瞬動きの停まった俺に目掛けて突進してくる炎の群れを寸でのところでかわし、その勢いのまま、なでしこが絵を描く時に使う丸テーブルの上に着地する。
「これはこれは。わざわざ狙いやすい所に飛び乗るなんて。とうとう観念したのかな、おじーちゃん?」
「うるせえよクソガキ。こっからは……勉強の時間だ」
「は? 何言ってるんだか。 ふふ、頭の方にもガタが来たのかな?」
「いちいち年寄りすんじゃねぇ。――まぁお前も見込みはあるが、まだまだ経験不足だって話だ。踏んだ場数の違いって奴を……思い知りな!」
そう言い終える前に俺は、テーブルに積まれた『
「な、何を……!?」
妖狐は狐火を放つも、妖怪しか燃やせないその炎はことごとく印刷用紙に遮られる。俺は舞い散る紙の中を一直線に駆け抜け――
「クソガキが……歯ぁ喰いしばれぇ!」 パァン! ――ベシッ
「ぐえぇっ……」 ――ぼと
肉球にありったけの妖力を込めた、必殺の猫パンチ。吹っ飛ばされた妖狐は、なでしこの向こうの壁に激突し、やがて断末魔の声と共に落下した。
「はぁ、はぁ、はぁ、手こずらせやがって。いいか、これに懲りたらもう二度と――っ!?」
――ォォォォォォ……――
俺が油断したその瞬間、凄い力でベッドの下に引きずり込まれた。これは……低級霊!?
「ふ、ふふふ……経験、ね。笑わせてくれるじゃないかお爺ちゃん。勝負って言うのは、相手の二手も三手も先を読んで臨むものだよ。それすら怠って、勝ったつもりで爪まで引っ込めるなんてね。浅はか。――さて」
クソ……妖力が残ってたら、こんな奴らどうってことないのに……! 俺が低級霊に捕まり身動きが取れないのを確認した妖狐は、再びなでしこの方へ体を向ける。
「おい待て! 止めろ! お前の為にも言ってるんだぞ!」
「何を今更。苦し紛れのハッタリも、君の言うところの経験かい? みっともなむがぁっ!?」
……遅かったか。俺達が暴れまくったせいで眠りが浅くなったなでしこは、その胸に前足を掛けた妖狐を瞬時に抱きしめた。その力たるや、あの華奢な身体からは想像も出来ない程の圧倒的なもので、妖狐のリアクションがその凄まじさを物語っている。
「ぎ……んぎぎ……この状態でも、霊魂さえ喰えば………………あ、あれ?」
無理やり霊魂を取って喰おうとした妖狐だったが、当てが外れたようだ。よかった、万が一にでもと心配していたが、やっぱりか。
「残念だったな。妖狐ごときの力じゃ、そいつの霊魂なんざ喰えやしねぇよ。なでしこの霊魂にはな、
「か、かむあつ……? ――んぎゃああああああああ!」
「んん……さといもさん……じっとしないと……」
寝言を言いながら、なおも妖狐を締め上げるなでしこ。……何の夢を見てるのかは知らんが、野菜の皮剥きが余程大変だったらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます