孤高の黒騎士
日付が変わって間もない深夜0時過ぎ。
住民が寝静まり活気が沈殿した
「何してやがる、そこのクソガキ?」
闇の中から突如響いた呼びかけに驚き、瞬時に顔を上げて振り返る黄色い毛玉。部屋中を見渡して声の元を探ろうとする切れ長の三白眼は、声の主を見つけられずに少々の焦りと苛つきを浮かばせる。そこに偶然雲の隙間から月が顔を出し、窓から降り注ぐ淡い光で『
「……なーんだ、誰かと思ったら寝たきりのお爺ちゃんじゃないか。『アルト』だったっけ? よぼよぼの黒猫さんが、僕に何か用かい?」
毛玉の表情から焦燥が消え、やがて余裕のそれへと変化する。
「お爺ちゃんとは上等じゃねぇか。親父さんは犬だと勘違いしてたみたいだが、てめぇ『
言葉と共に、威圧も兼ねて妖力を解放する。自慢の尻尾が二つに分かれ、銀色の眼球に浮かぶ黒目がきゅうっと細くなる。
俺の変化を見届けた妖狐は、なおも細めた目を動かす事も無く、神社の稲荷神の様にベッドに座り直した。
「なるほどね、
「食事だと? お前こそ身の程をわきまえろっての。いいか、なでしこはな――」
「低級妖怪の戯言に付き合う気はないよ。こんな上等な霊魂を前に邪魔されて、只でさえ僕は怒ってるんだからね。――――許さないよ、燃えちゃえ」
妖狐の目が僅かに開いたかと思ったその刹那、空間に無数の碧い炎が出現し、こちら目掛けて一直線に飛んできた。……はぁぁぁ!?
「おい馬鹿! 家ん中で
襲いかかる炎を避けながら抗議するも、妖狐はお構いなしに炎を生成し続けてこちらに飛ばしてくる。
「大丈夫さ、燃えないよ。……君以外はね。この炎は妖怪にしか燃え移らないように出来てるんだ。逆に妖怪だとよく燃えるけどね。ちょっとかすっただけで
妖狐の耳障りな高笑いには耳を後ろに倒して対応するが、至近距離での攻撃手段しか持たない俺には肝心の狐火に対抗する手段が見つからない。駄目元で突っ込むという手もあるが、奴に接近すればする程
「考え事してる余裕なんてあるの?」
「――――!?」
紙一重で狐火を避けていた俺だが、考えに詰まり目の前の状況判断が一瞬だけ鈍ってしまった。避けたその方向から狐火が襲い掛かり――瞬く間に火柱となって俺を飲み込んだ。
「ぐ……ぐぐ…………舐めんなごらぁぁぁぁ!」
気合一閃、全力で放った妖気の波で、なんとか火柱をかき消す。しかし――
「へぇ、腐っても妖怪だね。でも、今のでほとんどの力を使い果たしちゃったんじゃない? それじゃ、ふりだしに戻るでいってみようか。ふふふ――」
より一層細くなった妖狐の目が金色の光を放ち、周りに大量の炎を創りだす。――ちくしょう、なんとか一瞬だけでも隙が出来れば。最悪相打ちでもいい、何としてでもなでしこの身の安全だけは守らないと……!
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