第8話 しのぶさんは少し反省したようです。
「殿、昨日と今朝はすみませんでした」
「いきなりどうしたの?」
ホームルームが始まるちょっと前に、しのぶさんから一言。
自分の席に座っていた徳川誠一は不思議がった。
「忍びたる者とは思えないはしゃぎっぷり……未熟の致すところです」
「まあ、過ぎたるは及ばざるがごとし、ってあるけど」
一般常識に欠ける部分を除けば、しのぶさんはただの元気娘である。
おまけにモデルもびっくりするほど引き締まったボディを持つ美少女だ。
これが忍者とかいう色物でなければ、クラスの男子女子問わずの大人気になっていたに違いない。
しのぶさんはさらに、教室をくるりと見回して頭を下げた。
「学友の皆さまにもご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありませんでした」
「…………」
クラスメイトの反応は、怪しげな者を見つめるそれだった。
これは健全ではない。
徳川誠一の求める平穏な学校生活ではない。
なんとか解決してあげたいと思うが。
「かくなるうえは腹を裂いて……」
「そういうのやめよ!?」
やはり主従関係とやらが問題なのである。
しかも相手は忍者。
しのぶさんが一般常識にうといのは、すでにはっきりしている。
しかし、しのぶさんからする常識を誠一も知らないのだ。
なにか失敗があるたびに腹を裂かれそうになってはたまったものではない。
と、そこに誠一の基準で不真面目な学生代表の、源秀魔が教室に入ってきた。
チャイムが鳴るのとぎりぎりである。
そんなこともおかまいなしに秀摩は会話に入ってくる。
「しのぶちゃんおはよ。誠一もちーっす」
「気安く挨拶を交わす間柄ではありません」
「うわー、しのぶちゃんきちぃー! でもそこがいい!」
「殺しますよ?」
鞄を自分の席に置いた秀摩は、えろい手つきでしのぶさんに向かって。
わきわき、わきわき、わきわき。
蛇を思わせる軟体ぶりを見せて……きしょかった。
朝から頭が痛くなる。
しのぶさんはもっとクラスメイトと仲良くなってもらいたいものだ。
まあ秀摩はどうでもいいけど。
しかしなんだろう……秀摩とは打ち解けているとみてもいいのだろうか。
そう考えるとよいことのような、胸の内がもやっとするような……。
誠一は得体の知れない感情を払うように、首をぶんぶん振る。
「ふたりとも、そろそろ先生くるから!」
「はっ、殿。申し訳ございません」
「んんんー、朝から気持ちよかったぜ」
しのぶさんは素直に納得した様子。
秀摩は自分の世界に入ってしまったようなので放っておくことにした。
2日目の授業がはじまる。
今日が何事もなく無事に終わってほしいと願う誠一だが、叶わないだろうなと、ため息をつくのを抑えられなかった。
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