2日目のこと
第7話 昭和の名機と最強忍者ちゃん
「おはようございますっ、殿!」
「おはよう、しのぶさん」
「殿の世界は進んでいるのですね、わたし絵の動く板というものを知りました」
「……なにそれ?」
徳川誠一の朝は割と早い。
真面目に部活動をしているため、朝練で学校到着が早いのだ。
他の部活動員や先輩たちの参加はまばら。体育館は閑散としていた。
そんな場所なので、しのぶさんの声はよく耳に通った。
で、なんのことだかわからなかった。
「てれび、というものを初めてみたのですが、忍術かと思いましたよ!」
「……そ、そう。そうなんだ」
確かに初めてテレビを見たなら驚くのも無理ないのかなあ……。
うきうき気分でしのぶさんはぼくに合わせてシャトルを打ち上げる。
三角錐を思わせる白い物体が空に跳ねた。
しのぶさんに問うてみる。
「その言い方だと忍術にもテレビっぽいものがあるみたいだね」
「やりましょうか?」
え?
「っと」
思いがけない返し言葉に、跳ね返すシャトルが浅くなった。
しかし、しのぶさんはぼくを気遣ってか、奥すぎず浅すぎず絶妙の位置に返す。
うん、これなら簡単にまた返せる、さすがしのぶさん。
と思った、ぼくのラケットは空振った。
何が起こったのかわからない。
ことりと音を立てて転がったシャトルに視線を落とす。
「いかがでしたか、殿!」
「しのぶさん、何かしたの!?」
「失礼かと思いましたが、ご所望のようでしたので軽い忍術を!」
「……」
シャトルが消えた?
いや、もっと現実的で忍術っぽい気がする。なぜなら相手がしのぶさんだから。
しのぶさんは秀摩とは真逆の人間に思える。意地悪とは無縁なはずだ。すると、こちらでも考えればわかるような問題を出してきそうなものだ。ならばこの問題の答えは……。
「あ、ひょっとして認識をずらす忍術とか?」
あるとすればそんな感じのもののような気がした。
「さすがです、殿! 殿の視界と時間軸を少しだけずらさせていただきました」
「……すごいな、しのぶさん」
驚きと賞賛を送っていると、しのぶさんは手の指を下腹のあたりで絡めた。どうやら照れているようだ。もじもじしている。
「他にも似たようなことできるの?」
「はいっ!」
しのぶさんは大きな花が咲いたような笑顔を向けて……。
「相手の視界を完全に乗っ取ることもできちゃいますっ!」
おっかねえことを口にした。
それって他人に成りすましてやりたい放題ってことじゃないか!
例えば例えば……ええい、えろいこととやばいことしか思い浮かばん!
「……えっと、しのぶさん」
「はいっ、なんでしょう、殿っ!」
「なんて言ったらいいかな。使う忍術の危険度とか基準ってあるの?」
「殿に危害を加えようものなら即殺害も考えておりますっ!」
想像以上にやばかった。
なので、釘を刺しておく。
「命令です。ぼくに使っても問題ない程度の忍術を使用すること」
「ええっ!?」
「いや、そこ驚くところ?」
「ぐっ……ご命令とあらば……」
しのぶさんは握りこぶしを作って全身をぷるぷる震わせていた。
よほど耐えがたい認識だったのだろう。
普通の女の子をしてもらう道は険しそうだ……。
それでもやっぱり徳川誠一としては古居しのぶさんを普通の女の子にしたいのだった。
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