二度目は入れ間違い
*
握りしめた白い便箋とにらめっこすること、数分。
「…………なんだこれは」
昨日とまったく同じ台詞を、今度は放課後の昇降口で呟く。眉間にがっつりとシワを寄せながら、その手紙の内容をもう一度確認した。
突然こんな手紙、驚かせてしまってごめんなさい。
誰にでも分け隔てなく接する姿、友達と楽しそうに話している姿を見て、いつの間にかあなたの笑顔が頭から離れなくなりました。
好きです。もしよかったら僕と付き合って下さい。
山崎より
いやいやいやいやちょっと待とう? 一回ちょっと落ち着こう? え? これ書いたの完全に山崎くんだよね? だって今回はちゃんと名前書いてあるもん。つまり、昨日のラブレターのリベンジで新しく書き直した、あるいは完成した方のラブレターを持ってきたってことだよね? オーケーオーケー。それは分かった理解した。
だがしかし!!
なんっっっでそれを私の下駄箱に入れちゃうのかなぁぁぁぁ!? いや確かに! 確かに私の下駄箱は古田さんの隣だけどね!? ここまできたならもう一回下駄箱の場所確認しよう!? せっかくちゃんとした内容のラブレターだったのに!! ああもうっ、詰めが甘いよ山崎くん!! ていうかこの手紙見つけた時のときめき返してくんない!? 二日連続で無駄にドキドキしたんだけど!!
私は一人溜息をついた。この手紙、間違いに気付かなかったふりをして私が古田さんの下駄箱に入れちゃおうかなぁ。その方が確実に届きそうな気がする。うん。
「あっ」
小さな声がして振り向くと、なんの因果か昨日に引き続き山崎くん本人が現れた。山崎くんは私の手元にあった白い便箋と私の顔とを数回往復させる。
「……読んだ?」
「うん」
「……読んだ?」
「うん」
「……読ん「だから何回言われても読んだもんは読んだっつーの」
なにこれデジャヴュ? 私もしかして知らない間にタイムリープでもしちゃってた? まったく同じやり取りを昨日もした覚えがあるんですけど。何、なんなの? 私は不機嫌さ丸出しで口を開いた。
「ちょっと山崎くん!!」
「はい何でしょう?」
何故かはにかんだ笑顔を浮かべる彼にイライラして、白い便箋を勢いよく突き付ける。
「これ! この手紙! 私の下駄箱に入ってたんだけど!」
「ん? ああ、うん」
「〝うん〟じゃないよ!! 二日連続で間違えるってどういう事!? 山崎くん、好きな人にちゃんと告白する気あるわけ!?」
「そりゃあるけど……え? 俺またなんか間違えてた?」
「間違いだらけだよ!! 山崎くん、古田さんに向けてラブレター書いたんでしょ? なのに間違えて私の下駄箱に入れてたの! 古田さんの下駄箱は私の左隣! もうっ、ちゃんと確認してよね!!」
「はっ!?」
山崎くんは慌てたように手紙を奪うと、自分の書いた文字を左から右に追う。
「……ホントだ……一本足りてない」
「は?」
呆然とした表情で呟くと、山崎くんはがっくりと肩を落とした。骨張った右手で目元を覆い、落ち込んだように深い溜息を吐き出す。いやいや、溜息つきたいのは私の方だから。昨日は手紙の間違いで今日は人の間違いだなんていい加減にしてほしい。しかもまた私が第一発見者だし! なにこれ呪い!?
「二日連続で間違えるとかありえないんですけど!!」
「ごめんごめん。でもさ、今回中身は間違えてなかったでしょ?」
「まぁ確かにね。でもさ、置く場所間違えたら元も子もないじゃん。せっかく成功したラブレターだったのに」
「……おっしゃる通りで」
「もう! 次は絶対間違えないでよね!!」
「……どうだろ。二度あることは三度あるって言うし、俺ちょっと自信ないわ」
「仏の顔も三度までだから!!」
「うわ、吉田さん厳しいなぁ」
ははっ、と笑った山崎くんと目が合う。彼はそのまま私に向かって宣言するように言った。
「大丈夫だよ。次は絶対間違えないようにするから」
「……ふーん」
「ほら、三度目の正直ってやつ?」
私は呆れたように口を開く。
「はいはい。今度は渡す前に指差し確認でもしたら? 最終チェックは重要だよ。じゃ、また明日」
下駄箱から引っ張り出した茶色のローファーを履いて、私は足早に校舎を後にする。日の沈みかけた薄暗い空を見上げると、山崎くんのやや右上がりの文字が浮かんできた。
……しかしまぁ、山崎くんの好きな人が古田さんだったなんてちょっと意外だ。ギャル系より清純派がタイプかと思ってたんだけど……どうやら読みが外れたらしい。この際だから私もギャルにイメチェンしてみようかな? なーんて。
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