間違いだらけのラブレター
百川 凛
一度目は失敗作
握りしめた白い便箋とにらめっこすること、数分。
「…………なんだこれは」
誰もいない教室に私の声が静かに響いた。眉間にがっつりとシワを寄せながら、その手紙の内容をもう一度確認する。
拝啓 ←堅苦しいかも。やめる
こんにちは。←有り? 無し?
突然こんな手紙を書いてしまってすみません。
いつもあいさつ←漢字? いや、無しで
いつも笑顔で話しかけてくれるあなたを(君を?)
いつのまにか目で追うようになっていました。
君の笑顔は太陽だ!←キモいやめる
あなたの笑った顔が好きです。←顔だけが好きみたいだから却下。でも笑顔が好きなのは事実……保留
ずっとずっと好きでした。←ストーカーっぽい?
もしよかったら僕と付き……ぐああああ恥ずかしい!!←がんばって最後まで書く
敬具←やめて別の文章に
……なんだこれは。
うん、やっぱり何回読んでも理解出来ない。え? なにこれ? 一応中身はラブレターっぽいけど宛名も差出人も書いてないし、なにより本文の内容が赤ペンでめちゃくちゃ修正してあるんだけど。矢印引いてダメ出しコメントってなにこれどこの赤ペン添削先生? 待って、これホントにラブレター? ラブレターなの?
赤い文字が目立つ便箋に
……いやいやないわぁ、ナイナイナイ。だってこんな失礼なラブレターってあるぅ? どう見たって失敗作でしょ。赤ペンだらけのラブレターなんて貰っても嬉しくないしむしろドン引きだし。てかこの人告白する気ある? こんな明らかな失敗作出すなんてどういう神経してんの? まず誰宛のラブレターなのよこれ。渡すならちゃんと確認してから机の中に入れておきなさいよ。じゃなきゃ勘違いしちゃうでしょうが。この手紙見つけた時の私のドキドキを返せ!!
ガタン
後ろから聞こえた音に振り返る。教室のドアの前に立っていたのは顔面蒼白の
「……読んだ?」
「うん」
「……読んだ?」
「うん」
「……読ん「何回言われても読んだもんは読んだから」
終わらないやりとりにしびれを切らせた私は食い気味にツッコミを入れる。すると、山崎くんは頭を抱えてその場にしゃがみこんだ。
「うっわぁ……マジかぁぁぁ……」
どうやら私の予想は当たっているらしい。この残念な赤ペンラブレターの差出人は彼だ。私は見下ろしながら言った。
「ねぇ。ひとつ聞いていい?」
「な、なに?」
「これ、ラブレターなんだよね?」
「まぁ……うん」
「だとしたら相当ひどくない?」
「で、ですよねー……」
山崎くんは苦笑いを浮かべる。私はさらに続けた。
「だってさ、まず名前。相手の名前も書いてないし自分の名前も書き忘れてる。これじゃ誰が誰に宛てたラブレターなのかわかんないじゃん。書いたならちゃんと確認しなさいよね。じゃないと名探偵でも解けない永遠の謎になっちゃうよ? そして何よりひどいのがその内容。堅苦しいやめる、とか最後まで頑張って書く、とか文章に赤ペンで修正しまくってて明らかに失敗作。間違って出したのか知らないけどこれはひどすぎるよ?」
「あー……やめて。自分でもその失敗に気付いて慌てて戻ってきたのに。それ読まれちゃってるんだもんヘコむわぁー。あー……穴があったら入りたい。むしろ埋まりたい」
彼はがっくりと項垂れぶつぶつと独り言のようなうわ言を呟く。
これは確かにメンタルへのダメージが大きいだろう。私も少し言い過ぎたかもなぁ。なんだかかわいそうに思えたので、とりあえず慰めの言葉をかけてみることにした。
「で、でもほら、失敗した手紙だし本人に渡さなくて逆に良かったんじゃない? 結果オーライだよオーライ」
「……うん」
「あと、ラブレターはシンプルイズベスト。あんまり難しく考えないで伝えたいことを素直に書けばいいと思うよ。……私が言うのもなんか変だけど」
「……ははっ。ありがとう」
山崎くんは力なく笑った。
「じゃあ私帰るね」
なんとなく気まずい空気に私はさっさと帰ろうと教室のドアへ向かい歩き出すと、山崎くんに呼び止められた。
「
「ん?」
「あの……この事なんだけど……」
言いにくそうに視線をそらす。彼の言いたい事を察した私はわざと明るい調子で言った。
「ああ大丈夫。誰にも言わないから安心して!」
私の言葉を聞くと、山崎くんはほっとしたように笑った。
「次はちゃんと完成したラブレター渡しなね」
「……うん。気をつけるよ」
私はこくりと頷くと、今度こそ教室を後にした。
……それにしても、山崎くんがラブレターねぇ。しかもあんな一生懸命考えて書いてるなんて。なんか意外だなぁ。
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