未完成の絵が描かれた6ページ目


 今日も、家捜しをしている。


 字面を見れば、俺が悪い人間のように聞こえるかもしれないな。でも、食料はいずれ無くなるんだから、供給していかないとこの先やっていけないんだ。それに、俺以外に食料を必要としている奴なんていないから、特に問題はない。


 そんなわけで、リュックサックがパンパンになるまで、倒壊し横向きになったビルや、椅子や机が廊下に投げ出されたとある学校に入ったりしていた。もちろん、その間も最大限警戒していた。



 ペンを持つ。今は昼だ。なんと、崩壊した住宅街の中で一つだけ、壊れていない建物を見つけた。

 どうやらこれは、美術館のようだ。めちゃくちゃ大きいというほどでもないが、小さいということもない。中くらいの美術館。


 この崩壊した世界で、綺麗なままの建物というのは本当に珍しい。一つの行政区域に一つ残ってるかどうかぐらいだ。だから、特に理由もなく俺はその美術館へと入ることに決めた。


 これは個展のようだ。「清松育三」と書かれている掲示板がある。『命』を題材とした作品の数々に酔いしれてください……だと。

 そういえば、美術館みたいなところには今まで一度も入ったことがなかった。


 中に入ってみて、すぐに異常に気付いた。

 蜘蛛の巣が張っている。白い石造りの建物だが、白い蜘蛛の糸によって更に景色が白い。しかも、普通の蜘蛛の巣ではない。


 大きい。とても大きいのだ、糸が。横幅が十センチほどあるかもしれない。

 これは、星々の来訪者のものだろうか。しかし、今までの経験上、建物の中に彼らがいたことはない。となると、この糸はこの個展の元々のデザインということだろう。


 歩いてみると、壁にいくつも絵画が貼られている。そこに蜘蛛の糸は被さっていないので、やはりこういうデザインなのかもしれない。


 絵画は、確かに美しいものばかりだ。朝露の絵。少女と犬の絵。どこか、希望を感じるようなものばかりで、心が躍る。今は無賃で閲覧しているが、有料だったとしてもこれは見たいな……。


 試しに、俺も何か描いてみようと思った。なので、このページの下部に描いておく。描くものは、目の前にある絵画の人物。「清松育三」の自画像だろうか。『生命活動』という題の、「清松育三」の笑顔の絵画だ。


 さて、まだまだ絵はあるみたいだ。このページの余白が埋まってきて、絵のスペースがなくなってしまうので、続きは次ページに記す。

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リアリティ・フォビア 二一人 @tamatama114514

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