煙草を、雪に投げ捨てて

「えー、つかミッチー、荷物やばー。なにそのスーツケース」

「ま、久々の東京からの帰還だといろいろあるのさ」

「東京とか、すごー。えーっ、でもお、ミッチー、生きてたんだねー?」

「生きてたんだね、とか。うける。そっちこそひとりの生命に対して失礼」

「んー、でもおー、ミッチー行方不明説とか死亡説とかー、めっちゃ流れてたよ?」


 それも、そのはず。――わたしはこの街を出るときに、だれにもなにも知らせず、行った。

 だってわたしはいずれこの街に戻ってあの子を殺さねばならなかったから。

 そして、それは成功したのだ。……心がうずうず疼いて、たかが木琴相手にちょっとおしゃべりをしたくなった。


「……ねえ、モッキンさあ、柏手かしわでのこと覚えてる?」


 柏手、というのもあだ名。あの子は神社に行くと柏手をするのがうまかった。


「トモチンでしょー?」


 くだらないあだ名であの子のことを呼ぶな。てめえのガキごと、ぶっ殺すぞ。

 と思ったけれど、おとななわたしはそんな素振りは見せずににこっとする。


「そうそう、いたじゃん、あの個性的な子」

「んー、もうなんとなくしか覚えてないけどお、ミッチは仲よかったもんねー、トモチンと」

「そ、そ。それでね、仲よすぎたから、トモチンを殺してきたんだわ」

「……え?」



 わたしはすっかり火の消えていた煙草をぽいと無造作に雪の地面に投げ捨てると、次の煙草に火をつけた。


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