モッキン
「あっれー、ミッチーじゃん?」
おお。何という偶然。声をかけてきたのは、高校時代のクラスメイトだった。まるで琴の線のように細い一重の目。高校時代はおかっぱだったけど、そうか、髪は伸ばして淡く茶色に染めて、ちょっとパーマもかけたのかな。うーん、絶望的に似合っていない。
偶然の産物か何と三年間ずっとクラスが一緒で、あだ名でも呼び合って、数々の学校行事を共に乗り越え、学び舎での多感な時期を同じくして、その癖三年間いちども魂の震える交流をしなかったというある意味恐るべき運命の旧友だ。たとえ生まれ変わって共の戦場に生まれたとて、彼女と深い心の交流をすることなどは起こり得まい。
決して友になりえない、友。わたしは顔を上げ、にこりと笑った。
「おおーっ、まさかモッキン?」
目はお
「えー、ミッチー、めちゃくちゃ久しぶりじゃんー」
「モッキンこそー。つか、びっくりしたー。それ、子ども?」
「そうそう――って、それ、って言い方ー! だーっ! かりにもひとつの生命に対してその言い方ー! 単なるお荷物のように言うなしー! もうー!」
ああ。相変わらず、言うことが壊滅的におもしろくないのにやたら演劇の台詞みたいに演技がかって、長い。このノリも、変わってないなあ。わたしは安心した。モッキンとは決して深くわかりあうこともないだろうし――だから、わたしの今回の帰郷の理由も、たぶん感づかれずに済むと思う。
木琴の抱いてる子どもは、まだ赤ん坊だ。雪のなかで頬が赤く、なにが楽しいのかきゃっきゃと笑っていた。ひとつの生命。林檎のような。林檎――それが罪の象徴であることを知ったのは、わたしは決してここではない、上京して入った大学においてだった。
それから、わたしはたったひとり東京に暮らし続けている。十年間。そうか、単純計算で二十八歳。だったらもう、子どものひとりやふたりいたって、まったくおかしくないのだ。
微妙な沈黙。静かななかに、雪は降り続ける。音はしないのに音を感じる。しんしん。しんしんしん。不思議だ、ほんとうに、雪というのはこんなに巨大な存在感のあるものだったかしらっけ。
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