しのび、いたみ、とむらう。~ゆきんこの場合~

柳なつき

振り返り、煙草を吸う

 こうしてすべてが済んでみれば、つまりはわたしは雪にいちばん愛されたかったのだと思う。



 駅前。全国的にも一応名は知れている駅名の看板が、あの頃と同じで今でもちょっと偉そうに地名を主張している。しんしん降り積む雪景色。

 ああ。たしかに、わたしの故郷。帰ってきている。十年ぶり、高校卒業以来。


 ベンチに座ってもう一時間になるけど、人通りなんてほとんどない。ときおり車がガタガタと凍った路面の上を走って行くけど、余りに大袈裟に走るものだから馬車か何かと勘違いしてしまう。なんてね。滑稽な、私の想像力。


 あるいは、霊柩車か何かではないよね? あるいは、あるいは。車内には人の死体が詰まっているから、重たくなる。なーんて――。



「ひとを殺したからって自意識過剰すぎ」



 ひとりごとを言うはいいけど、自意識過剰って言葉はもう今どきの若者は使わないのかしら。九十年代初頭に生まれたわたしは、平成最後のこの冬においてはもう若者ではない。最先端ではなくなってしまったのだ。なあんて、きょうは思考もお戯れが過ぎますね。



 あの時代、大嫌いだったあの子を殺した帰りだからって。



 わたしは最後の煙草を吸うと、ふうと目の前の景色に吹きかけた。煙の白色は、降りつむ雪と比べても遜色ない。雪は冷たくてきれいなのに、そして人間の吐き出す煙草の煙は生温くて汚いのに、どうして同じ色をしているのだろう。ずっと不思議だ。あの野暮ったいセーラー服、いわばわたしのとっての雪国制服時代からの疑問。哲学。



 あの子のセーラー服すがたを思い出す。



 そうして忍ぶことがせめてものあの子の黄泉よみの道での光になると信じて。

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