若き日 あの時を思い出せば
川野マグロ(マグローK)
友のため
山内タクロウは今もまだ檻の中だ。
彼は友のために行動し、そして捕まってしまった。
そのことに関しては彼は後悔していない。
しかし、未だその友人と一切の連絡ができないことが彼にとって辛く苦しいことであった。
「オッス」
タクロウに話しかけてきたのは文武両道を地で行く学校のカリスマであり親友の古川ヨシゾウだった。
「オッス」
「いや、悪いな俺の頼みに付き合ってもらっちゃって」
「いいんだよ」
今彼らは地元を遠く離れるために目的地を書いた紙を必死に振っていた。
ドライバーは彼らに気づいた様子もなく次々通り過ぎていく。
「本当にいいのか?」
そう言ったのはヨシゾウだった。
「いいんだって言ってるだろ?」
ヨシゾウがタクロウの行動を心配することには理由がある。
タクロウの家系は代々医者だった。そのため彼の両親は医者になることを望んでおり、そのことはヨシゾウも知っていたからだ。
「あんまりしつこいと怒るぞ」
とタクロウは言い。
「わかったよ」
ヨシゾウはこたえた。
「お」
タイミングよく車は停まった。
「お前たち乗っていくか?」
「はい!」
2人揃って返事をした。
「なんで若いのにこんなことやってるんだ?」
トラックドライバーの疑問は当たり前だろう。
しかし、ヨシゾウには切羽詰まった理由があった。
ヨシゾウもまた家族のしがらみから抜け出せない1人だった。結婚相手すら自分で決めることはできない。
そして、風習により相手の求めたものを示さなければならないのだ。
「警察の人を連れて行かないといけないんです」
ヨシゾウは言った。
「一体どういうことだ?」
「知りたいですか? 長くなりますけど」
「ならいい」
「お前も大変だよな」
そういったのはタクロウだった。
「付き合ってくれてありがたいよ」
そこからは2人の感謝しあい合戦だった。
「ここまででいいかい? こっからは君たちとは別の道だ」
「ありがとうございました」
タクロウたちはトラックから降りた。トラックドライバーとは手を振り別れた。
「ちょっと休憩にするか」
タクロウが言った。
「そうだな」
彼らはベンチに座って缶コーヒーを飲んでいた。
「思っていたより遠いんだな」
ヨシゾウが言った。
「ああ、もう2時間も経ったのに1人も見つからないなんて」
「予想は外れるものだな」
「仕方ないさ、いくら目撃情報が多いとは言え絶対に見つかるわけじゃない」
「そうだよな」
警察は一芸に富んでいないとなることはできない。
彼らは火を吹き、氷を飛ばし、地ならしを起こす。そうして平和を保っている集団が警察だった。
「俺が警察みたいなことできたら探し回らなくてすんだのに」
「本当だよ!」
「警察は見た目はそこら辺の人間と変わらないからな」
「ちょっと騒ぎでも起きてくれればいいんだけど」
「平和だからな」
「ああ」
タクロウはそうして缶をゴミ箱へと投げ入れた。コントロール悪くそれはゴミ箱から遠く離れた草むらへと入っていった。
「やべっ」
「あはは、本当に物投げるの下手だな」
タクロウは必死で缶を探した。草むらへと入ったのは見ていたのだ。探せば簡単に見つかるはずだった。
「あれっ? ない。ない!」
「あるはずだろう?」
「ないんだって!」
「おいっ! 君っ!」
タクロウに話しかけてきたのは見知らぬ女性だった。
「……はい、何か?」
「君が探しているのはこれかな?」
「それです! ありがとうございます」
「では、逮捕だ」
「……え……?」
「ちょっと待ってくださいよ!」
ヨシゾウは言った。
「タクロウを逮捕する理由はないんじゃないですか?」
「君も関係者か?」
「いいえ! 彼は知り合いではありません」
タクロウは言った。
「早く連れて行って下さい」
「待って、待ってくれよ!」
ヨシゾウの叫びは届かなかった。
警察は自らの意思で犯罪者を決定する。逆らえば彼らの特殊能力が火を吹くことを知っていたタクロウは親友の目的を果たすために親友まで巻き込むまいと決めた。
「おいっ! 親御さんだ。出てこい」
未だ名乗らない女性が言った。
タクロウは言われるまま牢屋から出た。
「一体何したんだ?」
父は言った。
「か」
「内容を話すことは禁止されている」
タクロウが話そうとしたことを女性は遮った。
「……」
そこからはひたすら沈黙だった。
父も何なら話すことができるのかを理解しているわけではないのだろう。
「ふ、お前なんぞずっとその中に居ればいい」
後からやってきた祖父はそれだけ言って満足したのか帰っていった。
タクロウにとって、父も祖父のことよりも知りたかったことがある。
知りたかったのはヨシゾウは婚約者に警察を会わせることができたか、ただそれだけだった。
若き日 あの時を思い出せば 川野マグロ(マグローK) @magurok
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