第5話 君と共に、巨悪を討つ


 孤島すらも覆い尽くすほどの、眩い閃光。その輝きが消え去り、亮磨達戦車隊がようやく目を開いた頃には。


『ごく僅かな時間でしたが、実に良き戦いでした。……感謝しますよ、フブキ・リュウシロー』


 衝撃によって空高く舞い上がる、ジャイガリンGと――その頭脳となる真紅のドリル戦車「モール・アントラー号」が、空中で切り離されていた。

 最大火力の雷撃ブロウクンスパークに吹き飛ばされたジャイガリンGは、戦斧も剣も粉々に打ち砕かれ、そのまま火口へと墜落していく。

 一方、残されたアントラー号は轟音と共に、火山の斜面を激しく転がり――麓まで流され、ようやく停止した。


 竜史郎の名を呼ぶ「Z」の操縦者――「天雷のペルセ」は、動かなくなったアントラー号を見遣り、その健闘を称える。自らの勝利を、宣言するかの如く。


『ぼ、坊主ッ! 坊主、応答しろッ! まだ生きてるなら返事しやがれッ!」

「……ま、だ……だッ……!」

『坊主……!』


 だが、竜史郎にとってはまだ終わりではない。衝撃で頭をぶつけキャノピーを割り、ヘルメットが壊れた今でも――彼は血みどろになりながら、操縦桿だけは離さずにいる。

 その鬼気迫る表情をモニター越しに目の当たりにして、亮磨は思わず息を呑んでいた。


『……これは驚きました。まさか、まだ生きていたとは。ゾギアンの魂をも背負う者に為せる、奇跡というものですかな』

「……奇跡でも、なんでも良い……! あなたさえ、止められるならッ……!」

『実に結構。ならばその奇跡もろとも、次の一撃で吹き飛ばし――私の完全なる勝利を、あなたの死で彩りましょう』


 その会話を再び傍受していたペルセもまた、驚愕を隠せずにいる。

 「Z」の雷撃をまともに喰らい、なおも精神が折れない男など。数百年の時を生きる長寿の種族から生まれたペルセですら、出会ったことがないのだ。


 そんな彼の意固地な姿に、ますます悦び・・を覚えた異星人は――この戦いの幕を鮮やかに降ろさんと、「とどめ」の体勢に入る。

 ペルセがコクピットの中央にあるレバーを倒した瞬間。「Z」の両翼から迫り上がってきた、2つの巨大な「ミサイルポッド」が、その両肩に乗せられた。


『――この、流星群ミサイルで』


 200mの「Z」に合わせて造られているそのサイズは、もはや動くミサイルサイロ。それも無数の発射口を備えた、質量と弾数の暴力そのもの。

 この孤島どころか、地球そのものを飲み込みかねないほどの火力が今、竜史郎達の前に顕現していた。


『マズい……! 坊主、坊主ッ! ヤベェのが来る、早くそこからッ――!?』


 絶体絶命。そんな表現すら生温いほどの脅威が――地球の危機が、迫らんとしている。


 まさに、その時だった。


『な、なんだ……!?』


 ふと、戦車隊の頭上を「何か」が翔び――彼らをその「機影」で覆い隠していく。しかも、1機や2機ではない。


『み、御堂隊長! 謎の識別不明機アンノウンが多数接近中! すっ……凄い速さです!』

『なんだ……!? 今度はなんだってんだ、一体何が起きていやがる!?』


 得体の知れない識別不明機が次々と、この孤島に。この火山に、集まろうとしていた。

 その異様な光景に亮磨達は目を見張り、血だるまになりながらも空を仰ぐ竜史郎もまた、瞠目している。


「人型兵器があんなに……スティールフォース……? いや、違う……一体あれは、誰だ……?」


 空の向こうから、海の中から、森の奥から。まるで呼び寄せられたかのように、この地に集う鋼鉄の巨人達。

 予期せぬ彼らの出現に戸惑う竜史郎に対して、巨人達はすでに――倒すべき敵を、見定めているかのようだった。彼らは迷うことなく、その視線を火山の頂上付近に立つ「Z」へと向けている。


 それはいわば、鋼鉄の「福音」。

 不吹竜史郎の闘志が呼び寄せたものは、天雷という「災厄」だけではなかったのである。


 ――彼らこそが。この死地の中で亮磨が祈った、誰か・・であった。


奴ら・・とは違うらしいが……気に食わねぇな。俺達であの太々しいデカブツに一泡吹かせてやろうぜ、アイリス。武装展開、アメノムラクモ顕現! 戦闘スタイル、草薙流閃武闘術――抜刀!」

『はい、マスター! 共に参りましょう!』


 白銀と黄金に彩られた、竜鱗の如き装甲を纏う鋼鉄の武士もののふ。全長30mを優に超える体躯を持ち、「竜星機」の名を冠する巨人――オルディウスは、一振りの刀を手に戦場に降臨する。

 その機体を操る青年・草薙界吏くさなぎかいりと、彼の「相棒」であるアイリス・ローディエンヌは。眼前に立ちはだかる巨人を前にしても動じることなく、涼しげに佇んでいた。


「……確かに、敵は強大かも知れない。だけど、あんなものがあるって知った以上、僕達が背を向けるわけにはいかない! 行こう、ゴッドジャスティス!」

『ああ! 行くぞ勇希ゆうき、正義は神とともにあり!』


 青、白、黄色。その三色を基調とする勇壮なる機神――ゴッドジャスティス。正義を司る神としての人格を持ったその巨人と共に、勇希ゆうきと呼ばれる中学生の少年は、眼前の巨悪を真摯に見据えていた。

 の巨腕が振るう大剣の切っ先は、遥か方に聳え立つ黒金の牙城に向けられている。


「また随分とデカい的ね。ガイ、準備は良い?」

「当たり前だろ、お姫様。悠長に待っててくれるような、お優しい手合いにも見えねぇしな」

「それもそうね。……ジーオッドBビシュー、か……ちょっと懐かしいかも」


 青と赤。2色の両眼に輝きを宿した、真紅のスーパーロボット――ゴッドグレイツ。緑色の下半身で地を踏み締めるの鉄人は、天にも迫る「Z」の巨躯を、その雄々しい眼光で射抜いていた。

 全長15mほどの体躯を持つその機体を操る、赤い眼鏡を掛けた少女・真薙真さななぎまこと。その「相棒」として同乗している、片目に傷を持つ青年・ガイ。長きに渡り共に戦い抜いてきた彼らは、この圧倒的な体格の差を前にしても、全く引き下がる気配を見せないでいる。


「……どこに行っても、たまには居るんだよな。デカけりゃ良いって思ってるようなヤツ」


 般若面の如き凶相で、禍々しき鉄人の群れを睨む深紅の鎧武者。この中においては、全長7mという比較的小さなサイズだが――刀を携え現れた清姫プルガレギナ弐号機は、その体格差など全く感じさせないほどの存在感を放ち、全身に紫の炎を纏っていた。

 その刀はやがて鬼火を宿し炎の大剣へと変貌し、背面からは翼の如き猛火が伸びる。だが、の鎧武者の猛々しい姿とは裏腹に――そのパイロットである黒縁眼鏡の少年・根生将吾郎ねぶしょうごろうは、「Z」の巨躯を冷ややかに見上げていた。


「ふふん……いるのよねー、デカけりゃ良いって思ってるようなヤツ。ナイト、アタシ達の力を見せてやるわよ!」

「ははっ、仰せのままに! ……しかし姫。その台詞は隣の御仁と被ってしまいますぞ」

「ちょっ……いいでしょそれは別に! 想いは一つってことじゃない! アンタちょっとはマシな方向に解釈しなさいよっ!」


 白銀の左拳、真紅の右拳。その双方を打ち鳴らし、火花を散らして雄々しく地を踏み締める銀色の巨人――ナイトキャリバーン。全身の各部に竜の意匠を持つその機体は、荘厳たる佇まいで「Z」の巨躯を見上げていた。

 その機体を操る1人の美女こと、プリンセス・フレア。彼女に仕える騎士にして、今はこの機体そのものでもある機身騎士ブレイバー――ナイト。共にこの巨人を操縦している彼らは、この状況においてもいつも・・・のような言い合いを絶やさずにいる。


「……例え心を恐怖が支配していても、一緒にその恐怖と対峙できる。そうだよな、セイバー」

「その通りです、アクト。2人で……前に進みましょう」


 しなやかな曲線を描く白い機体と、そのスリットに走る黄色いライン。17.7mにも及ぶその体躯に反した、軽やかな動作で――ガイファルド・セイバーはこの戦地に降り立った。

 パイロットに相当する「共命者」と文字通り一心同体になることで、その真価を発揮するの機体は、心身を共有する天瀬空翔あませあくとの「本質」を如実に映し出している。もう1人の自分自身でもあるセイバーの激励を受け、空翔は恐れを振り切らんと強い眼差しで「Z」を射抜いていた。

 2丁のバリアブルガンを握っていたその両手から、徐々に震えが消えていく。その現象は確かに、空翔の胸中に渦巻く「恐怖」と「勇気」を、あるがままに表現していた。


「……助けに来たよ。こっから先は、英雄叙事詩の時間だ! 英勇閃奏、Vリーナ! 物語・開始ッ!」


 少年とも、少女とも取れる優しげな声と共に。地表に広がる光の魔法陣、その中心から数十mにも及ぶ鋼の巨人――Vリーナが現れる。

 フルフェイスヘルムを被りバイザーを下ろした、人狼の如き鎧騎士。黄金のエッジやエングレーヴが施されたその装甲からは荘厳な印象を受けるが、すらりとした手足や細い腰からは優美なイメージも感じられた。

 肩と背中から炎のマントを広げ、雄々しく名乗りを上げる本機の中で――美少女とも美少年とも取れるパイロット・ツァレヴィチが、その透き通るような声を弾ませている。


「まさか、あんなにデッカいMEマシン・エネミーもどきがいるなんてな……ハハッ、一周回って笑えて来るよ」


 逞しく角張ったボディライン。かつて「昭和」と呼ばれていた時代観を想起させるディテール。そして眩い輝きを宿したツインアイを持つ、赤い巨人――ロボットマン。50mにも及ぶその体躯によって生まれた巨影が、アントラー号を太陽から覆い隠していた。

 その巨人のパイロットを務める高校生・真進ましんユウトは、身体に不調を来すまで――否、来してからも休みなく戦い続けてきた機械生命体「ME」を彷彿させる「Z」を前に、呆れ返ったような笑みを浮かべている。


「……分かってるよ、祖父ちゃん。俺は戦う、どんな敵が相手でも!」


 彼の隣に降り立ち大地を揺るがすは、ロボットマンと同等の体躯を誇る白銀の聖騎士――グランパラディン。全長50mという巨躯は日差しを浴びて眩い輝きを放ち、その神々しき姿に更なる彩りを添えている。

 文字通り・・・・、祖父の魂が宿ったその機体を駆る少年・破天荒士はてんこうじは。グランパラディンと一体化した破天荒太郎はてんこうたろうの意を汲み、聖騎士の手に握られた斧槍・グランハルバードを構え直していた。


「まだ誰も死んではおらぬゆえ、『おれ』の出番には少々早かろうが……仕方あるまい。折檻しおきの時間だ、八郎丸!」

ラジャ親方マム


 太い腕、筋骨逞しい脚。甲冑姿に鉢金状の装甲、眉間から伸びる2本の角。まさしく「大鬼」と呼ぶに相応しい、一振りの金棒を携えた巨人――八郎丸は、自らの肩に乗る主人の命に、忠実に従っていた。

 その主人の姿を簡潔に例えるならば、サイボーグの小鬼。そんな第一印象を与えている美少女の名は、天海猩々院てんかいしょうじょういん泰澄亜由良信女たいちょうあゆらしんにょ――通称、泰良たいら。彼女は八重歯を覗かせ不敵に笑い、相棒である大鬼に檄を飛ばしている。

 古くから「来年のことを言えば鬼が笑う」という言葉があるが、それはこの地球に「来年」があって初めて成り立つもの。彼女はその「来年」を守るため、この戦地に現れたのかも知れない。


「あ、あれが敵かぁ!? なんたらでっけぇ奴だこと! ……んだけど、今さら引くわけにはいかねぇっ!」


 人の形、人の顔を持ちつつも、そのロボット――ミヤギレイバーの全身は、「車体」を彷彿させる角張った形状となっていた。例えるならそれは、バスが変形した人型ロボット。

 そんな特徴的な外観を持ったミヤギレイバーを操縦する、宮城県出身の女子高生・早坂祈音はやさかねおんは、「Z」の巨躯を仰ぎながらも気丈に声を張り上げる。東北地方の守りを担う「北天の巫女」として、故郷にまで影響を及ぼしかねない外敵を、放っておくわけにはいかないのだ。


「巨大な敵、追い詰められる主人公、どこからともなく駆け付ける謎の識別不明機……か。ここまで手垢が付いてると、いっそ清々しくすらあるな」


 パイロットのパーソナルカラーに合わせ、青一色に塗装された鋼の巨躯。右腕に装備されたリニアガンに、左腕を保護するクロー状の小型シールド。そしてバイザーゴーグルの眼を持つ頭部と、直線系のボディライン。

 全高18mを超える人型兵器・RAラウンドアーマーの一種とされる量産機――RA-04「ウォリアー」。その機体を駆る青年士官ことクリストファー・レイノルズは、この「世界」をどこか遠巻き・・・に見るかのように呟いていた。

 リニアガンの銃口を「Z」に向ける彼は、いつも・・・のように軽口を叩きながらも、操縦桿を握る手に多量の汗を滲ませている。例えこの戦場が、彼にとってはありふれた「作中世界」に過ぎなくとも――目の前に聳える黒金の牙城は、紛れもなく「本物」なのだ。


「き……君達、は……!?」

「よう、まだ生きてるか? あんた独りじゃ骨が折れるだろ、ちょっと手ぇ貸してやるよ。ウチのお姫様・・・もやる気になってることだしな」

「来たのが僕だけ、ってことにならなくて安心しました。……ヒーローになりたいわけじゃありませんから」

「もう大丈夫です。後は、僕達ゴッドジャスティスに任せてください!」

「セイバーも付いてるんだ、大船に乗ったつもりでいてくれ!」


 どこから来たのか、何者なのか。何一つ分からない、謎のロボット軍団。

 彼らの間には、何の繋がりもない。ただ闘争を求め、この地球を滅ぼさんとする「豪炎」を察知して駆け付けた、同じ目的の元に集う「同盟」でしかない。


「一緒に戦ってくれる、のか……? でもっ……!」

「でもも何もないでしょ! ……あんなヤツ、放って置くわけにはいかないんだから!」

「そうそう! あんなヤツ放って――」

「姫、ですから台詞が」

「うっさい!」

「……そ、そうか……うん、ありがとう」


 しかし、今この場においては、それで十分なのだ。ジャイガリンGが倒れた今、もはや地球を救えるのは、彼らしかいないのだから。


『おやおや……せっかくの決着に水を差そうとは、無粋な方々だ。ならばこちらも、それなりの返礼で応えると致しましょう。遊んであげなさい、エース・ドール』


 そんな寄せ集めに、何が出来る。

 そう言わんばかりに鼻を鳴らすペルセは、「Z」の胸部にあるハッチを開き――そこから、大量の機械人形を無尽蔵に放出して来た。


「ら、らずもねぇとんでもない連中だなやっ!?」

「なんと面妖な……これは流石に八郎丸といえど、一筋縄には行かんぞ」

「……いかにも、数だけのザコが湧いて来たって感じだね。物語の世界には付き物さ」

「確かにな……にしても、あの量は流石に反則だろう。俺達より先に作画班が死ぬぞ。ツッコむ気も失せちまう」

「あれ全部が敵……? あのMEもどき、余計な仕事増やしやがって……」

「何が来たって、やることは変わらない。祖父ちゃんのグランパラディンで、最後まで戦い抜くだけだ!」


 ロボット軍団の前に現れる、ダークブルーに彩られた20m級の鉄人――「エース・ドール」。

 スペースシャトルの意匠を持つその姿は、まさしく先ほどの戦いで竜史郎達が倒したものと同一の外観だったのである。しかも今度は、10機程度には到底収まらない。


 その頭数は、およそ100機以上にも及んでいる。絶え間なく「Z」の体内で製造され、排出されてくる彼らの赤い眼光が、この火山一帯を埋め尽くさんと広がり続けていた。


「さっきの奴らが、あんなに……!」

『調査隊を襲った連中は、ほんのちょっとの鉄砲玉でしかなかったってことかよ……! どこまで規格外なら気が済むんだッ……!』


 謎の識別不明機達が加わった今でもなお、数では圧倒的に不利。だが彼らは全く怯む気配すらなく、堂々とエース・ドールの大軍団と対峙している。


「三神守護宗家が草薙家、裏門当主草薙界吏くさなぎかいりとオルディウス……推して参る」


 やがて、草薙界吏の呟きを皮切りに。傷だらけのアントラー号を背にした彼らが、鉄人の群れに突撃したのはその直後であった。


「みんな……ッ!」


 豪炎の同盟バーニング・アライアンス天雷の軍勢エース・ドールズ。彼らの総力戦が今、開幕する――。


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