第6話 燃ゆる闘志の、炎を呼んで


 「Z」降下の際に発生したマグニチュード5.5相当の振動など、軽く凌駕する激しい地響き。その原因は火山を駆け登りエース・ドールの群勢に挑む、ロボット軍団の進撃によるものであった。


 そしてその轟音すら、彼らの一撃が齎す衝撃音と爆音によって掻き消されていく。この孤島はおろか、地球全体にまで響き渡るかのように。


『マスター、3時の方向から4機! 8時の方向から2機!』

「分かってらぁッ!」


 その激戦の渦中で、一振りの刀剣――「アメノムラクモ」を振るうオルディウスは、あらゆる方角から迫るエース・ドール達を矢継ぎ早に斬り捨てていた。

 熱線の放射よりもはやく、鉄をも穿つ刃の閃きが、絶え間なく機械人形の群れを真っ二つに裂いて行く。だが、いくら斬り払っても「Z」の胸部ハッチから無尽蔵に沸き出てくるエース・ドールは、無駄と言わんばかりにオルディウスを囲み続けていた。


「……ったく、こんな数まとも・・・に相手しちゃいられねぇ。アイリス、アレ・・で行くぞ!」

アレ・・ですね! 畏まりました、マスター!』


 を絶たねば、いずれは力尽きてしまう。ならばまず、この包囲網を破壊せねばならない。

 その突破口を切り開くため。オルディウスを駆る界吏は、機体の制御を司るアイリスと意思を疎通させ、エース・ドールの頭上を飛び越していく。


「狂気も、憎悪すらない、ただ命じられるがままに戦う哀れな鉄塊共。……ここで、終わらせてやるよ」


 無論、エース・ドールの群れも彼を逃すまいと追ってくるのだが――その時点で機械人形達はすでに、「術中」に嵌まっていたのだ。

 アメノムラクモを鞘に納め、「居合斬り」の体勢に入ったオルディウスと界吏は、すでに「奥義」を放つ準備を終えている。


『マスター! 奥義発動準備完了です!』

「あぁ……行くぜッ! 草薙流閃武闘術、新式・竜機討滅奥義! 抜刀! ヒノ・カグ・ツチィィィイッ!」


 そして、アイリスの叫びが引き金となり。煌きを放つオルディウスによって、振り抜かれた蒼炎の剣閃が――瞬く間に、射線上・・・に群がるエース・ドール達を消し去ってしまった。

 無限の静から、閃烈なる動へと。大気もろとも全てを穿つアメノムラクモの刃が、文字通りの「突破口」を斬り・・開いてしまう。


 その光景を目の当たりにして、息を飲む竜史郎の前にオルディウスが降り立ったのは、それから間も無くのことだった。


「あの数の兵隊が、一瞬で……!?」

「悪いな、いきなり派手なのブチかましちまってよ。巻き込まれてねぇか?」

「あ、あぁ、大丈夫だ。……それにしても、凄まじい破壊力だな」

「まぁな。……だが、この奥義でもまだ全滅とは行かねぇらしい。まだまだ暴れる必要がありそうだぜ」


 だが、あの一閃を以てしても決着には至らず。「Z」の胸部ハッチからはすでに、次のエース・ドール達が溢れ出していた。

 の巨人を倒さねば、この戦いは永久に終わらない。オルディウスは間髪入れず、アメノムラクモを握り直す。


「……あんた、何か重いモノを背負ってきたクチだろう。例えば、贖罪・・とかな」

「……ッ!?」

「俺の知り合いに、そういうヤツがいてな……眼の色がよく似てる」


 そして、諸悪の根源を断つための戦いに、再び飛び出していく――前に。アントラー号を背にした彼は、肩越しに竜史郎へと語り掛けた。


「ここまで大勢巻き込んだらからには、死に急ぎなんて許さねぇからな。……生き延びろよ、絶対」

「……」


 その一言を最後に、彼は今度こそ戦場に舞い戻っていく。重みのあるその言葉は、死を賭していた竜史郎には、刃よりも深く沈み込んでいた。


 ◇


『あいつらが何者かはわからねぇが……今は味方だって、信じるしかねぇな……!』

「えぇ……」


 あまりにも絶大で、あまりにも圧倒的な「豪炎の同盟バーニング・アライアンス」の武器、装備、技。

 その一端を見せ付けられ、竜史郎達が息を呑む中――先刻、オルディウスが放った「ヒノカグツチ」の影響なのか。まるでこの戦いに反応しているかのように、突如火口から噴火が上がる。


「……ッ!?」

『おいおい、こんな時に噴火って……! もう何が起きたって、不思議じゃねぇな……!?』

「……違う、あれは噴火じゃない。オレには、分かります」

『あぁ? いや、噴火じゃないったって、ありゃどう見ても……お、おい、坊主!?』


 だが、それはただの「噴火」ではない。火口、その遥か奥深くから鼓動する「力」を感じ取った竜史郎は、弾かれたように操縦桿を倒した。

 「豪炎の同盟」の奮戦に焚きつけられたかのように、静寂を破り走り出したアントラー号が、火口を目指して一気に猛進する。


『……! 坊主、まさか……』

「そうです、アレは噴火じゃない。ジャイガリンGの……『排熱』です。彼は今もオレを待ってるんだ、あの火口の遥か下で!」


 ――全てのダイノロドにとっての動力源である、「死地熱エネルギー」。その力の純度は地下深くに潜れば潜るほど高まり、機体に未知数のパワーを齎していく。

 それは源流オリジナルであるノヴァルダーにも存在しない、ダイノロドならではの特性であった。


 その機構は当然ながら、「ダイノロドG」と呼ばれていたジャイガリンGにも存在している。しかし新兵器を追加しているとはいえ、昨日まで古代兵器博物館で置物にされていたジャイガリンGには、本来持ち得るエネルギーの2割も残されていなかったのだ。

 そして今、アントラー号から切り離されたジャイガリンGの機体は、火口に落とされ――その遥か下。地球の核近くにまで、沈められている。


 ならば当然、そこで燻り続けているジャイガリンGの死地熱エネルギーはすでに、最高潮に達しているはず。その余りに強力な力の発露が、「噴火」と見紛うほどの「排熱」となって、地上に顕れているのだ。


 荒唐無稽、という言葉すら及ばないほどの超理論だろう。しかし、ジャイガリンGの搭乗者として戦い抜いてきた竜史郎には、確信があった。


(……死に急ぎはしない。生きて戦い、勝ち残る……それだけだッ!)


 確信があるからこそ彼は、激戦に巻き込まれる危険を顧みず、アントラー号を走らせているのである。その荒唐無稽な超理論に、逆転へと繋がる最後の希望を託して。


『は、はは……そいつぁ随分と、ぶっ飛んだスケールじゃねぇか』


 その超理論に、乾いた笑みを零しながらも。

 亮磨は拳を震わせ、祈る。この一世一代の大博打に、なんとしても勝ってくれ――と。

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