第34話 次なる目標
深夜。
明日から学院が始まろうとする時、俺はアイリス王女に呼び出されていた。彼女の部屋の扉の前にやってくると、ノックを三回ほどする。
「入っていいわよ」
「失礼します」
室内に入ると、すでに紅茶を淹れて待っているアイリス王女とバルツさん。バルツさんは部屋の隅に待機しており、俺の姿を見ると丁寧に頭を下げた。
「さ、座って」
「あぁ」
この場で砕けた口調で話すことを許されている。この瞬間は、俺たちは主人と護衛という関係ではない。その関係は形容するならば──共犯、と言うべきだろう。
俺たちは【
「それでなのだけれど、次の目標は魔剣使いにしようと思うの」
「……すでに魔剣使いの目星は?」
「ついてないわ」
「では、どうしてそう考える?」
ニヤッと笑みを浮かべる。それはある種の二面性と言ってもいいだろう。普段はおっとりとしていて、天真爛漫な印象を抱く。しかしそれは、彼女の一面に過ぎない。
決して偽っているわけではない。彼女にとって、どちらの姿も本物に過ぎない。ただそれを、こうして使い分けているだけだ。それは俺だって……同じだ。
「そろそろ時期としては、
「
「そうね。その認識で大丈夫よ」
このは、
互いの学院からたった五人しか選抜されない。それはもちろん、学年の枠など取り払われている。互いの学院の中で最強の五人を選抜して、それによって競い合う。
それこそが、
この王国に侵入するに当たって、その程度のことは下調べをしている。しかし、実際にこの王国に長年住んでいるアイリス王女の方が詳しいのは間違い無いだろう。
「
「大会に介入があると?」
「可能性としては捨てきれないわ。流石に大会全てをめちゃくちゃにするのはリスクが高すぎるけれど、裏で一人くらい聖剣使いを屠っておきたいでしょうね」
「……今までそんなことがあったのか?」
そう尋ねる。
彼女の言い分からすれば、昨年やその前も同じようなことがあった可能性もあるが……アイリス王女はそれを否定する。
「いえ。今まで私も注意していたけれど、特に動きはなかった。でも、今年はあると持っていいでしょうね」
何故彼女がそう考えるのか。その答えは、俺もまたすでに得ていた。
「──俺の存在か?」
そう言うとアイリス王女は嬉しそうに微笑んだ。
「そうよ。あなたが良くも悪くも、今のバランスを崩壊させてくれた。魔剣使い側は、聖剣使いを警戒して、逆も同様。でも……妖刀使いの可能性も考えているでしょうね。相手もそこまで能天気じゃ無いわ。ならば、この祭りごとに隠れて戦うのは戦略としてはアリと私は考えるわ」
「……なるほど。確かに、俺もそう思う。で、具体的に今後はどうするつもりだ?」
本題に入る。まずは次に誰を狙うのか。それが今の俺たちにとって最重要の課題だろう。
現在、こちらが保有している【
魔剣は残り五本であり、聖剣は残り七本。あと俺たちは、十二本の【
しかし、【
「まずはさっきも言ったけど、しばらくは魔剣使いに集中した方がいいと思うわ」「【
「えぇ。あちらは魔剣使いと違って、一つの組織として完成されている。何よりも現団長が厄介すぎるわね」
「オレリア=クローズか。確か聖剣の名前は……」
俺がその名称を口にしようとすると、それを遮るようにしてアイリス王女はその銘を言葉にした。
「──
「……なるほど。まずは情報収集が重要だろうな」
「これは一つ、確認事項として訊きたいのだけれど」
「なんだ?」
顎に手を当てて、思案しているとそんなことを聞いてくるので俺は素直に答えることにする。
「仮にオレリア=クローズと一対一で戦うことになれば、勝てる……?」
それは緊張感を含んだ声だった。じっと俺の瞳を見つめてくる。それは、俺の自信を試しているようなものでは無い。言葉にするだけならば、虚勢だって張れる。
そして、冷静にその問いに対して答えた。
「正直言って、【
告げる。その事実を。
決してそれは慢心ではない。俺は他の【
それがたとえ、聖剣使いであろうと魔剣使いであろうと関係ない。
「そう。そう聞いて安心したわ」
「虚勢かもしれないぞ?」
「サクヤはそう言う人じゃないわ。でも、問題は必ずしも一対一に持っていけるかどうか……」
「複数人との戦いも、すでに視野に入れているが……相手が三人以上になれば俺も戦い方を考える必要がある」
一対一であれば負ける気など全くしない。しかしやはり、数の暴力と言うものは俺も警戒している。仮に【
もちろん全ての戦いでは、勝利を収める。それは絶対だ。
だからこそ俺たちは、立ち回りを考える必要がある。
「……ともかく、サクヤが複数人を相手にするような状況は避けるようにするわ」
「できるのか?」
「できるできないじゃないの。やるのよ──あなたが一対一で完全に勝利を収めることができるのなら、その舞台を私が用意するわ」
「……」
その瞳には確かな意志が宿っていた。彼女もまた、伊達や酔狂でこの戦いに身を投じているわけではない。王女という立場上、俺との関係性などがバレてしまえばどうなるのか分からない。
互いにギリギリの綱の上を歩いている状況。
真剣になるのも当然のことだろう。
「まずは、そうね。カトリーナさんの覚醒を促しましょう」
「……カトリーナ=フォンテーヌか」
「サクヤには気を少しは許しているようだし、ちょうどいいでしょ? 同じクラスで接する機会も多いし」
「そうだな。それが懸命だろう」
「そして、彼女が力を覚醒させたときは……」
分かっている。その時、俺がすべきことは──。
「問答無用でその聖剣をいただく。分かっている」
「そ。ならいいの。おそらく彼女は
「分かった」
そうして俺たちは次の目標に関する話し合いを終えた。
【
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