第25話 後悔と焦燥
「サクヤッ!!」
倒れ込みながら懸命に手を伸ばすカトリーナだが、虚しくもサクヤは庇うようにして
彼女は知っている。
身体は生きている。しかし、今回の魂がない。
そのような現象が
その恐ろしさを知っている彼女だからこそ、油断せずに立ち回っているつもりだったのだが……彼に
「サクヤッ!! サクヤァッ!!!」
声を上げるが、それはただこの雨に掻き消されるようにして消えていってしまう。その
その場に残るのは、カトリーナただ一人だった。
「あぁ……あ……ぁ……」
震える。
すでに
──どうして? どうしてわたくしはいつもこうなんですの?
問いかける。
ずっと謝りたかった。サクヤに酷い接し方をしてしまって、謝罪をしたかった。シンシアとの会話でそう決めたのに、彼はカトリーナを守るために死んでしまった。
「う……ぅ……ぅううううう……」
涙を流す。
しかし、彼女は分かっていた。悲しんでいる場合ではないのだと。こうして自分が立ち止まっている間にも、
【聖剣──不滅の
──わたくしは、ここで立ち止まっている場合ではないのですわ……サクヤのためにも、立ち上がらなければ……っ!!
痛いほどに【聖剣】を握りしめる。
そしてカトリーナは立ち上がると、この大雨の中をたった一人で進んでいくのだった。
「はぁ……はぁ……はぁ……っ!!」
駆ける。この王国の中を駆け抜けている彼女だったが、何か様子がおかしいことに気がつく。
いつもは深夜にしか
【
カトリーナがサクヤと出会ったのは、ちょうどその命令が下った直後のことだった。
「……おかしいですわ。同じところに迷い込んでいるような」
そのような感覚を覚える。
先ほどから彼女は先に進んでいるつもりではあった。しかし、進んでも進んでも同じような景色が切り返されるだけ。
激しく降る雨は彼女に降り注ぐ。
すでに濡れ切ってしまった体を気にすることはない。ただじっと、聖剣を握り締めて周囲を冷静に見渡そうと努める。
逸る心臓をなんとか抑え込もうとする。
サクヤの死があまりにもショックだったのか、彼女は未だに動揺していた。
──今は戦うしかないんですわ……今だけは、この瞬間だけは、切り替えませんと……。
悲しみに身を任せたいという気持ちもある。しかし、決してそのようなことは許されない。なぜならば、彼女は【
「あれは……?」
視界に捉えるのは溢れ出る
いつもならば、
彼女の瞳に映るのは、漆黒の
あの膨大な
「【
彼女が知っている【
カトリーナはその瞬間、あの噂を思い出していた。
【
無差別にこの王国の
その中でも魔剣使いの存在は、この王国近辺では確認されている。
──もしかして、これは魔剣使いの仕業ですの?
歩みを進める。そこは地下への入り口だった。
現在、魔法革命が起きたフレイディル王国ではインフラの大規模な整備が始まっていた。その中でも一番のものは、地下に鉄道を引こうというものだった。
その先には、黄色いテープで仕切られている地下への入り口があった。
関係者以外立ち入り禁止。しかし、溢れ出る漆黒の
「不気味ですわね……」
工事中である地下を進んでいく。雨の音がこの地下まで響いてくるが、それほど大きいものではない。
彼女としては誰かに声をかけるべきか迷ったところではあったが、戻っている時間はないと思って一人でやってきた。
【聖剣──不滅の
慎重に歩みを進める。すると、その視線の先にはおかしな空間のようなものを見つける。
「……扉? ですの?」
そう。その地下の奥にあったのは扉のようなものだった。地面に設置されているそれは、まるで誰かが意図的に隠しているようなものだった。
溢れ出る漆黒の
それを開ける。その先には、さらに地下へと続く階段があった。
「行くしかない、ですわね……」
カトリーナは誘われるようにして、そのまま進んでいく。明かりはないので、魔法で灯りをつける。自分の目の前に火球を設置して、ゆっくりと階段を降りていく。
「う……これは……」
濃い
ふと思う。仮に、魔剣使いとの戦いになって勝つことができるのか……と。ならば他のメンバーに助けを求めるべきではないのだろうか。
冷静であるように努める。しかしその一方で、サクヤの死を引きずっている彼女は彼のために戦うしかないという想いがあった。
また正義感の強い彼女は、正常な判断ができなくなっていたのだ。それに、この
「また扉、ですわね」
その扉に手をかける。鍵はかかっていなかったようで、ガチャリと音を立てて扉は開く。
そして、カトリーナの視界に入ったのは──
「アイリス王女ッ!!?」
壁に吊るされるているアイリス。それに、その前にはカトリーナも知る人間がいた。
「……ドクター?」
ベルター=ブランシュ。
【
「あぁ。どうやら、辿り着いたのは君だけか。あの
白衣を着て、いつものようにニコリと微笑みかけてくる。しかしこの雰囲気は、あまりにも張り詰めていた。
さらには明確な敵対の意志を感じ取っていた。
「まさか、あなたが【|刀剣狩り《ファントム》】ですの……?」
問いかける。
それに対してベルターは歪んだ笑みを浮かべるのだった。
「ふむ。その推測はおおよそ正しい。しかし、今回の騒動は僕が中心になっているが、【|刀剣狩り《ファントム》】は僕ではないよ」
「……」
睨み付ける。
本当のことを言っているかどうかはわからない。信じるとするならば、【|刀剣狩り《ファントム》】は別に誰かがいるということだ。
一体これはどのような状況になっているのか。
カトリーナにはわからないことが多すぎたが、明確なことは一つだけある。
「アイリス王女は、返してもらいますわ」
スッとその聖剣を向ける。
サクヤに聞いたアイリスが攫われているという情報。その犯人は、ベルターなのはもはや明白だった。
「ふふ。あははっ! さて、【
こうしてついに、【
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