第24話 暴走
俺はグレンさんの元へと向かって、無事に
それを腰に差してから、丁寧に一礼をすると店を後にした。
「大雨だな……」
呟く。
今日の王国は大雨だった。
この土砂降りの中を歩いて帰るのは億劫だが、流石にすぐに戻っておくべきだろう。そう考えて、俺は傘を差してこの大雨の中を進んでいく。
傘に当たる音はかなり大きく、目の前はほとんど真っ白に見える。
視界に映るのは夥しい量の雨。この王国にやってきて初めて経験する大雨。流石に少し驚いていると、道に誰か倒れているのが見えた。
屋敷の前に横たわっている人間。よく見ると、それは学院の制服を着ていた。
「……あれは?」
近づく。そこに倒れているのは、ルーナ先輩だった。
「ルーナ先輩っ!!?」
そこに倒れているのは、ルーナ先輩だった。隣には無造作に投げ捨てられた傘がその雨を虚しく受け止めていた。
「先輩ッ! 大丈夫ですかッ!!」
悲痛な叫び。すぐに傘を投げ捨てて、先輩を抱き抱える。すると彼女は微かに唸り声を上げるのだった。
「う……うぅん……」
「先輩、何があったんですかッ!!?」
「あ、アイリス様が……攫われたの……」
「攫われたッ!!?」
──このタイミングで来た? やはりあの魔剣を狙って……?
思考が巡る。その間にも、ルーナ先輩はその声をなんとか絞り出す。
「サクヤ。攫ったのは、ベルターさんよ……」
「そう……ですか」
驚きはなかった。むしろ、そう言われて得心する。俺はすぐに彼女を屋敷へと運んでいくと、病院に連れて行くべきか迷う。
その一方で、すぐにアイリス王女を追いかけるべきだろうという思いもあった。
「サクヤ……私は大丈夫だから、行って……」
「でも……」
「元々は……私がサクヤに提案したのに……あなたがいれば、こんなことには……なっていなかったかもしれない……」
後悔。
それは、あの場所にいるのが自分でなければ俺だったならば……と。
そもそもはルーナ先輩が提案したことだった。どうせ襲われることはない。学院からの短い距離ならば、自分でも大丈夫。そう言って、提案した話だった。だというのに、アイリス王女は攫われてしまった。
その事実が、彼女の胸中を苦しめているのは間違いない。
だからこそ俺は──。
「サクヤ……ごめん。本当に、ごめんなさい。どうか……アイリス様を、助けて……」
涙を流していた。それは止まることなく止めどなく溢れる。両目から溢れるそれを拭うことなく、俯いてしまうルーナ先輩。俺はそんな彼女を抱きしめる。
「大丈夫です。絶対に、自分が助けてきます」
「ごめん……本当に、ごめんなさい……」
ギュッと強く抱きしめる。彼女は涙を流し続けた。
その後。俺は覚悟を決めて、屋敷を出て行った。俺が見た限り、ルーナ先輩は気絶していただけで大事には至っていなかった。
しかし、俺にはある懸念があった。それは屋敷にはバルツさんがいなかったのだ。
いつもは必ずいるはずなのに、いない。それはきっと、彼も何かに巻き込まれているのかもしれない。
それとも──。
「……」
駆ける。この大雨の中を傘も差さずに駆け抜けていく。すでに傘など必要はなかった。問題はどこに向かうべきなのか。
ベルターさんが滞在している病院の位置は知っている。それはあることを理由に、俺が念のために確認していたからだ。
まずはそこを目指すべきだろう。
そう考えて駆け抜けていくが……俺の目の前には、ある存在が出現する。
「……あれは?」
黒い霧のような塊。それは、決して何か特定の形をしているわけではない。吸い込まれそうな、その先には何もなさそうな、そんな黒い塊。
すると、その塊からは一気に黒い手のようなものが伸びてきた。
「──ッ」
流石にこれは尋常ではないと思って、腰にある
そして、一閃。
一気に抜剣すると、目の前に出現した黒い霧で構成された手を切り裂いた。
それは剣による一撃でパッと消失していくが、その黒い霧の塊は残存している。
──これが、
「増えてきたな……」
俺を狙っているのか、周りには
「ともかく、やるしかないか」
姿勢を低くして、彼はその
†
「ふぅ……終わったか」
剣を軽く振るうと、それを納める。
全ての
そもそも、視界だけに頼って戦うことはしない。すでに限りなく真の
全ての
そんな中、目の前には見知った人間が視界に入る。
「サクヤ……っ!? どうしてここにっ!? 今は緊急避難宣言が出ているはずですわよっ! ここは危険区域ですわっ!」
この大雨に打たれながら大声を叫ぶのは、カトリーナ嬢だった。彼女はたった一人、この場で
それも一段落ついたようで、彼女は聞き迫った様子で俺の方へ駆け寄っていく。
「状況は?」
「……そんなことよりも、避難すべきですわッ! ここはすでに、
冷静に尋ねる俺だが、カトリーナ嬢は動転していた。そもそも、この場にやってくる人間がいるとは思えなかったからだ。
「分かっています。すでに向こうにいる
「……片付けた?」
と、彼女は訝しい視線で俺のことを射抜いてくる。
「今はとりあえず、わたくしと一緒に逃げますわよッ! こちらはあまり
その手をつかんで、サクヤを引っ張っていこうとする。だが、俺がその場から動くことはなかった。
「アイリス様が攫われました。自分は彼女を助けます」
「攫われた……ッ!? もしかして、今回の騒動と関係が……?」
顎に手を当てて、思案する。彼女もまた、それが今回の件とは無関係とは思えなかったのだ。
「自分はそう思います。
自分の意見を話すが、俺には確信があった。間違いなく、この騒動の裏側には──【
「そうですわね……しかし、ここから先どうするべきか……」
と、二人で考えている瞬間。
カトリーナ嬢の後ろにいきなり黒い気が出現。それを捉えていたのは、俺だけ。彼女は僅かにだが、反応が遅れてしまう。
そして俺は思い切り彼女の体を押し出すことで、
「──サクヤッ!!」
悲痛な叫び。
俺はカトリーナ嬢と入れ替わるようにして、そのまま
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