第14話 因縁
月曜日。
再び学院での生活が始まる。しかし、どうやら今日はいつもと違って教室が騒がしいようだった。
「ねぇ聞いた?」
「うん。
「【
「だね。ちょっと怖いかも……」
そのような話が、教室内では広がっていた。誰もが
「
「一度だけ、ですね。あれは何というべきでしょうか。禍々しい存在……としか。こればかりは、会ってみないとなんとも」
「……なるほど。そうですか」
机に座って、いつも通り授業を受ける態勢に入る。そんな中、否応なしに入ってくる噂。
──
その存在が確認されたのは、魔法革命が起きたとほぼ同時。あまりにも強大すぎる力を持つその魔物は、最高危険度のSランクに指定された。
「見て、フォンテーヌ様よ」
「まぁ。彼女ならきっと……!」
「えぇ。彼女がいるんですもの。きっと大丈夫ですわ」
他の生徒たちはカトリーナ嬢の姿が見えると、その元に集まっていく。それはきっと
この王国に
「皆さん。落ち着いてください。
毅然とした様子で、彼女の凛とした声が教室内に響き渡る。
すると緊張感の漂っていた教室に、安堵感が生まれる。
その一方で俺はアイリス王女に別の話題を振る。
「アイリス様。【
「そうですね。私も変則的な形にはなりますが、【
「……なるほど。そうなのですか」
──【
と、一瞬だけ思案していると担任であるリア教諭が教室に入ってくる。
「はいはーい。
そして、生徒たちはぞろぞろと自分の席へと向かっていく。
その中でおそらく俺だけが気がついていた。
一瞬だけ顔を歪めているカトリーナ嬢の存在に。
一体彼女は何を思って、そんな表情をしているのか。それは俺には全く理解できなかった。
†
「それでは今日は、魔法の授業をしていきますね」
午後。
外の演習場に集合する生徒たち。午後の授業は、魔法専攻または
俺たち二人は魔法専攻を選択。
この授業の担当もまた、リア教諭だった。彼女は魔法に関してはスペシャリストであり、一時期はAランクギルドに所属していたと聞いた。その実力は折り紙付きだ。
「ではまず、一人一人の魔力を測っていきましょうか」
測定器をそれぞれの生徒に配っていくが、俺は冷や汗を流していた。
「あ、アイリス様……これは非常にまずいのでは?」
「そ、そうですね。でも、やらない……というわけにもいきませんし」
ついに俺たちも測定器を受け取る。そのガラスの管をじっと見つめるが、これに関しては力を抜く……ということはできなかった。
「すごい、すごい! フォンテーヌ様は97だって!」
「97!? 流石の【
「俺たちなんか、足元にも及ばないな」
「あぁ。やっぱ【
生徒たちが測定を始める中、アイリス王女もまた測定を開始。以前よりも少しだけ高い、92を記録。
そして記録をリア教諭へと伝える。そうしてほとんどの生徒が測定を終えるのだが、俺だけはまだ測定をしていなかった。
「えっと。後はシグレくんだけなんだけどな〜? その、大丈夫?」
ニコッと人の良さそうな笑顔を浮かべると彼女は俺のもとに近寄ってくる。
「えーっと……その。やってもいいんですが、壊れると思うんです」
「壊れる? それってどういう意味かな?」
「仕方ありません。やってみますね」
魔力を込める。すると次の瞬間には、パリンと音を立てて測定器は砕け散ってしまう。
「え……? 測定器が壊れた……?」
「すみません。前からずっとこうなるようで」
「特殊な魔力……じゃないよね。感じたのは普通のものだったし。とすれば、測定器が倒れないほど魔力が膨大ってこと、かな?」
そのように結論付けると、生徒たちには一気に動揺が広がっていく。
「測定不能?」
「そんなの、みたことある?」
「いや……ないな」
「それこそ、【
「まさか、アイリス王女の護衛なのは伊達じゃない……ってことか?」
「そうかも。もしかしたら、すごく強いのかも」
その声を切り裂くようにしてカトリーナ嬢は俺の方へと歩みを進めると、キッと厳しく睨み付ける。
「ふん。あまり調子に乗らないことねっ! 何も魔法師の力は、魔力だけではありませんことよっ!」
その言葉を聞いて、他の生徒たちも同調していく。
そうだ。仮に魔力が多いからなんだというのだ。カトリーナ嬢の主張を他の生徒たちも支持し始める。
刹那。ブワッと大きな風が生じるが、それはもちろん出力は抑えてあった。
「はいはい。皆、そこまでね。それでは授業を始めていきますよ」
「ねぇサクヤ」
「どうかしましたか、アイリス様」
授業が進行していき、それぞれの生徒が魔法を発動している最中。アイリス王女がそっと俺の側に近づいてくる。
「私はずっと味方だからね。大丈夫だよ」
優しく触れるその手はいつもと同じ温もりがあった。
「アイリス様。ありがとうございます」
自然な笑顔を浮かべる。二人の関係も、出会った当初から変わりつつあった。それはきっと、確かな信頼感が生まれているからだろう。
その後。
魔法の発動が終わったのだが、一番の成績を残したのはカトリーナ嬢。その次にアイリス王女。一方で色々と期待されていた俺は最下位だった。
「あっれ〜? おかしいねぇ。あれだけの魔力があって、魔法がうまく使えない? 私も初めて見る事例だねぇ……」
基本的には魔力が多ければ多いほど、魔法の威力は大きくなる。精度などは別にして、魔力が多いに越したことはない。
だが、俺は依然として魔法がうまく使えないままだった。
「シグレくん。
「はい。それでも、一番マシなのが
「そっかー。これは私も、ちょっと調べてみるね」
「すみません。お手数おかけします」
他の生徒たちは、カトリーナを中心にしてニヤニヤとサクヤを見つめる。もちろん全員ではないのだが、俺を軽んじている者が多いのは間違いなかった。
「よし。シグレくんの件は後にするとして、時間が余ったね。次の時間にようと思ってたけど、そうだね。模擬戦でもしてみようか。誰かやってみたい人はいるかな?」
リア教諭が呼びかける。
もっとも、これに応じるのは腕に自信のある生徒だろう。そして、スッと手を上げるのはやはり彼女だった。
「わたくしにやらせてくださいまし。他の生徒の模範となるように、いたしますわ」
「そうだね。で、相手は……」
リア教諭が誰かを指名しようかと考えていると、カトリーナ嬢は俺の方を向くとこのように言ってくるのだった。
「サクヤ。あなたがお相手をしてくださらない?」
「自分……でしょうか?」
カトリーナ嬢が指名したのは、なんと俺だった。これには生徒たちだけでなく、リア教諭も驚いているようだった。
そして彼女は俺に確認を取ってくる。
「シグレくん。無理なら、断ってもいいけど?」
「いえ。構いません。自分が相手をさせていただきます」
ここでどうするべきか、と少しだけ思案したが俺はその提案を受けることにした。
「アイリス様。構いませんか?」
「はい。サクヤ、あなたの力を見せてください」
こうしてなんの因果か、俺は【
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます