第19話 彷徨亡霊──レヴナント──
深夜。
蒸気が立ち込める時刻がこの王国には存在している。
それは蒸気と
もっともそれは、王国全体に発生する現象ではなく局所的なものだ。
しかし、問題は──それに伴って
対応しているのはSランクギルドである【
「へへ。今日こそは、
「あ、兄貴ぃ……本当に大丈夫なんですかぁ?」
「任せておけ。それに、俺たちは伊達にAランクギルドじゃねぇ。お前ももう少しシャキッとしろっ!」
「へ、へいっ!」
二人の男性。
彼らはAランクギルド所属のメンバーだ。その実力はもちろん、魔法師の中でも上位に入るのは間違いはない。上位ギルドに所属するには確かな実力が必要なのだから。
そんな二人は手柄を自分だけのものにしようとして、
まだ戦ったことはない。しかし、自分たちはAランクギルド所属である。その自信によってこの場にやってきている。
「へへ……やっとだ。今まで【
「そうっスね! 兄貴の言うとりっス!」
そして、二人で歩みを慎重に進める。今までペアでずっと魔物を狩ってきた実績がある。今回も同じようにできる。そう思い込んでいた。
しかし──
「ん? 兄貴、急に黙ってどうしたんスか?」
今までずっと話をしていたのに、急に後ろから声が聞こえなくなる。不穏に思って、後ろを振り向くとそこにいたのは……。
真っ黒なローブのようなものを羽織り、その顔は決して見えることはない。さらに特筆すべきなのは、纏っている漆黒の
今まではアンデッド系の魔物と定義されていたが、これは本当にそうなのか……? と、男は思った。
そして、その
「あ、兄貴ッ!!?」
その日の夜。
二人の魔法師が行方不明者リストに登録されることになった。
†
休日が明け、月曜日がやってきた。あれから
そして学院にやってくると、すでにそこでは俺とカトリーナ嬢の決闘の噂が広まっていた。
「ねぇ聞いた?」
「あの噂のこと」
「うん。何でも、フォンテーヌ様とあの護衛が戦ったんだって」
「でも護衛の方が負けたんでしょ?」
「そうそう。やっぱり、【
それは主に、カトリーナ嬢を称賛する噂であった。一方の俺といえば、この学院では悪い方で目立ち続けていた。黒い髪に黒い瞳。この学院では唯一の東洋出身。
さらには、あの
生徒たちの噂は一年生の間だけではなく、上の学年にまで広がっていた。
「あの護衛。魔法がろくに使えないんだろう?」
「あぁ。動きは悪くないらしいが、魔法師らしい戦い方じゃなかったらしいぜ?」
「それで護衛なのか? 本当はただの壁役とか?」
「はははっ! それは間違いないなっ!」
嘲笑されるのは、もはや当たり前のことになっていた。教室に行くまでの短い間であっても、その噂は俺の耳に入ってきていた。
いつものようにアイリスと共に教室に入ると、中にいる生徒の視線が俺に向かう。依然としてそれは、俺を軽んじているものに違いはなかった。
「何だか、日に日に酷くなってるわね」
「申し訳ありません。アイリス様」
「そういう意味じゃないのっ! もう……サクヤは本当に頑張ってくれているのに。周りはそれを分かってくれないなんて」
ボソッと漏らすその言葉。
それに対して、俺はニコリと柔らかい笑みを浮かべるのだった。
「アイリス様。大丈夫です。自分はあなたに理解されているだけで、十分なのですから」
「サクヤ……」
熱い視線が交わされる。
そうしていると、俺の目の前には彼女がやってくるのだった。
「サクヤ。この前はどうも」
「フォンテーヌ様。この前はとてもいい経験になりました。ありがとうございました」
立ち上がると、彼女に向かって一礼をする。その丁寧な所作を見ても、彼女が満足することはなかった。
あの決闘の真実。それを彼女は知りたいのだろう。
「はい。みんな席についてね。今日も授業を始めますよ」
予鈴が鳴り響く。カトリーナ嬢は俺に何かを聞きたかったようだが、タイミングが悪かった。そのまま、「ふんっ!」といいながら彼女は自分の席へと戻っていた。
その際に俺はこの前と同じように、カトリーナ嬢の聖剣に対して視線を注ぐ。
──【聖剣──不滅の
俺のその分析は的を射ていると思っている。
本来ならば、【
しかし、俺は十分に肉薄し戦いを繰り広げることができた。
それは別にカトリーナ嬢が加減をしたわけではない。彼女はまだ、【
情報は大いに越したことはない。俺はそう考えていた。
授業も無事に終わり、放課後となった。俺たちはすぐに帰宅しようと思い、そのまま学院を出ていこうとする。
その際に生徒たちが何かを囁いているのが聞こえてきた。しかしそれは、俺の噂などではなかった。
「どうやら、
「そうね。今まではこんなことはなかったのに……」
「そうなのですか?」
俺がそう尋ねると、アイリス王女はその質問に答える。
「えぇ。
「そういえば、アイリス様は
「はい。その時は【
「……そうですか」
深く追求したいところではある。
特に、【
だが俺は、自分に冷静努めるように言い聞かせる。
──落ち着け。ここは不用意に、探りを入れるべきではない。まだ時間はある……。
アイリス王女のあの発言。彼女は何か知っているのかもしれない。だからこそ、まだ不用意な行動は慎むべきだろう。
そして俺はすぐに話題を切り替えるのだった。
「もう少しでテストが始まるようですね。アイリス様は授業についていけてますか?」
「ふふんっ! 私は優等生なので、大丈夫ですよっ!」
胸を張って、自分はできるのだということをアピールするアイリス王女。そんな彼女の姿を見て、思わず俺は笑ってしまう。
「ふふっ……」
「ちょっと、どうして笑うのっ!?」
「すみません。アイリス様が可愛らしくて、つい」
「可愛いっ……! ふ、ふ〜ん。ま、まぁそう思ってるんならいいけど? ふふ」
金色の髪を指にくるくると巻きつける彼女は、少しだけ顔が赤くなっていた。
学院に慣れてきた俺たち。
しかし、こんなささやかな日常がずっと続くわけはなかった。
【
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