第11話 洗礼と入学式
「あらあら。どうやら、田舎者であるあなたは、このわたくしのことをご存知でないというの?」
再び髪を後ろに流すと、彼女はその豊満な胸を張るようにして俺の前に立つ。
身長は俺の方が上だが、その視線は明らかに見下していた。
「【
毅然とした態度で応じる。この国の最低限の知識は、ルーナ先輩から教えられている。
そのため、すぐにその問いには答えることができた。
「まぁ、ご存知だったのね。しかし、あなたのような方にも知られているとは、流石の【
近づいてくると、彼の胸にトントンと人差し指を強く当てる。
今回のこれは、いわば見せしめのようなものだろう。
外国出身の人間にこの魔法学院で調子に乗らないようにと、わざわざ釘を刺しに来た……というところだろうか。
「はい。心得ております」
恭しくその場で一礼。それを見て満足したのか、彼女はそのまま去っていくのだった。
「それにしても、あなた……
「はい。これが一番使いやすいので」
「ふん。それが飾りではないことを、祈っているわ。では、失礼」
踵を返す。
オレンジ色の髪を靡かせスカートをふわりと浮かせて翻ると、校舎へと進んでいく。彼女の後には取り巻きだろうか、数多くの生徒がついていくのだった。
──あれが、【聖剣】か。なるほど……。
カトリーナ嬢の腰に差している【聖剣】を見つめる。【聖剣】に限らず、【
そのような背景もあって、やはり
だからこそ東洋出身である俺がそれを持っているのが、気に食わないようだったが……。
「サクヤ……その──」
アイリス王女は明らかに落ち込んだ様子で話しかけようとするが、それを遮る。
「いいのです、アイリス様。こうなることは初めから分かっていたのですから」
「……その通りね。では改めて、行きましょうか」
「はい」
そうして二人で入学式へと臨むのだった。
†
「諸君。入学おめでとう。この王立フレイディル魔法学院に新しい魔法師達がやって来て、嬉しく思う」
入学式がさっそく開始される。壇上で挨拶をしているのは、この学院の長である学院長だ。
年齢は五十代なのだが、実際はもっと若く見える。金色の髪をオールバックにして纏めて、黒のスーツに身を包んでいる。
そして、渋みのある声で彼は挨拶を続ける。
「魔法革命が起きた我が国は世界最高の大国となった。しかし、それと同時に魔物の活性化。さらには
それは、魔法革命が起きたと同時に出現した謎の魔物。アンデッドの一種とも言われている。その強さは、並の魔法師では対抗はできず、上位の魔法師が対処しているのが現状という話だ。
「魔法は技術を進めるためにも欠かせない。そして、この王国を外敵から守る上でも重要なものになる。君たちの進路は、まだ分からない。しかしどの道に進むことになろうとも、この王国のために尽くしてくれると信じている。以上だ」
短めの挨拶で締めると、
そんな中、俺はあることを考えていた。
──
そうして入学式は無事に終了し、次は各教室でのガイダンスとなる。
「わかってたけど、私たちは同じクラスね!」
「はい。改めて、よろしくお願いいたします」
「えぇ。サクヤが一緒でとても嬉しいわ!」
ニコニコと隣で笑うアイリス王女を見て、俺も微かに笑みを浮かべる。もちろんここに来るまで、いや現在もだが俺たちは敬遠されていた。
周りからはヒソヒソと俺たちのことを噂している声が聞こえてくる。
──どうやら、カトリーナ=フォンテーヌも同じクラスか。これは色々と一悶着ありそうだな……。
そんなことを考えながら、教室へと向かう。黒板にはすでにそれぞれの席が書いてあり、ちょうど二人の席は窓際の一番後ろの席だった。
その隣に並ぶようにして席に着くと、続々と生徒たちが教室に入ってくる。
そんな中で注がれる視線。しかしこれにも、慣れる必要があるのだろう。
「あらあら。どうやら、同じクラスになったようですわね。改めて、よろしくお願いしますわ。アイリス王女」
「えぇ。こちらこそ、よろしくお願いします」
一見すれば、カトリーナ嬢はアイリス王女に対して敬意を払っているようにも思える。実際のところ、軽んじているわけではないのだが、カトリーナ嬢が注目しているのはやはり……。
「そういえば、お名前を聞いていませんでしたね。護衛のあなた、お名前は?」
俺の名前を聞くことをすっかりと忘れていたのか、彼女はそう尋ねてきた。
「シグレ=サクヤでございます。フォンテーヌ様」
「ふーん。シグレ=サクヤ、ね。サクヤと呼んでも?」
「はい。構いません」
「……まぁいいでしょう。これからよろしくお願いしますわ」
「こちらこそ。よろしくお願いいたします」
俺は握手でも交わそうと手を伸ばそうとするが、敢えて無視するとカトリーナ嬢は自分の席へと向かうのだった。
ただ虚空に向かって差し出されたその手を見て、周りの生徒はクスクスと声を漏らす。
──なるほど。どうやら、ルーナ先輩の忠告以上の環境のようだな。
現状を冷静に分析すると、そのまま着席。すると隣からはアイリス王女の申し訳なさそうな視線が向けられていた。
「サクヤ……私のせいで、あなたには……」
「アイリス様。自分でしたら、大丈夫ですので」
「それなら、いいのだけれど」
釈然としないようだが、俺がそう言っているので納得した素振りを見せる。
そうして生徒が全員集まってから数分後。
教室の中に入ってきたのは、真っ黒なスーツを着こなしている女性だった。
「はいはーい。このクラスの担任になりました、リア=クレマーと言います。みんな、よろしくね」
まずその印象は、若いという一点に尽きるだろう。
リア=クレマー。
翠色の髪をしており、髪型はそれをポニーテールにして纏めている。顔つきは若いということもあって、少しあどけなさが残っている。
また腰に差している
「うんうん。みんな、緊張しているみたいだけどすぐになれるよっ! 何か悩み事があれば、なんでも相談してねっ!」
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