第12話 二人の時間
フレイディル王国ではある都市伝説が広まっている。
曰く、【
深夜。霧と蒸気の立ち込める濃霧の時に姿を現し、【
もっとも、本当に【
人間、はたまた
そして、その存在は──【
†
入学式の翌日。授業が開始されることになった。
「では今日は、魔法とこの世界について授業を行きますねっ!」
黒板の前で、ニコッと笑顔を浮かべるとさっそく授業を始める。
一年生の授業スケジュールとしては、午前中は共通授業であり、午後からは選択授業になっている。
選択授業では、【魔法師】または【魔法鍛冶師】のどちらかを選択し、二年生からは一つを専攻していくことになる。
「まずはそうですね。皆さんも知っていると思いますが、魔法とはこの
担任であるリア教諭は快活に授業を始めた。彼女は容姿も良い上に、授業も上手かった。
そのため男子生徒だけでなく、女子生徒からも人気をすでに集めていた。
俺もまたその話を真剣に聞き続ける。現地の言葉は、まだ聞き慣れないが以前ほどは苦ではなくなっていた。
それもこれも、全てルーナ先輩のおかげだった。彼女の教育は確かに、俺のためになっていたのだ。
「はい。それでは、魔法に関してはここまでですね」
古代魔法、近代魔法、現代魔法。
中でも現代魔法である
その話が出た瞬間、視線は俺に振り注がれた。
このクラスでは、
やはり
そんな彼女と同じ
そんな俺に降り注がれる視線は、依然として厳しいままだった。
「……ふんっ」
カトリーナ嬢は敢えて俺をチラッと見ると、軽視するような目線を送ってくる。
「はいは〜い。みんな落ち着いてね〜。じゃあ、次はギルドについて話していきますねー」
パンパンと手を叩くと、視線を再び集める。リア教諭はやはり、授業の展開の仕方が上手いなと改めて思うのだった。
「ギルドは、魔物に対抗する組織です。この魔法学院の進路は色々とあるけど、ギルドに入るのは一つの目標でもありますね」
黒板にチョークで勢いよくギルドについて書いていく。
「ギルドは、功績に応じてF~Sランクに割り振られます。その中でも、みんな知っていると思うけどSランクギルドは【
ギルド。
それは主に、魔物に対抗する組織である。近年魔物の活性化は激しくなり、ちょうど百年前に設立されたのがギルドだったという話だ。
「魔物も同じように、F~Sランクに分類されます。そして、魔法革命が起きたと同時に出現したのが──
彼女がそう言葉にすると、生徒たちには緊張が広がる。
魔物の中でも現在、最上位に位置するのが
もっとも対抗しているのは、【
「ふん。当然ですわね」
そう言葉を漏らすのは、カトリーナ嬢だった。彼女は何度かすでに、
周りにいる生徒たちは、そんな彼女を尊敬の眼差しで見つめる。
「すごい……流石、フォンテーヌ様だわっ!」
「あぁ。俺たちとは次元が違うな……」
「同じクラスで本当に嬉しいですわ」
彼女は、周囲から賛辞の声に満足していた。それはその表情を見れば明らかだった。
「ふふ。皆さん、わたくしのことをよく分かっているようですわね」
流石にざわつき始めたので、リア教諭が改めて全員の注目を集めると授業を再開する。
「最後に魔法革命についてですが──」
その後。授業は終わりまで静かに進んでいくのだった。
昼休み。
変わらず俺たちには厳しい視線が注がれるが、気にしないようにして教室の外へと出ていく。
俺は右手に包まれている弁当箱を持ってきていた。それは朝に準備したものだった。
そうして二人で向かうのは、屋上。
ここは人が少ない上に目立つことはない。そうルーナ先輩に聞いていたのだ。
「うわぁ……広いですねぇ」
扉を開けた瞬間。一気に風が吹き込む。
後ろへと靡く金色の髪を抑えながら、アイリス王女はこの王国を見渡していた。
俺もまた、彼女の隣に並び立つとじっとこの広い世界を見つめる。
立ち込める蒸気とパラパラと空に
そんな風景を見て、改めて思う。
──あぁ。俺は本当に王国にやって来たんだな、と。
「ねぇ、サクヤ! とっても広いわねっ!」
「はい。アイリス様」
そうして二人で近くにあるベンチに座ると、昼食を取り始める。
「もしかして、これはサクヤが作ったの?」
「そうですね。ルーナ先輩に少し手伝ってもらいましたが、アイリス様のためということで頑張ってみました」
ろくに料理をしたことはなかったが、ルーナ先輩に料理を教わるとアイリス王女のために準備をしたのだ。
「ありがとう。とっても嬉しいわ」
柔らかい笑みを浮かべる。それは心からの感謝しているように思えた。
弁当の内容はオーソドックスなものだった。卵焼きにウインナー、それにサンドイッチが入っている。
「うわぁ……何だかこれは可愛らしい形をしてるわねっ!」
そのウインナーは、足が生えているような形をしていた。それは俺がそのようにカットをしたのだ。
「はい。自分の故郷ではこのような形にするのが、よくありまして」
「そうなんですねっ!」
そして、アイリス王女は俺が作ってくれた昼食を嬉しそうに頬張っていく。食い意地の張っている彼女は、途中で軽く咳き込んでしまう。
俺はそんな様子を見てすぐに水筒を差し出す。
「アイリス様。お水をどうぞ」
「んっ! ん……ごく……ふぅ。ありがとう、サクヤ。ちょっと急いで食べすぎたわね」
「はは。ゆっくりと食べてください」
俺もそうして、自分で作った弁当を食べ始まる。俺の弁当は少し形が歪なものだった。それは失敗したものを自分の弁当に詰めたからだ。
それを見られないように、ササっと食べ終わると改めて向き合うのだった。
「ねぇ、サクヤ」
「なんでしょうか」
この王国を背景にしてその場でくるりと翻る。後ろに手を回すと、彼女はじっとこちらを見つめてきた。
「護衛……大変でしょう? まだ戻れるわよ、サクヤ」
真剣な眼差し。それを俺もまた、じっと射抜くが依然ととして考えは変わることはなかった。
「大丈夫です、アイリス様。この程度でしたら、問題はありません」
「これがずっと続くかもしれない。私がいるせいで」
「自分の容姿などで色々と言われているようですし、今更ですよ」
近づいていくと、そっと震えている彼女の手を優しく包み込む。
「アイリス様。自分は離れて行ったりしません。だから安心してください」
「……分かりました。もう、このことこれ以上は言いません。これからもよろしくね、サクヤ」
「はい。こちらこそ」
世界最高の魔法の大国にやってきた俺に待ち受けていたのは厳しい現実だった。しかし、俺の意志が揺らぐことだけは──決してなかった。
たとえそれがどれだけ過酷なものであろうとも──。
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